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Trust.17 -鮮血 叶うなら時間よ戻れ-

 突如として目の前の空間が歪み、その声とともに灰色にも見えるくすんだ青い光が発生した。

 この声は……アメジスト。一体どこにいるんだ。


 辺りをぐるぐると見回していたその時、何かに気づいたトパーズは咄嗟に僕の胸を押して突き飛ばした。

 同時に光の中から鋭利な槍が飛来する!


「……ごぼっ」


 転がりながらも受け身をとってすぐに立ち上がった僕が目にしたのは、腹部を灰色の槍で貫かれたトパーズだった。


 苦痛の声を上げる彼の背中から飛び出した槍頭が鮮血で染まっている。

 眼前の惨劇に全身の血の気が引く。

 まさか、僕を庇って……


「トパーズ……! トパーズ!!」


 慌てて彼に近づく。しかし──


「スティングオープン」


 深々と突き刺さったままの槍から無数の棘が展開し、トパーズの腹部を内側から無惨に刺し尽くしていた。

 滴り落ちるその血が、地に生える艶のある緑を容赦なく変色させていく。

 ふいにあの日の光景や気持ちがフラッシュバックして、息が詰まりそうになる。


「く……そ……がはっ!」


 崩れ落ちるように膝をついたトパーズは人間態に戻り、大量に吐血する。

 腹部からの流血も収まらず、その瞳から生気が失われていくのがいとも容易く分かってしまった。


 ちょっと待てよ、なんで……なんでこんなことに……。


「それに、あなたは少々派手に動きすぎました。もはや利用価値はない。残念ですが、ここで死んでもらいます」


 勢いよく槍が引っ込んでいく代わりに、光自体が白に近い灰色に変形していき、人間的なシルエットが形成されていく。

 曇天のようなオフホワイトだが、全身に際限なく棘を生やしたその姿は雲の柔らかさとは無縁の禍々しさであった。


 少しサイズが小さいランスのようなその槍に滴る血が、どこまでも残酷な現実を突きつけた。

 けど、もう今の僕はそれを前にただ悲しむだけの存在ではない。

 悲しみを怒りに変え、怒りを力に変えることができると、自分自身を信じていた。


 瀕死のトパーズにとどめを刺そうとするアメジストの前に僕は立ちはだかる。

 ラスボス登場という雰囲気だ。オーラ、殺気、おそらく実力も、今までのカラットとは一線を画している。


「トパーズはもう、お前たちとは違うんだよ。カラットだけど人間なんだ。人間を愛する心を持っているんだ! 絶対に……絶対にお前なんかにトパーズを殺させはしない!」


 ガラスセイバーをその手に取ると、明確な殺意を持って振りかざした。

 しかし、その人差し指と親指で切先を難なく掴まれてしまう。


 くそっ、なんて力だ!

 押しても引いてもビクともしない!

 こうなったら……。


「ガラスサンダー!」


 セイバーの切先から相手の身体に攻撃エネルギーを流し込むという即席の必殺技。

 セイバーでの必殺技発動時のように刀身が青く染まるが、蒼炎ではなく雷のようなエネルギーがバチバチと走った。よし、成功か!?


 だが、突如アメジストの肩から一本の細い棘が飛来し、僕の肩に突き刺さった。

 なんだこれ、チクッとするだけでほとんど痛くない。


「リバーススティング」


 そんな油断をかましていた所、全身を細かく突くような刺激の強い痛みが襲う。

 身体中から火花が飛び散る中、手放してしまったセイバーと手持ちの槍が畳みかけるように身体を斬り裂いた。


 まさか、攻撃を跳ね返せるのか?

 僕が受けた電流のような攻撃は、アメジストに向けて放とうと想定していた技そのものだった。


 間髪入れずに先端にオーラを纏わせた槍による強力な突きを受ける。

 その一撃で完全に胸部装甲が砕け散り、間もなく全身の装甲も崩れ落ちて変身が解除された。

 同時に人間態へ戻ったルタは傷を負ったまま気を失ってしまった。ルタにも電撃が波及していたのかもしれない。


 弾き飛ばされて転がる僕を前にしたアメジストの悪魔のような笑い声が青空に響く。


「今まで数多のカラットを葬り去ってきたあなたが、まさかこんなにも脆弱なものだとは思いませんでしたよ! 我々の最大の脅威だと認識していましたが、どうやらそこに倒れてるクズと変わらないようですね」


 クズ……もしかして、トパーズのことを言ってるのか?

 ああ、確かにその力で平気で人間を殺すようなお前にとってはクズ同然の存在なんだろう。

 だけど、僕にとっては……


「ろくに友達もいなくて、いつも独りで、夢なんて諦めてた僕にとっては……! 大切な……宝物なんだ! 絶対に失いたくない、宝物なんだよ!!」


 全身の痛みを少しでも散らすように地面の草を握りしめる。

 そんな僕の胸ぐらを掴み上げたアメジストは、槍の先端を僕の眼前に持ってきた。


「宝物とは財産。私の宝物は私自身です。この世界に存在していいのは私という絶対的な存在と私のために働く駒だけなのですよ。あなたのようなゴミはいらない!」


 ユートピアフォームの副作用は思ったよりもずっと重たいものだったようだ。

 身体が思うように動かず、こんな命の危機においても何一つ抵抗することができない。

 どうしようもない悔しさを噛み締めながらも、いよいよ僕は貫かれようとしていた。しかし──


「うおおおおおおおおおおッ!!!」


 視界に映ったのはカラット態に変化したトパーズ。

 彼に胴を一薙ぎされたアメジストが手を放したことで僕は難を逃れた。


 よかった、まだ元気みたいじゃないか。

 そんな仮初の安堵も束の間、すぐに人間態へ逆戻りしたトパーズは跪き、その血でまた草々を赤く染めた。

 咄嗟に駆け寄り、彼の肩を抱く。


「せ……正義は……お前みたいなクズに、決して負けたりしない! こいつは……仲間を殺した俺すらも最後には受け入れてくれた……誰よりも優しい……ヒーローだ!!」


 もうトパーズは虫の息だ。

 なのに、その声からは希望や光、勇気といった人間が前に進むために必要なものしか感じられなかった。


 僕はお前が言うような崇高な存在じゃない。

 罪悪感と非情な現実からずっと逃げ続けてきたんだぞ。

 今だって、お前を助けられる力を何ひとつ持ちあわせてない。


 頭の中でトパーズの言葉を何度も何度も否定する。

 けど、この溢れ出る涙を止める有効な手段とはならなかった。


「この世にヒーローなど要りません。死になさい」


 トパーズの言葉にまるで興味や関心を持たない様子のアメジストは、早々に僕たちをまとめて片付けようとする。


 ここまでか……どうせ死ぬならせめてトパーズを守って……。

 僕はトパーズを覆うように庇って、静かにその時を待つ。

 トパーズに生きていてほしいんだ……!


「激砲・雷鳴緑光弾ッッ!!」

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