Confidence.4 -煌々-
「うがあああああっ! なぜだあああ!!」
悔しさに満ちた叫び声を上げたオパルは地面に手をついていた。
先ほどから向かってくるところを避けたり迎撃しているだけで自分からはほとんど攻撃していないが、かなりダメージを与えているようで最初の気迫はもうなかった。
「うーん、もしかしたらあの人を完全には支配できてないから本来の力を発揮できてないのかも。今なら多分助けられるよ! 右手に思い切り力を込めて必殺技だ!」
本当か! 良かった、てっきりバケモノと一緒に無実の人も殺さなきゃいけないのかと思ってたから──。予想してなかった状況に僕はそっと胸を撫で下ろした。
「よし、必殺技か。右手に思い切り力……こうか?」
どうすればいいのかわからなかったので、とりあえず握力を測る時のように右手に存分に力を込めた。すると殴った時に出たような青のオーラが放出されて、やがて丸いエネルギーとして具現化されていった。体中にみなぎるクリスタルエナジーを凝縮した、いわば力の結晶のようなものが完成した。
「俺をなめるなああああああっ!!!」
オパルは水の短剣をもう一つ作り出して二刀流で僕に突進してきた。「今だ!」というルタの合図とともに僕は右腕を大きく前方に突き出した!
しかし、僕の右手はうんともすんとも言わない。あれ……? 何も出ないぞ?
「あっ、なんか叫んで!」
ルタの思い出したかのような注文に、僕は大急ぎで語彙の引き出しを散らかし始めた。
「ええっ、ちょっ、えーと、力の結晶だから……フォ、フォースクリスタル!」
直訳してしまった! 締まらない必殺技名とは裏腹に右手からは恐ろしいほど極太のエネルギー波が放たれた。
うおおおおっ、眩しい! 轟々とうねりを上げて進んでいく!
フォースクリスタルは突っ込んで来たオパルに直撃した。エネルギー波が消失した後、ボロボロになったオパルがそこに立っていた。
「くっ……この男の身体を完全に支配できていれば……俺は、お前になど…………うわあああああああああ!!」
捨て台詞を吐いた後、オパルの身体は黒く硬化して、一瞬ヒビが入った直後に皮膚が砕け散った。その中から先ほどの男性が出てきて、そのままドサッと床に突っ伏した。よかった、どうやら気絶しているだけみたいだ。
「勝てたのか……カラットに」
ルタは「やったね」とか「すごいよ」とか言ってくれたが、何が何だかわからず無我夢中だったのであまり実感が湧かずにいた。
ヒーローが敵を倒した時ってもっと達成感あったりすごく嬉しかったりするものだと思ってたけど、意外と特に何も感じないものなんだな。ただ、心の臓だけは僕を称えるようにドクドクと高鳴っていた。
やがて男性は目を覚ましてゆっくりと起き上がった。今まで自分がどこで何をしていたのか全く覚えていないようで、なぜここにいるのかと首をかしげながら去っていった。
まあ、自分がバケモノになっていたなんて知りたくないだろうし、きっとあのままでいいんだろう。
なんだか地味だけど、これが僕の初陣だということに変わりはない。終わり良ければ総て良しだ。とにかく無事に終わって良かった。
さあ、僕も帰ろう。そう思って変身を解除しようと思ったが──その方法がわからない。
「ルタ、これどうやって変身解除し……え……?」
キョロキョロしていた僕は目を疑った。先ほどまでトボトボと歩いていた男性がほんの少し目を離していた間に血だらけで倒れていた。
ちょっと待ってくれ。この一瞬で何があったんだ。とりあえず急いで男性のもとに駆け寄った。
「これはもう死んでるね」
ルタの渇いた言葉が心に空しく響いた。嘘だ、絶対に助けたはずなのにどうして……。
男性の背中には無数の穴が空いており、着用しているジャケットから血が滲み出ていた。ここを何かで貫かれたのだろうか。でも、誰がどこからどうやって……?
「正義、後ろ!」
ルタの声とほぼ同時に僕も何かを感じ取って、本能的に左方向へ回避した。その直後、僕が元居た場所に鋭い棘のようなものが数発着弾した。パッと振り向くとそこには二人の男が立っていた。
一人はメガネにスーツ姿というサラリーマンのような出で立ち。もう一人は銀色のツンツンした髪型で黒いパーカーを着ていた。二人とも不敵な笑みを浮かべている。
確かなことはひとつ、間違いなくヤバい奴らだ。
「ほう、あれがクリスタルライザーですか。そこまで強そうには見えませんね」
「そんなもん、やってみなきゃわからねえ。俺が確認してやるから、お前はじっくり観察してろ」
メガネをクイっと上げながら呟いたスーツの男性の言葉にパーカーの男はそう返すと僕に向かって実に堂々とした態度で歩いてきた。待て待て……今からあいつと戦うのか?
「よお、お前がクリスタルライザーか」
怖い笑顔を浮かべているパーカーの男。な、なんだこの威圧感……怖いなんてもんじゃないぞ……。ダメだ!怖気づいたら負けだ!僕は今ヒーローなんだ、大丈夫!僕は自分に必死にそう言い聞かせる。
「だっ、誰だ!」
それでも恐怖で声が裏返ってしまった。目の前に迫った彼は僕の顔、というよりクリスタルライザーのマスクをまじまじと見つめた後、一歩引いてからまた不敵な笑みを浮かべた。
「俺か? 俺は……お前を倒すために生まれてきた男だ」
「正義、こいつヤバいよ!」
パニックになった僕は思わず「えっ?」と左手首のブレスレットに視線を移してしまった。ほんの数秒後、視線を戻すと顔前には緑色……エメラルドグリーンに身を包んだバケモノが立っていた。右手には薄く鋭利な剣が握られている……これはヤバい。
「うりゃあああああ!」
ガキンと超至近距離で下から上に突き上げるように剣で斬りつけられた。装甲から火花が散って、削られた結晶が地面にパラパラと落ちた。剣の見かけによらず重い一撃に僕の身体は後退を余儀なくされた。
なんだこいつ……さっきのオパルより段違いに強いぞ!僕は人智を超えたその力、カラットという存在自体に改めて恐怖した。





