表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/68

Trust.16 -理想 僕たちは分かり合える-

 全てを斬り裂くような雄叫びを上げたトパーズは、迷いなく僕に向けて突進を開始した。

 エコーの奴は少し離れたところで銃剣のグリップを両手で握りしめていた。

 どれだけ時間がかかるのか知らないけど、やれるだけのことをやっておこう。


 僕は二振りの刀身のないガラスセイバーの柄を手にとり、眼前に構えた。


 ……これじゃ攻撃できないよ!

 どんどんトパーズとの距離が近くなっていく。

 ええい、そのまま振ってしまえ!


 左から襲い掛かって来る黄金の剣を右に飛んで避けながら、水平に持った両刀をやけくそ気味に胴目掛けて振るった。

 だがそのすれ違いざま、ガキンという金属音とともに確かな手ごたえが指先にまで伝わる。


「うっ……くおっ!」


 振り向くとそこにあったのは苦痛に悶える声を上げるトパーズの姿。

 手元にはちゃんと刀身が生えたガラスセイバーがあった。


 両刀とも、通常状態で見られたカッターナイフのような線がなくなっている。

 刀身のサイズは通常の最大時と同じくらい……精神状態に左右されなくなったってことかな?


「うあああああっ!!」


 消耗しているとはいえさすがに一発じゃ大人しくしてくれないか。

 今度は縦方向に一刀両断しようとするトパーズ。

 僕はそれを刃を横にして受け止めた。

 すごい、全然重さを感じないぞ!


 そのまま押し返して、ガラ空きになった身体を無茶苦茶に斬りつけた。

 うーん、二刀流って強いけど難しいな。


 トパーズは胸を抑えながら大きく後退していった。

 いや、足元はしっかりしている……自分から距離をとったのか?


「これならどうだ!!」


 するとトパーズは剣の柄を両手で握って切先をこちらに向け、バズーカのように側頭部付近に構えた。

 そして地面が振動するほどの強いオーラを発すると同時に、残像が見えるほど高速で突っ込んで来た。

 全体重を乗せた突きだ。


 けど、真っすぐにしか進めないなら避ければいいだけだ。

 僕は地面を一度蹴って、一瞬でトパーズから20メートルほど距離をとった。


 取柄だったスピードも向上してるみたいだ。

 体感としては高速移動というよりもはや瞬間移動だった。


 振り返ると、離れた場所でトパーズはまたあの攻撃を仕掛けてこようとしていた。

 だが、今度のは少し違う。

 黄金の剣の刀身にバチバチと電気のようなものが走っていた。飛び道具をぶっ放してくるかもしれないな。


 ……なら、次は僕も逃げない。


 両セイバーの柄に力を込めて全身のエネルギーを刀身に集中させる。

 すると、左手のセイバーが磁石のように右手のセイバーに吸い寄せられていき、一つのガラスセイバーに変化した。

 刀身は一瞬真っ青になった直後、燃え盛る炎のような深紅に染まる。


「正義いいいいいいいいいいいいィィィィッッ!!!!!!」


 とてつもない衝撃とともに、龍のような黄色いエネルギー波が僕を貫かんとする勢いで迫って来る!

 鋼鉄の如く硬質化したガラスセイバーを右腰辺りにグッと構え、脚部に飛び出すための力を入れた。


「石海正義。多少なりとも傷を負っている今、それほどの力を使えば、身体が持たないかもしれないぞ」


 ガラクは少し焦燥感が見える口調で僕の身を案じてくれる。

 ありがたいけど、僕はやめるわけにはいかない。

 ほとんど渇いた雑巾の最後の一滴を絞り出すように僕は答えを示した。


「あいつには、これくらい本気でぶつからないとダメなんだ……!」


 トパーズの脚が地から離れたのを感じ取り、実際は追い付かないが気持ちだけは光よりも速く走り出した。

 雑草を焼き尽くす勢いのエネルギー波を破くように一瞬で切り抜けたその先に、宿敵が刃を突き出していた。


 1秒にも満たないほどのわずかな時間。

 なのに、時間が止まったかのような。

 永遠に思えるかのような。

 不可思議な一瞬を傷だらけのその身に感じた。


「正義……俺は」


 震えるようなその声。かつての面影がフラッシュバックする。

 ──迷うな!

 僕は決めたんだろ! 戦うって!


「……ユートピアスラッシュ」


 突き出す刃と薙ぐ刃がキリキリと擦れ合ったかと思えば、次の瞬間にはもうトパーズは遥か後方にいた。

 あまりにも速すぎて自分でも何が起こったのかよくわからない。


 手に持っていたセイバーは力尽きるように黒く変色して砕け散った。

 同時に強化アーマーも塵に帰して、僕は通常状態に戻ってしまった。

 僕もここまでかな……。


 だが、振り返った時に僕は安堵した。

 そこには確かに膝をついたトパーズの姿があったからだ。

 完全に沈黙して、これ以上こちらに何かをしようという気概はほとんど感じられない。


 やった……僕はトパーズに、勝ったんだ。


「お前、何やってんだよ! せっかく必殺技の準備してたのによぉお。あんなので必殺技使っても意味ねえじゃねえか、バカ野郎」


 ずっと銃剣を構えていたエコーは脱力した様子で腕をぶらんと下げた。それはどうも悪かったな。

 いじけるエコーに苦笑を飛ばすと、僕は覚束ない足取りでトパーズのところまで歩いていった。


 もう、大丈夫だよと言いたかった。

 もう僕たちは戦わなくてもいいんだと言いたかった。

 そりゃ確かにあいつは僕たちを騙して、仲間を殺して、人間を襲った。

 許されないし、許せないし、ずっと憎んできた。


 でも、もう何回も戦ってきた。

 それで何かが変わるわけでもないのに。

 だからもういいんだ。


 それに、僕は一つの確信を持っていた。

 あいつの中にも、裕斗が掲げた理想のひとかけらが残っていたんだって。

 そのひとかけらを僕は信じていた。


 何とかトパーズのもとまでたどり着いた僕は彼に右手を伸ばすが、トパーズはそれを左手で払いのけた。


「何のつもりだ。俺はもう──」


「素直になれよ。いい加減」


 もう一度右手を差し伸べる僕。

 トパーズはそんな僕から顔を背けた。


「知ったような口を利くな。俺の気持ちなんてお前には」


「分かるよ。分かってると信じてる。だから、また一緒に戦おうよ」


 僕はずっと迷って、苦しんで、逃げてきた。

 果てしない絶望や悲しみの前に僕は何もできなくなって、腑抜けて、頭を抱えては涙を流した。


 過去は消えない。

 けど、消えない過去にしがみついたままだと未来は消えていく。

 そして、消えた未来もいつかは消えない過去になる。

 そんな繰り返しの中でただ涙を流すだけの人生は、もうたくさんだ。


 だから僕は答えを見つけた。

 未来も過去も僕は消さない。

 全部今という時間の中に背負って、生きていくんだ。


 お前も、今やっと答えを見つけたんだろう。

 しっかりと僕の右腕を掴んだトパーズは、きっともう……。


「──やはり、あなたは非情に徹することはできませんでしたか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ