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Trust.18 -永訣 ひとりぼっちのヒーロー-

 だけど僕に届けられたのは冷たい槍ではなく、どこか温かみを持った緑色の豪速球だった。


 遥か彼方からとんでもない速さで僕の目の前に飛んできて、アメジストと一緒に消えたかと思うと、次の瞬間には真横で真っ赤な炎と黒い煙を上げて大爆発。


 幾度となく僕は死の危険を経験して、その度に「もうダメだ」と諦めながらも何とか助かってきた。

 今はとりあえず無事だということしかわからない。


 けど、もしもこの命を諦めることで助かる命があるなら、目の前で死が迫っている友達を助けてやりたかった。

 自分じゃ何もできない、誰かに助けてもらわないと生きていけない自分を憂う。


「何とか間に合ったみたいだな。さっき溜めてた分を残しといてよかったぜ」


 いつの間にか近くにいたエコーは、そのまま爆心地まで歩いていった。僕たちはアレの時間稼ぎをしていたわけか。


 トパーズに肩を貸して僕もその後をついて行く。

 予算たっぷりの特撮映画のワンシーンのような凄まじい爆発だった。爆音でまだ耳がキンキンしている。


 煙の中からひょろひょろと出てきたのは、傷だらけになった人間態のアメジストだった。

 メガネはひび割れ、頭からは流血。

 右腕も痛そうに押さえており、その威力の高さを十分に証明していた。


「この前は途中で逃げられちまったからな。さ、続きやろうぜ?」


 右手に持った銃剣を肩にトントンと当てながら、左手で指を曲げるその姿には余裕しかなかった。


 以前、エコーとアメジストはどこかで戦っているのか?

 エコーに一体何があったのか気になったが、今はそれどころではない。


「ふん……不意打ちとは、随分と卑怯なマネをしてくれるではありませんか。どうやら今は分が悪いらしい……荷物は処理できましたし、今日はこの辺りで失礼しましょう」


 どの口が言ってるんだ。

 そう言い放ってやりたかったが、腹に力を入れるとキリキリと痛みが走る。

 その間にアメジストは光を放ちどこかに消えてしまった。


 ほぼ同時に周囲が緑の光に包まれ、その場にいた全員が粉塵が舞う廃工場に戻ってきた。

 ひとまず、戦闘は終わったものと判断しても大丈夫なようだ。目を覚ましたルタや離れていた五十嵐さんが一安心した様子で僕のもとに駆け寄ってきた。


 だが、一息つく間もなく、工場内のザラザラとした白い床にトパーズの血液が躍る。

 目を逸らしかけていた絶望が再び僕に襲いかかってきた。


「トパーズ! しっかりしろ!」


 力なく僕の肩からずり落ちるトパーズを必死で抱きかかえた。そのままゆっくりと座らせ、棟の一角を支える柱に背中を預けさせた。


 この場所で皆と夢を語り合った時の目の光も、本気で僕を殺そうとしていたあの時の目の光も、今はもうその欠片すら見えない。


「はあ……はあ……俺は結局……カラットにも人間にもなれなかった……。正義……お前の手で、俺をカラットとして、殺してくれ……」


 またなのか。やっぱりこうなってしまうのか。

 何一つとして言葉が出てこなかった僕は、トパーズの血濡れたその手をただ強く握る。

 人形のように何の反応もなく、たまらなく怖くなった。


「──ずっと、ずっとお前を殺したかった。僕から皆を奪った、皆から夢を奪ったお前が、許せなかった。でも……結局、僕はわがままだった。まだ分かり合える。まだ一人じゃないんだって、何もかも棚に上げて思ってしまったんだ。本当は許しちゃいけないのに……僕、おかしいよね?」


 罪の意識と苦しみからずっと逃げてきて、けどいざとなると妄想で培ったちっぽけな正義感が顔を覗かせる。

 そのくせトパーズの苦悩が分かった瞬間に、上から目線で手を差し伸べて孤独を解消しようとする。


 僕が本当に許せないのは、軸のないピエロのような僕自身だった。


「そうやって悩み続ける方が……よっぽどいい。浅はかな復讐にとらわれながら何も答えを出せずに死んでいくより……よっぽどな……」


 苦しむことすらできないほど衰弱してしまったトパーズの話し方は、寝言のようであった。

 なのにその表情だけが今までのどの瞬間よりも優しいのが心から辛くて、ただ頬を何かが伝っていく。


「……分かった」


「悪いな、ガラク……もう……」


 全てを納得し、理解したような声を出したガラク。

 トパーズの目はわずかにルタの首元のガラクの方に向いていた。

 きっと僕なんかが入り込めない世界で、二人で何かを話したんだろう。

 ガラクとトパーズもまた、同志だったんだ。


 少しは自重してほしいくらい眩しい太陽。

 トパーズの上半身は棟の陰に隠れていたが、だらんと前に伸ばした足は温かく照らされていた。

 まるで彼を祝福するかのように。


「皆……皆行っちゃうなんて……僕、耐えられないよ。一人じゃ、何もできないんだ……僕は無力なんだ」


 ひとりになりたくない僕の心から、呼吸をするようにすらすらと弱音が出て行く。

 トパーズはそんな僕が流す汚い涙を、震える手でそっと掬い上げた。か細い息が僕の耳を震わせる。


「あまり思い詰めるな。先に行って……あいつらとお前を待ってる……。正義……ここで、お前は生きろ……生きていけ……」


 強い風が吹く。

 ともに飛んでいった砂は、次々と風に運ばれて、波にさらわれて、この世界のどこかに行ってしまうのだろう。


 いくら願っても、神に(すが)っても、もう誰一人この手の中には戻ってこない。

 ひとりぼっちになった僕の前に、行き場を失った悲しみだけが残っていった。

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