目で見て感じたことが現実であり、はじめて認識となる
ホテルは元々、亡くなった叔父の所有物だった。当時、一番親交が深かった私に叔父は遺言としてホテルの所有権を譲渡するよう親族に指示したらしい。
正直、私はホテルなんかよりも金銭的なもっと明確に価値が分かる物がよかったと思っていた。
しかし、叔父の残した財産ということで、もしかしたら何か価値があるものが隠されているのではと期待に胸を膨らませ、遺言に記された住所に行きホテルを見つけた。
そこにはまるで忘れ去られ風化寸前の遺跡のようにひっそりと建つホテルがあった。
「HOTEL ハーデンベルギア」
子どもの抜きかけの乳歯のようにぶら下がる看板を見て私は理解した。
”普通じゃない、ここにはなにか居る”と。
だが勇気と無謀は紙一重というように、私は無謀にもそのホテルの敷地に足を踏み入れた。一歩、一歩と
ひび割れた石段を登った。
登りながら私は、この場所が数十年は放置されていたとわかった。
崩れかけの看板、ひび割れた石段、錆びてボロボロになった柵、割られた窓ガラス。時折聞こえてくる
建物がきしむ音。おそらく、耐震補強もされていないだろう。
ホテル正面入り口に立った私はドアをノックしてみた。自分でもなんでこうしたかわからない
誰も住んでいなければ普通はこんな風にはしないはずだが、なぜだか私はドアをノックして
しまった。