Trust.20 -団欒 戦いの終わった先-
「何だこれ!! おい石海正義!! お前、こんな美味いもん毎日食ってんのか!!?」
廃工場にてようやく落ち着いた後、その場にいた全員から吹き出た意見。それはズバリ「腹が減った」だった。
ということで、皆その足で『うま』に赴いた。
ガラクも入れれば8人。
突然の団体客に大将さんと将子ちゃんは驚きながらも、意気揚々と厨房に飛び込んでいった。
僕はといえば、その大所帯の中にある男が紛れていたことに驚いていた。
「毎日は食べてない。ていうか、なんでお前まで来てるんだよ」
しれっと名物のカレーを爆食いしているエコー。
こいつが何を考えて今ここにいるのか、僕には全くわからなかった。
それを本人に聞いても、何だかんだと訳の分からないことを言われてはぐらかされてしまう。
「俺は分かったんだよ。俺は夢を応援するために生まれてきた男だってな」
うん、わからん。
この男、どこを見て何を思っているのか、結局知ることはできなかった。
けど一つだけ分かった。
彼はきっともう僕の敵ではないんだ。僕に強く生きる気力を与えてくれたんだから。
「お前とはいつか必ず決着をつける。その時まで死なれちゃ困るんだよ」
……敵ではないと僕は信じてるぞ。
そんな彼を将子ちゃんは何か思うところがあるような表情で見ていた。
将子ちゃんの友達がエコーと関係があったんだったな……。
まあ、今すぐ取り立てて聞き出す必要はないし、何か色んな事情があって今こいつはここにいるんだろう。
「ガラク様、ルタ様、ヒスイ様、ご無事で何よりです」
そして、そのエコーの隣に座る、柳色の瞳を持つ女性、メルラさん。
かつて人間に味方し、エメラルドライザーの力の源となったカラット。
凛として大人っぽい顔立ちと、ゴシックなメイド服、そして丁寧な話し方と、全ての要素が美しく合致したその容貌が印象的だ。
「再びお前に会えて、我らも嬉しい。だが、どうやって地上へと戻ってきたんだ?」
ガラクの問いに、メルラさんは少し眉をひそめた。彼女にもまた、分からないことがあるらしい。
「それが……気がついたら、エコー様の左手首に巻かれていました。それ以前のことが私にもわからないのです」
エコーがわざわざ掘り起こしたとは考えられないし、そもそも場所も分からないはずだ。
他の誰かが掘り起こして、それが回り回ってエコーのもとにわたったんだろうか。
いろいろ考えてみるが、僕には想像がつかない。
「そうか……。それ以外にも気になる点はある。お前を封印したジュエライザーは、我と違い誰にでも使えるものではないはず。まさかとは思うが、あのエコーという男は……」
「はい。エコー様はエメラルドライザーに変身できる資格をお持ちでした」
至って真剣な声音で話し合う両者。僕はおろか、ルタすらもついていけない。
しかしまあ、手に入れられそうな情報はしっかり掴んで整理する必要があるだろう。
「メルラさん、その資格っていうのは……」
僕が唐突に質問すると、メルラさんは一拍置いて答えてくれた。
「私が封印されたジュエライザーは、先代のエメラルドライザーであったドラル・ハウリング様の血液を認識することでその本来の力を発揮します。つまり、ドラル家の血脈を持たない者には使えない仕様になっているのです」
僕が使うジュエライザーはヒスイにも使えたし、ガラクの言う通り、変身に特別な条件は必要はないみたいだ。
あれ、つまりドラル家の血を持つ者しか変身できないということは──
「じゃあ、エコーは……」
「はい。新たな資格者であるドラル・エコー様は、ハウリング様の血筋を正当に受け継いでおられます」
容易に察しがついた僕に、メルラさんは頷きをくれた。
嘘だろ……あの戦闘狂がかつてカラットと戦った伝説の英雄の子孫だったのか!
滅ぼされたはずの力を持つ者が滅ぼした力を使うことになるというのも、何とも不思議な巡り合わせだ。
「やはりか……フッ、しぶとい男だ。死してもその血は脈々と受け継がれていったのだな」
そんな重大な事実が明かされたにもかかわらず、その喧騒が止むことはなかった。
ヒスイは何だか複雑そうな表情をしているし、当の本人はそもそも聞いちゃいない。
「おいお前! どんだけ食えば気が済むんだ! 誰が払うか分かってんだろうな!!」
「うるせえなあ。記者ってのはそんなに稼ぎがねえ仕事なのかよ」
「なっ……!? この野郎、痛いところついてくるぜ……」
ガヤガヤあーだこーだとくだらない口論を繰り広げている小城さんとエコー。はす向かいの五十嵐さんはそれを見てクスクスと笑っている。
ついには、厨房でいつもの親子喧嘩も開幕した。
ああ、やかましい……。
確かにその場は、たかが総勢10人とは思えないほどの騒がしさで、しかも僕たち以外誰もいないのを良い事に、声のボリュームもいつもより大きかった。
だが、その不協和音な空間には、この目で視認できそうなほどの幸せな空気が充満していた。
あの廃工場で、あの人たちと過ごした時と同じように。
例によって、悲しみは消えない。
でも、今の僕はそれを抱え込まずに、背負ったまま前に進むことができるはずだ。
いや、できなくてもやらなくちゃいけない。
こんなにもたくさんの大切な仲間をもう二度と失わないために、僕は戦い続けるんだ。
決意を新たにしたところで、何だか僕も無性に腹が減ってきた。ルタ以外の皆が貪る中で僕だけがカレーに手を付けてなかったみたいだ。
スプーンで掬った一口を吸い込む。
頬がとろけ落ちそうになるのを我慢しながら、窓の外に広がる夕陽に僕は目を向けていた。
次回で第一部最終回となります。





