Trust.15 -進化 今、決断の時-
「──石海正義、一つ提案がある」
コントのようなエコーの強さに一種の羨望を抱いてしまっていた僕に、ガラクはそう話してきた。
その口調は、いかにも神妙な面持ちをしてそうなものであった。
「……なんだよ」
「変身時にお前の身体に流れるクリスタルエナジーは、我の力をクリスタルが浄化したものだ。浄化された我の力は、負担の軽減、延命効果といったメリットが多い。だが、最大出力が低くなってしまうという欠点もある」
「……つまり、何が言いたいんだよ」
勿体ぶる彼に結論を急かすような物言いの僕。
ガラクはそれを受けて、一拍置いた後でどこか申し訳なさそうに口火を切った。
「我の力の一部を、変身とともに直接お前の体内に送り込む。全てにおいて大幅に強化される代わりに、一度送ってしまえば二度と延命効果は得られない。その負担も凄まじいだろう。……お前の事情は聞いている。決めるのは、自分自身だ」
決めるのは、僕自身……。
延命効果。僕にとっては、他の人よりもより一層魅力的に聞こえてしまう言葉だ。
ルタから初めてその話をされた時、僕は寿命が延びる代わりに戦うなんてと拒否したんだったな。
確か、最大で50年。
命が延びれば、それだけ未来が広がる。
選択肢が増える。
少なくとも今よりは。
けど、僕には人生を捧げて何かを叶えようとか、何かになろうだなんて高尚な意志はまるでない。
この諦め癖は、不治の病と一緒についてきた一生ものの病気だ。
自分から何かを掴みに行こうとはしない僕に唯一与えられたものがあるとしたら。
何も持たない僕が人生を捧げられるものがあるとしたら──
ごめんなさい、父さん、母さん、おじいちゃん。
でも、やっと分かったんだ。
自分のやるべきことが。
もう苦しみから逃げて、暗闇に甘えるのはやめにしよう。
苦しまないように生きるべきだったけど、僕は全ての苦しみを背負って生きることにするよ。
「その力があればトパーズを……皆を傷つける奴らを止められるんだろ? それしかないなら、やるしかないよ」
痛む全身に鞭を打って僕は立ち上がる。
ふらついて倒れそうになった僕を、五十嵐さんが温かな手でそっと支えてくれた。
「石海くん……」
心配そうに僕を見つめる彼女に強く頷くと、彼女の手を離れて僕は歩き出した。
その隣をルタが付いてくる。
「正義……あのね」
俯いて口を紡いだルタ。
なんとも哀しげなその表情だ。
やめろよ、お前はそんな奴じゃないだろ。
似合わないんだよ、そういうの。
「……何も言わなくていいよ。これは、僕が決めたことだ」
それを聞いてルタはまた俯いたけど、次の瞬間にはぷぷっとなぜか笑っていた。そして──
「一緒に頑張ろうね」
いつもの満面の笑み。思わず僕も笑みがこぼれてしまう。直後、彼女は身体を光らせて僕の左手首でジュエライザーとなった。
一緒に、か。お前も変わったな。
「懲りずに負けに来たのか。今度こそ殺してやる、正義」
黄金の剣を素振りしてその殺意を存分にこちらに見せつけてくれたトパーズ。
だがその威勢とは裏腹に、かなり傷ついている様子だ。明らかに息が上がっている。
「トパーズ。僕は友達だと思ってた。一緒に夢を追いかける大切な友達だと」
どこからか強い風が吹き、僕らの間に強く根を張る草たちを揺らした。
「そう思い込んでいただけだ。お前たちは最初から俺の復讐の犠牲にすぎない」
それらを踏み潰しながら僕に向けて歩を進めるトパーズ。
まるで丁重に運ばれてきたガラス瓶を躊躇なく叩き割るようだった。
なら、割れた破片を全部かき集めて差し出せばいい。
「──じゃあなんであの時、裕斗にとどめを刺さなかったんだ。友達じゃないなら、なんで中途半端に裕斗を生かしたんだ……!」
色とりどりの破片を前にトパーズは立ち止まる。
目を背けるように顔の位置を少し変えた。
僕と同じだ。あいつも迷ってたんだ。
「もう……もう遅い。俺は、お前を倒さなければならない!」
その姿は割れた破片の上を裸足で歩くようだった。
僕も今までの生半可な覚悟に勇気と自信を上書きして、左手首に右手を添える。
お前が迷った末に僕たちを倒すと決断したのなら、僕ももう迷わない。本気でお前を倒す!
「それは僕も同じだ……裕斗たちに会わせてやる。結晶化!」
はっきりと音がするまでクリスタルをスライドさせる。
刹那、心臓の辺りからとても熱い何かが全身に行き渡っていくのを感じた。
なんだこの感覚……いつものクリスタルエナジーとは違う、もっと激しくて強い力……赤いイメージだ。
自分をしっかり持ってないと潰されてしまう。
その直後にクリスタルエナジーが体中を駆け巡り、危なっかしい力はその中にうまく溶け込んでいった気がした。気持ちも安定していく。
やがていつもの無数の薄い水色の結晶とともに、ブルーベリーのように濃い青色をした特殊なアーマーがいくつか出現した。
オーラを纏った僕の身体に結晶がくっついていって通常の装甲になったあと、胸部、腰回り、腕、脚部とアーマーが装着される。
マスクが完成する頃には、ジュエライザーのクリスタルの色が鮮やかな水色から深い青に染まっていた。
同じように深い青の手甲を身につけた僕は、その手で左右両方の腰に取り付けられていた何かに触れる。
これは……ガラスセイバーの柄か?
持ち手と鍔の部分だけで刀身がない。
さっきまでとは比べ物にならない大きな力を全身に感じる。
これ、すごく疲れそうだなというのもビンビンに伝わってくる。
けど、それを遥かに上回る強さが僕を勇気づけた。
通常状態と区別するために名前をつけなきゃ。
そうだな──
「理想の姿、ってとこかな」





