僕と僕
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@suzuki071945
プロローグ
「あーあ。はぁ・・・」
会社員の中居は昨年引っ越したボロボロのアパートに帰宅するところだった。暖房も故障、お湯が出るまで10分も掛かる。隣の住民は夜に爆音で曲をかける。正直、気が休める場所なんてどこにもなかった。本当に寝たいときは、ネットカフェで一泊する方がマシなくらいだ。
今日は雨が凄かった。雨が固いコンクリートに当たって、中居の足音が全く聞こえないくらいだ。中居は部屋の前に着き、鍵を差し込んだ。すると、下側から何か視線を感じた。恐る恐る下を見ると、ベチャベチャな服を着た、一人の男の子がそこに体育座りして、こちらをじっと見ていた。
「僕、どうしたの?」
「・・・」
返事はどころか、首すら振らなかった。中居は困った。この男の子を中に入れてあげるか、それとも外に出したままにするか。決断は、すぐ決めた。
「ほら、おいで。」
男の子はスッと立ち、当たり前かのように玄関に入っていた。
ここから、少し不思議な男の子との生活が始まった。
一章 始まり
中居は男の子に温かいココアを差し出した。机に置くと、すぐに手に取り、コップからじんわりと感じるココアの温もりで、寒さでしゃっこくなった手を温めていた。男の子はゆっくりココアを飲み、ふぅ。と一息ついた。
「僕、どこから来たの?」
「知らない・・・でも、おじさんのこと、知っている気がする。」
知っている・・・。じっと男の子の顔を観察し、今まで会ってきた人の顔と照らし合わせてみた。しかし、そんな人は記憶の中にはいなかった。
「おじさん・・君のことは初めて見たよ?」
「とにかく、僕は知っている」
そんなことがあるのだろうか。中居はとても不思議に思った。突然男の子がボソっと、
「眠い・・・」
中居はすぐにお客様用の布団を用意した。なんでわざわざガキの為に・・・と正直な心境だった。
「ほら、僕。とりあえず、外寒いからここの布団で寝な?」
会釈程度のお辞儀ですぐに、男の子は床についた。数十分後に男の子はスヤスヤと寝息を立てて、寝ていた。今日は、この男の子に気になっていた。しかし、何か、心に引っかかる感覚があった。
あれは、小学校4年生のことだった。中居が目を開けたら白い天井や、ピッピッと言った機械音がするところで目が覚めた。感覚が戻ってくると、全身痛くて、声も出ない。指先一本も動かすことが出来なかった。とにかく恐怖だった。やっと眼球を動かすことが出来ると、母親が心配そうにこちらを見ている。親は中居に意識が戻ったことに気が付き、ナースコールを押して、医師を呼んだ。医師が来るとライトを目に当てて、瞳孔を確認した。
そのあと、とにかく沢山のリハビリを頑張った。今では何の支障もなく生活できている。しかし、一つだけリハビリではどうしようもないことがあった。それは、中居が昏睡状態になったのは二週間前だった。でも、その前の三か月の記憶が全くなかった。中居がどうして病院に入院しているのかわからなかった。親からは交通事故だと聞いた。その頃は納得した。しかし、この男の子を見ていると、妙に中居の小学校時代と顔のパーツが似ている。更に、中居が記憶を無くした三か月はちょうどこの時期だった。なにかが心の中で、一直線上に並んだ。中居はふと、もしかしたら昔の自分じゃないのか、と考えた。そんなことを考えていたら、すっかり寝ていた。
今日は休みの中居。あの男の子は起きて、勝手にテレビでニュースを見ていた。そんな男の子を横目に、コーヒーを作って新聞を広げた。この男の子について書かれた記事は無かった。テレビでもそんなニュースは流れなかった。
「おじさん。今日、気を付けて。」
突然、男の子は振り返り、中居に言ってきた。
「何に?」
「お金、守っておきな?」
「は?」
怖い。何か予言的なことを言っているようだ。まあ、所詮ガキの言っていることだ。気にしているのもおかしいな。と中居のなかで解釈した。
まもなくお昼になるところだ。ここまでの時間、トイレ以外全く動こうとしない。すると、家のチャイムが鳴った。
「宅配便ですー。」
何も思い当たりがないが、とりあえず出てみた。宅配便が箱を差し出してきた。内容物はわからない。しかし、危険と思ったのは、本当に見当がつかず、直払いということだ。しかも、値段が20万という不思議な金額だった。そのとき、ふと気が付いた。あの男の子が放った、気を付けて。や、お金を守れ。などの言葉が中居のなかでグルグル回った。その言葉を信用して、受取りを拒否した。宅配便が帰ったあと、男の子は冷たく、
「よかったね。」
といった。ありがとう。とだけ言って深く考えてみた。もともと、何故この男の子はわが家に来たのだろうか。深く考えても、本当に見当がつかないのだ。さすがにここまで行くと、恐怖すら感じる様になってきた。しかし、男の子は中居の気持ちに目もくれず、まるで今まで通りの生活かのように過ごしていた。
男の子が家に来て、約一週間経過したのだろうか。男の子とは少しながら、会話ができるようになってきた。
「僕。おうち、どこなの?」
「僕?小樽の、朝里温泉通りの町工場だよ。」
奇遇よりも、もっと凄い奇跡が起きていた。中居の出身は小樽の温泉通り出身だった。昔は空気の澄んだ、心地の良い街だった。今となっては、高速道路など近代化が進み始めていた。観光客等への宿泊施設も多く佇み、意外にも活気溢れる街に変貌している。でも、そんなところをピンポイントで答えが返ってくるとは・・・。やはり、昔の中居なのかもしれない。今の拠点は札幌だが、札幌という北海道の中心地で賑わっている。寒い北海道の朝は、どこか凛とした空気がそこにはあり、通勤、通学でせわしなく動き続ける人の波を包み込んでいた。列車の音も、歩く音も、車の排気ガスの臭いも、全てが清々しく思う朝を新聞、コーヒーを持ちながら、ボロボロアパートで不思議な男の子と過ごす、穏やかな朝だった。
二章 空気
中居は男の子が、自分に対して、心を開き始めていると実感した。お互い、何も言わなくても生活リズムを理解している様子だ。中居はそんな男の子にいい居住空間を提供したいと思い、歯ブラシや、専用のコップなど、生活必需品を購入した。カレンダーを確認すると、もう一か月も経過していることが分かった。時の流れを感じた。
「なんか、今更だけど・・・。名前は?」
「中居 雅夫」
なかい まさお・・・中居は信じられなかった。中居自身と同姓同名なのだから。と、言うことは、中居が記憶を無くした三か月の期間は、今目の前で再生されている。ということになった。ならば・・・いつか病院へと送られる運命なのだろうか。そう思うと、なかなか信じたくない気持ちがふと、感じた。
中居は、男の子に話しかけた。
「今日、ドライブに行ってみないか?」
「ドライブ?構わないよ?」
二人の中居は、車に乗り込み、走り出した。走りだして、一時間。男の子は右側の窓を見て、きらきらした目をしていた。それは、オロロンラインという道を走っていたからだった。オロロンラインとは稚内から函館までの海岸線を走る国道の愛称的なものだった。道民は稚内から、小樽までの道のことを指すことが多い。この道は小樽方面に向かう道中、右側には常に海が見えている。男の子はオロロンラインのから見える、美しい石狩湾をじっと見つめていた。そしてしばらく快調に車を走らせると、小樽市街地が見えてきた。信号で左折すると、一気に山の中に入った。山の中、といっても高速道路のインターチェンジがあるような広大な場所だった。男の子は何かに気が付いたようだ。そう、実はこの道は朝里温泉通り。中居はこの男の子が自分の少年時代と、疑ってから、この男の子をここへ連れていきたい。と思っていたのだ。しばらく、くねくねする道を走ると、左手側に大きなホテルが見えてきた。今日は、実家を通り過ぎて、この広大な山の中に佇む、リゾートホテルに宿泊するつもりだ。男の子は客室に入るまで、終始、周りを見渡していた。自動で動くグランドピアノ、ロビー内の噴水、男の子にとって初めてのものなのかもしれない。客室に入るなり、長旅に疲れたのか、大きなバベッドに大の字で寝そべり、足をパタパタしていた。中居もテレビをつけて、椅子に腰掛け、肩を回した。二人は意外にも充実した時間を過ごした。ホテル内のテニスをしたり、温泉に浸かったりした後、ディナーとしてバイキングを堪能した。客室に戻ると、もう夜は更けていた。窓を開けると、ホテルの向かえにある別荘群の焼肉の匂いがする。しかしお腹いっぱいで、逆に吐き気がした。すぐに窓を閉め、二人の中居はすぐに寝てしまった。
翌日、先に男の子が目を覚ました。窓を開けると、霜が降りて、爽やかな空気が体を包んだ。この空気が心地よくて、部屋のバスタオルを持ち出した。そして、早めの朝風呂に行くことにした。浴室に到着するなり、すぐ露天風呂に行き、温泉に浸かった。一つ、深呼吸をするとゆっくりと朝日が男の子を照らした。たった一人の露天風呂で、まるでワンステージの劇をしている気持ちになった。すると、自然を涙が出た。何か男の子の中で忘れかけたものが、突然出てきたように。周りの空気と一体化したようにふわっと心が軽くなった。そんな時間を過ごしていると、中居が露天風呂に姿を現した。
「おはよう・・。早いね」
中居が、朝独特のガラガラ声でしゃべった。二人で風呂から上がって、客室で準備をしてチェックアウトした。互い、同一人物ということを忘れそうになった。傍から見ると、仲睦まじい親子のようだ。同じ人だから、曲の趣味が一緒だった。帰りの車では昨日よりも海が近くなったオロロンラインを走り、ラジオの曲に耳を傾けながら、ノリノリで帰った。
でも、この旅は実家に帰るわけじゃなかった。中居はこの北海道の小樽という地の空気が一番良いと思っている。だから、この大好きなこの空間を一緒に共有したかったのだ。男の子が、一人露天風呂で泣いていたとき、中居は内浴場の窓から男の子の複雑な感情を男の子の背中でひっそりと感じていた。
それから数日が経過した。まるで本当の親と子の関係のように朝を過ごし、昼は別々にお互いに時間を使い、夜は一緒にご飯を食べる。といった、生活のルーティンになっていた。なんとなく、この生活に幸せを感じつつ、楽しんだ。男の子も最近、家事を手伝ってくれて、中居自身、とても楽になった。でも、中居には分っていた。いつか、終わりが来ることを。中居が経験したことをこの子も同じ経験をすることになる。そして、いつしか終わらせない方法を考え始めた。どうしたらこの幸せな時間を続けることが出来るのだろうか。中居はまた余計なことを考え始めた。人間は常に、考えて行動する。始まりには、終わりは直結する。一直線上に存在する終始の地点。これはどうしても変えることはできない。幸せも、苦しみもいつか終わる。そして新たな感情が芽生える。このループこそが人間の原動力となると。新しい何かを始めるとき、気持ちから変えることが行動することの第一歩になると。じゃあ、今回はどうしたらいいのか。いつか終わりがくる。ならば、わかっている終わりまでをもっと色濃いものにすればいい。もっと楽しんで、一分一秒を大切に心地の良いものをつくり上げる。これしかない。そう考えた。残りの日数を一生懸命楽しむことにした。
最終章 消える
中居はドキドキした。何故なら、まもなく三か月というリミットが来ていることが分かったからである。男の子はいつもと変わらない表情だった。
「少し、散歩してくるね」
いつも男の子は30分程、散歩を日課としている。
「いってらっしゃい。」
いつもと変わらない一日の始まりだった。中居も新聞とコーヒー。清々しい朝の始まり。だと思っていた。
いつも帰ってくる時間に帰ってこない。なんとなく、心から不安になり、気づけば、2分に一回という、早いペースで腕時計を確認していた。中居は、居ても立っても居られなくなり、玄関を出て、男の子の歩く順路を走った。走っている道中、中居は心で決心していた。もし、今日が最後の日でも絶対、後悔はしないと。大きな交差点に差し掛かった時、背中を大きく上下させて、息を荒げている男の子が横たわっていた。近くには自転車と思われるタイヤの跡。頭の周りには血だまりが出来ていた。よく見ると、あの、中居だった。男の子だった。目をうっすらと開いて、中居を確認するなり、何か喋ろうと口をパクパクさせていた。中居は救急車を呼んで、ずっと近くに居た。苦しそうな男の子を見て、救急車の到着が遅いと苛立ちが隠せなかった。救急車が来るなり、担架に乗せられ、中居も同伴し、総合病院に向かった。病院に着いて、すぐ手術室に運ばれた。中居が貧乏揺すりをしながら、両手を強く結ばせて、終了を待っていた。
あれから何時間が経過したのだろうか。中居のシャツには脇汗で色が変わり、背中も汗をかいて、臭かった。途中看護師の方が見かねて、水をくれたが、一口しか喉を通らなかった。まるで、負けたボクサーのような体勢で待っていると、手術医が戻ってきた。無事に終了の知らせを聞いて、ICUに向かった。そこでは、ピッピッという機械音。口に沢山の管が通っていた。あ。あの時の僕だ。その時一気に記憶が蘇った。僕が小学校4年生の時、両親と意見が合わず、函館本線を使って、札幌まで来て、雨のせいで寒くなったからアパートで雨宿りしたとき、大人に助けられた。しかし、小樽のホテルにはいっていないことに気が付いた。中居はこの男の子に僕と違う体験をさせることが出来た。この男の子はもう大丈夫なはず。中居があの後、親と話せたように、同じようになるはずだ。だから、もう大丈夫。中居の心のなかには、切なさよりも今は感謝が強かった。ありがとう。もう二度とこの男の子とは出会えないはず。自分がそうだったから。でも、自分がここまで大きくなれたから、ちゃんと大人になれる。今より立派になったほしい。その気持ちでICUを出た。病院の白い廊下は、夕日に照らされ、とてもまぶしかった。廊下がずっと続かのような、先の見えない長い廊下。幸せはいつか終わる。そんな教訓が、中居の心の一つとして残った。
家に帰ったえら、男の子のいた形跡が新鮮に残っている。あの時買った男の子専用歯ブラシ。コップ。それくらいしか買ってあげることしか出来なかったことに、非常に後悔した。一人寂しいボロボロアパートで酒を飲んだ。たった缶ビール一杯だけだが満足した。苦しい気持ちはついてきているが、これからこの苦しさと一緒に付き添って生活する。中居は決めた。絶対にこの三か月を忘れない。あの時、無くしてしまった心のアルバムの中の、一ページに継ぎはぎでもしっかり貼り付けることにしよう。すべてのことは奇跡の連続だ。そのこともしっかり覚えていよう。気づけば、地球を照らし続ける太陽が、札幌の街も照らし始めていた。凛とした空気は、なぜか、男の子の匂いがした。
エピローグ
男の子を最後にみて、男の子の訃報の知らせを聞いたのは、数日後の話だった。あの子は、精いっぱい生き抜いたはず。きっと今、中居が生きているのも奇跡の連続に過ぎないのかもしれない。どんな生活でも始まりと終わりがある。きっと男の子は、人生という奇跡の連続の終結が、ただ、早かっただけなのかも知れない。人はいつか終わりを迎える。人生のエンドは時に任せてほしい。自ら死のうとか、無理やりエンドを迎えないでほしい。この言葉が一人でも多くの人に伝わってほしい。そして、生き抜いてほしい。誰かが突然いなくなっても、苦しくても、自分の人生のエンドに向かって、色濃いものにしてほしい。きっと幸せがくるはずだから。
注釈
・しゃっこい→北海道弁で、冷たい
・朝里温泉通りのホテル→朝里クラッセホテル(イメージ)
・集中治療室は、病院内の施設の一種。呼吸、循環、代謝その他の重篤な急性機能不全の患者を24時間体制で管理し、より効果的な治療を施すことを目的とする部屋。
こんにちは!鈴木湊です!
今回の作品は自分自身の中学校卒業記念作品?的な配置です!笑
実は自分の小説は今では母校となった学校の生徒会の方々にもご覧いただけていることもあり、今回の小説は相当本腰を入れての投稿となりました!
特に、受験等があり、まったく小説の原稿が書き下ろせない状況で、出来たネタもすぐ忘れる。なんてこともありました。ですが、今回の作品が自分が今まで、この義務教育でたくさんの人と関わりあえたことに感謝しつつ、自分の気持ちを一部、わかりやすく入っております。笑
小学校、中学校とたくさんのことがありました。僕の小説は学校問題関係を多く取り扱うこともあり、これまでの経験をさらに活用して、この先の小説活動へ努力してまいります。
これからも、どうぞよろしくおねがいします!
いつか、本。出してみたいですねー。後書きで、「編集局の〇〇さん。ありがとうございました」とか書いてみたい!笑笑