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Trust.14 -翠玉 その名はエメラルドライザー-

 雲一つない清々しい青に太陽が強く自己主張している。

 不敵な笑みを浮かべる銀髪でパーカーの男は僕たちとの距離を5メートルほど残すところで立ち止まり、僕の姿を見るなりゲラゲラと笑い出した。


 一瞬にして僕たちを異空間に転送するなどこの男にしかできない。


「なんだよそのザマは。それが一度この俺に勝利した男の姿か?」


 何がおかしいんだか、涙目になるまでエコーは笑っている。

 ロングスカートのメイド服をかっちり着こなしている隣の女性が「エコー様」とそれを諫めた。


 深緑のショートボブの彼女のその声が聞こえた瞬間、ガラクとトパーズは何かに気づいたような声をほぼ同時に上げた。


「お前、まさか……メルラか?」


 トパーズが驚愕した様子でそう尋ねた。

 メルラって確か、人間とカラットの戦争でジュエライザーに封印されたカラットだよな。

 けどなぜエコーとともにいるんだろう。彼女もまた復活を遂げたんだろうか。


「ご無沙汰しております、トパーズ様、ガラク様、ルタ様」


「どういうことだ、なぜお前がエコーとともにいる。エコー、貴様もしや、カラットを裏切るつもりか!」


「裏切る? バカ言うなよ。俺は好きなように生きるために生まれてきた男だ。信じるものも守るものも俺が決める。とりあえず今守らねえといけないのは、そこで絶望に打ちひしがれてるバカだ」


 エコーはそう言って再び僕に目を向けた。

 一体何があったんだ……悟りでも開いたかのように別人じゃないか。

 ギラギラしていたあの目がやけに落ち着いているのがその証拠だ。


 まるで事情が掴めなかったが、トパーズが臨戦態勢に入ったのでとりあえず二人を連れて安全な場所まで離れることにした。


「ふん、俺の邪魔をする奴は全てこの手で排除する」


 トパーズは右手に創出したエネルギー弾をエコーに向けて発射した。

 エコーは機敏な動きで横方向に回避して、目標を失ったエネルギー弾はその後方で爆発した。


「いくぞ、メルラ」


 エコーの呼びかけに応えた彼女は身体を緑に光らせ、そのまま光の粒子となって彼の左手首に纏わりついた。


 光は徐々に具体的な形を成していき、僕もよく見たことがある"アレ"によく似たものに変化を遂げる。

 あいつが、変身するのか……?


「間違いない……あれはハウリングと我が創ったジュエライザーだ」


 ルタの首元で光るガラクは、エコーの手首で鮮やかな緑の輝きを放つジュエライザーを目の前にしてそれ以上の言葉を失う。


 僕が使うジュエライザーはクリスタルをスライドさせて奥に押し込むものだが、あのジュエライザーは内部に緑の宝石があり、手前に引く小さなレバーのようなものがついているようだ。


 緑の宝石が点滅を繰り返す中、エコーは手の甲を外に向けて大きく左腕を天に伸ばした。

 精神統一をするようにゆっくりと息を吐きながらそれを少しずつ下ろしていき、肘が直角になった辺りで胸の前に腕を倒す。

 と同時に右手の指の腹でレバーを思い切り弾いた。


 その瞬間、張り詰めた空気に一筋の風が吹きすさぶ!


結晶化(クリスタライズ)!」


 青空の下ではっきりとそう叫んだエコー。

 すると、彼の身体はあの見慣れたカラット状態を一瞬経由してすぐに緑のオーラに包まれた。

 そして、エメラルドのような色と輝きを持った大きな結晶たちが、身体の周りをぐるぐると回りながら吸い寄せられるように装着されていった。


 最後にマスクが完成すると、頭部から二本の角が勢いよくニュっと生えた。

 オレンジ色の目の部分がピカッと光った瞬間、周辺の空気が振動を起こして草原が軽やかに揺れた。


 本当に変身した……エコーがヒーローに……。

 その立ち姿は何とも勇ましく、僕なんかより何倍もヒーロー然としている。

 その場にいた全員が唖然としていたが、トパーズだけは肩を震わせて拳を握りしめていた。


「エメラルドライザー、参上」


「その姿……忘れもしない。その力で、ドラル・ハウリングは俺たちを容赦なく皆殺しにした。散っていったカラットたちの恨み、今ここで晴らす!」


 宿敵の思わぬ出現に怒り心頭のトパーズは、黄金の剣を再出現させ、エコーに向けて猛突進していく。

 しかしエコーは、棒立ちで余裕をぶっこいていた。


 あのままじゃ斬られるぞ、あいつ何考えてるんだ……?


「エメラルドセイバー!」


 しかし、エコーはそれを狙っていたかのように謎の武器を呼び出した。

 そして、その武器で剣を振りかぶるトパーズの胴を一閃した。

 あれは剣……いや、銃剣だ!


 銃口の下に細長い刃が取り付けられている。銃身と刀身を合わせればかなりのリーチだ。


「ほら、かかってこいよ!」


 指をクイクイ曲げて挑発するエコー。

 トパーズはエネルギー弾で牽制しながら右往左往し、徐々にエコーに近づいていった。

 だが、エメラルドセイバーの銃口が火を吹き、重い銃弾がその動きを止める。


 カラットを滅ぼした力というのはどうやら伊達じゃないらしい。

 何せ、あのトパーズをたった一発で後退させたのだから。


「オリジナルってのはそんなもんなのか? まあいい。次はこっちから行くぜ!」


 動かないトパーズのもとへエコーは大胆不敵に走り出した。一気に畳みかけるつもりか。

 いや、トパーズはこのくらいで沈黙するようなやつじゃない。

 攻勢に出ると蜂の巣にされかねないし、エコーの攻撃の隙をついたカウンター狙いだ!


 案の定、トパーズがエコーの射程圏内に入った瞬間、妖しい金の光を放つ刃がエコーの胴を斜め右上に向けて勢いよく走り抜けた!


 バチバチと火花も並走している。

 やっぱりあいつ、ダメージを受けたふりをしていたんだ……!


「自惚れるな! いくら強い力でも、お前のような考えなしの攻撃など俺には通用しない」


 自信満々に立ち上がったトパーズはさらに2回、3回と斬りつける。

 やはり実力だとトパーズの方が上回っているのかもしれない。だが、そう思った矢先──


「──じゃあ、何も考える必要がないくらい俺の方が強いとしたら、どうする?」


 銃口が緑に光り、僕が一度瞬きしたその後には銃撃音とともにトパーズは後方に吹き飛ばされていた。な、一体何が起きたんだ?


「あの男の言う通り、エメラルドライザーは強固な防御力を誇る。だがそれだけではない。奴はトパーズに剣での近接戦を予想させながら、溜め撃ちを狙っていた。いくらトパーズでも、奴に勝つことは難儀かもしれないな」


 ガラクが状況を事細かに説明してくれた。

 そうか、強いのはエメラルドライザーでもエコーでもないんだ。二つの強さが相乗効果を生んでいるんだ。


 怖いものなしといった様子のエコーは、ふいに僕の方を振り向いてきた。

 対面して初めて、その重圧の凄まじさが身に染みる。まさか、次は僕が相手とか言わないだろうな?


「石海正義! トリは俺がビシッと決めたいんだけど、準備がいるんだよ。お前、時間稼ぎしろ」


 ……はあああっ!!?

 そんな無茶苦茶な注文があるか!!


「急に言われてもできるわけないだろ! だいたい手負いだし、僕の力じゃあいつには勝てないし、そもそも──」


 やらない理由を列挙していく僕は、無意識に「お前がやれるならお前がやれ」というオーラを全身から発していた。


 この場にいる誰もがエコーおよびエメラルドライザーの圧倒的な力を目撃している。

 僕の出る幕なんてないことくらい、僕じゃなくても分かるだろう。

 しかし、四の五の考えている僕のすぐそばに一発の小さなエネルギー弾が着弾した。


「何を発砲してんだよ! 脅しか!?」


「うるせえ! 弱らせてやったから今のお前でも何とかなる! 分かったらとっとと変身しろ!」


 人の気も知らないで何が何とかなるだよ。お前いつも滅茶苦茶なんだよ。

 そう言葉にすることはできず、不貞腐れたように顔を逸らしてしまう。


「まだ俺は、弱ってなどいない!!」


「今取り込み中なんだよ! 黙ってろ!」


 背後を狙ったトパーズをエコーは斬撃と銃撃のコンビネーションで一蹴した。

 文字通り手も足も出ずにすっ飛んでいくトパーズを見て、思わず僕は感心してしまった。

 すごいな……本当に笑っちゃうくらい強いよ。


「僕も、あれくらい強ければ……僕も、もっと強くなりたいよ」


 悪い癖だとは知りながらも、つい人と比べて自嘲してしまう。

 そんなだからダメなんだよと、もはや誰かに言ってほしかった。

 しかしその時、言葉は違えど、一本の確かな光の筋がガラクによって届けられた。


「──石海正義、一つ提案がある」

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