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Confidence.5 -決意-

「さあ、かかってこいよ! 戦いの始まりだ!」


 彼は手招きして僕を挑発してきた。

 どうする、戦うか? 逃げるか? いや、怖くて足が動かない! とりあえず迎撃態勢をとって……。


「来ないならこっちから行くぜ!」


 僕があれこれ考えているうちに彼は一気に間合いを詰めてきて、右から左、左から右へと殴るように剣を振るった。攻撃が身体に当たるたびに衝撃が走り、大きく態勢を崩される。そしてそれを整える暇もないまま、また次の攻撃が僕に襲い掛かる。

 くそっ、防戦一方で反撃ができない!


「つまらねえなあ、こんなもんかよ!」


 濃い緑色に光らせた剣から放たれた衝撃波は僕に直撃した。たまらず後ろに吹き飛んで倒れてしまう。痛みが体中にジンジンと伝わってくる……これは効いた。

 このままじゃやられる! せめて僕にも何か武器があればいいのだが。あ、そういえばあの時──。


「ルタ、ガラスセイバーって武器ない?」


「あるけど……なんで知ってるの?」


 やっぱりあったか。よし、あれがあれば勝てるかもしれない!

 僕は立ち上がると天に手をかざして力の限り叫んだ。


「ガラスセイバー!」


 僕の声に呼応して眩い光とともに6つの短い刃が繋がったような長剣が現れた……目の前に。僕はそこに出るものと思って突き上げていた腕をゆっくりと下ろして、そっとガラスセイバーを手に取った。……恥ずかしい。

 気を取り直して、ガラスセイバーの柄を両手でしっかりと握って態勢を整えた。


「そんなもの持ってたのか。ほら、来いよ」


 彼は動じることなく再び僕を挑発してきた。今度はその挑発に乗ってやろう。スピードなら僕だって負けないはずだ。

 地面を蹴り飛ばして自分でも驚くほどのスピードで彼のもとまで飛んでいった。そしてその勢いに乗せてセイバーで一閃した。

 ガキンという金属同士がぶつかり合ったような音が鳴り響き、彼は少しのけぞった。おおっ、これはいけるぞ!


「はっ!」


 僕は流れを絶たぬようにもう一度セイバーを振るった。しかし、彼はのけぞっているにもかかわらず刃を掴んで離さなかった。どれだけ力を入れてもビクともしない……!


「少し芯に響いたな……けど、まだまだ甘いぜ!」


 そう言うと彼は右手の剣でセイバーの刃を叩き折って、そのまま身体を左回転させながら右足、左足の順に僕を蹴り上げた。そして空中で完全に無防備な状態の僕をパンチ一発で吹き飛ばした。


 僕はゴロゴロと無様に転がっていく。

 こいつ、強い! 少々浮かれていたのもあるが、こんなに歯が立たないなんて……。


「エコー、そのくらいでもういいでしょう。帰りますよ」


 メガネの男性がエコーと呼ばれた彼と僕の間に割って入る。「ちぇっ」と物足りなさそうにエコーは人間の姿に戻った。なんなんだこいつら……。

 メガネの男性は僕に近づいてきた。黒縁のレンズが怪しく光っている。


「我々はカラットという新人類です。憎き人間を排除するために再び力を授かりました。くれぐれも私たちの邪魔はしないように……それでは」


 彼は手のひらに黒い光の玉を2つ発生させて地面に落とした。禍々しいオーラを放ちながら人型に変化していったそれらはやがて2体の黒いバケモノになった。

 メガネの男性とエコーはいつの間にかどこかに消え去っていた。


「うーん、あの二人、さっきのカラットとはちょっと違う気がするんだよね。人格を支配されてる感じでもなかったし」


 ルタは訝しげに疑問を口にした。正直、今日はいろいろとありすぎて頭がパンクしそうだ……。あとでまた整理しないといけないな。


「とりあえず話は後で。こいつらを倒して、早く家に帰ろう」


 僕の提案にルタは素直に同意してくれた。もう疲れたしとっとと終わらせよう。不気味な呻き声を上げながらのそのそとこちらに近づいてくる二体のバケモノ。


 気合を入れてガラスセイバーを前方に構えると、折れて3つ分になっていた刀身がスーッと光って5つ分まで回復した。


「ガラスセイバーは使用者の精神状態とリンクしてて、闘争心や戦意が上昇してる時には刀身が延びるんだよ。逆に精神にダメージを負ってる時は短くなっちゃうから気を付けてね」


 なるほど、僕の帰宅意欲で刀身が回復したってわけか。面倒くさくなる前に片付けなきゃいけないね。


 柄を両手でしっかりと握ると、フォースクリスタルを出した時と同じように力を目一杯込めた。両手から発生したオーラはじわじわと刀身にも伝わっていった。

 剣先にまでオーラが行き渡り刀身が最大まで回復した瞬間、僕は地を蹴った。一撃で決める!!


「ガラスラッシュ!」


 高速で突進しながらバケモノの身体を横に一閃、背後から結晶が砕け散る音が二回した。

「ダサいねー」というルタの言葉にも耳を貸さず、僕はただ自己満足と安心感に浸っていた。


 僕は、ヒーローになったんだ。バケモノからこの街を守ったんだ。何十年も思い続けていた夢が叶ったように、大げさに僕の心は満たされて、浮かれていた。





 午後10時になろうとしている頃、僕はようやく玄関先にたどり着いた。はあ、すごく疲れた。


 一応祖父の部屋をそっと覗いてみた。テレビも電気も点いてなく、ぐっすり眠っているようだ。

 最近少し様子が変だったから心配だったけど、どうやら気のせいだったみたいだ。ただいま、おじいちゃん。


 風呂を済ませると僕はさっさと寝る準備を済ませた。さっきから凄まじい眠気に襲われていて、気を抜くとすぐにでも夢の世界へ行きそうだ。


 あの二体を倒した後で変身を解除した時、全身の力が抜けてしばらく立ち上がれなかった。ルタによれば「クリスタルエナジーは大きな力を得られるが、使用すればするほど体力を消耗させる」そうだ。それなりにクリスタルエナジーを使用したので、かなり体力を消耗したのだろう。


 もともと運動は得意ではないし身体のことも考えて体育の授業は休むことが多いので、体力不足もあったと思う。これからは少し運動しないとダメかな……。


「今日はお疲れ様! 初めてにしては上出来だったと思うよ。これからも人間を守るために、カラット退治頑張ってね!」


 人間態に戻ったルタが他人事のようにそう言った。屈託のない笑顔なのがまた……。


「お前の力がないと退治もなにもないんだけどな……。まあ、危険は付き物だけどやってみて悪い気はしなかったし、頑張ってみるよ」


「うん! よろしく!」とルタは一切表情を変えることなく僕に向けて右腕を伸ばした。

 なんだ、そういうところもあるんだな。非常識な相棒のまともな部分を発見できた僕も左腕を伸ばして、グッと手を握った。


「こちらこそ、よろしく」


 生まれてから17年。ずっと俯きがちな人生を送ってきた僕が、勇気を出して自分で一歩を踏み出したのはこれが初めてかもしれない。まさか普段から妄想していたようなヒーローになるとは思わなかったけど。


 どれだけのことができるかわからないけど、できる限りのことはしたい。残り3年の僕の人生で、きっとこれは僕にしかできないことだから。

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