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Trust.12 -限界 立ちはだかる鉄壁-

 皆でよく集まった廃工場。そこまで全速力で走ったため、僕の息は激しく弾んでいた。


 いつも話し合いとかに使っていた棟はあの日の大炎上に誘発された爆発で全壊したようだ。その分だけ少し全体が広く見える。


 左手に大きな塔のような建物、右手に倉庫のような開けた棟。

 それらに挟まれた広い空間で僕とトパーズは対峙していた。


 真っ黒な服を着た彼の後ろには、怯えた様子の五十嵐さんがいる。

 見た限りケガはなさそうで、僕は人知れず安堵した。


 黒い煤とオイルの匂いが染みついたこの空間にて、緊張感だけが自由に行動していた。

 運命の戦いってこういうのを言うんだろうか。この期に及んでどうでもいいことに思考が及ぶ。


「お前を倒せば、俺は証明できる。カラットがいかに人間より強く、この世界を支配するにふさわしいかをな。──もう、後戻りはできない!」


「カラットも人間も、もうどうでもいい。五十嵐さんを助けて、お前を殺す。それだけだ」


 金色のオーラと結晶を纏ったトパーズは僕を狂わせたその姿に変身した。

 侍と重装歩兵を合わせたような歪な外見はこれまでの嫌なことを全て思い出させる、とても不愉快なものであった。


結晶化(クリスタライズ)


 クリスタルをゆっくりと奥へスライドさせる。

 透き通るような青色のオーラを身に纏い、不揃いの結晶たちが装甲を形成していく。

 全身に隈なくクリスタルエナジーが行き渡り、何十分か前まで寝起き同然だった身体を一気に興奮させた。


 視界は良好。これがもう最後の変身だろう。

 悔いが残らないよう、僕は今一度気を引き締めた。


「ガラスセイバー!」


 正面にセイバーを呼び出し、柄を両手でしっかりと握った。

 刀身はフルサイズ、いつでも準備はOKだ。


「覚悟しろ、正義!」


 同じく腰の鞘から黄金の剣を抜き取ったトパーズは地面を蹴ってその場から消えた。

 刹那、僕の眼前に現れ、剣を横に一閃。

 僕は左右交互に高速移動しながら彼の背後に回った。


 すぐそばに五十嵐さんがいる。何があっても真っすぐな彼女も、さすがに戦々恐々としていた。


「石海くん……!」


「遅くなってごめん。下がってて」


 そんな会話をしているうちに、トパーズは小さな斬撃を3つ飛ばしてきた。

 弾き返した全てが工場の外壁に直撃して歪んだ穴が開く。彼がそのわずかな隙を見逃がすわけがなかった。


 急接近したトパーズの一振り、二振りが僕の胴を斬りつける。

 ──負けっぱなしじゃ、カッコがつかないだろ!


 続く攻撃を身をかがめて避け、下から上へ打ち上げるようにセイバーの刃をぶち当てる。

 トパーズは上体を仰け反らせて小さな呻き声を上げた。


「ガラススラスト!」


 そのまま胴を一突きして試合終了……とはいかなかった。

 剣でセイバーを叩き落とされた後、間髪入れずに前蹴りで工場内に吹き飛ばされた。


 そのままガソリンか何かが入っていた空っぽの缶や薄汚れた木材の山に突っ込んでいく。

 すぐさま身体を半回転させてその全てを蹴散らし、再びトパーズに向かっていった。


「何度やっても同じだ! お前は俺に勝てない!」


 トパーズは太陽に照らされて輝く剣をまたこちらに振りかざしてきた。

 すかさずそれを受け止め、激しい斬り合いに突入する。


 耳を突くような金属音が激しい火花とともに何度も何度も工場内に響き渡る。

 一瞬でも気を抜けば僕の命はないだろう。


「これならどうだ!」


 セイバーの柄を一層強く握った。

 腕から指先に伝ったクリスタルエナジーが一気に刀身まで包み込み、蒼炎が駆け抜ける。


「そんな攻撃が、俺に効くかあああああああッ!!」


 同じように刀身に金のオーラを走らせたトパーズは、僕が振りかざしたセイバーごと叩き斬る勢いだった。

 僕だってそう単純じゃない。その勢い、利用させてもらう!


「クリスタルバスター!」


 左手に余剰エネルギーを凝縮させ、急激に低姿勢になりながらそれを特大のビーム砲として放つ。

 トパーズが狼狽した声を上げた瞬間、大きな音を立てて爆発した!


「ドカーンだよ! ドカーン!」


 久方ぶりにルタのわけのわからない擬音シリーズを耳にしたところで、僕は上空に高く飛び上がった。

 ビーム砲は不意打ち、想定外の攻撃に体勢を崩されたはずだ。

 それに加えて爆煙で僕の姿はおそらく見えていない。


 チャンスは今だ!


「ガラスウィンド!」


 急降下して爆煙を突き抜け、その名の通り突風のように剣ごと胴を叩き斬った!


 多くの仲間を斬ったその剣の刀身は叩き折れて、トパーズはとんでもない速度で吹っ飛んで工場の外壁に衝突、同時に爆発を起こした。

 ……本当にドカーンだ。


 普通なら不可能な動きを無理やり身体にさせてるんだから、やっぱり負担は大きい。

 その上、数ヶ月ぶりの戦闘だ。体力の消耗が激しい。

 できればこれで終わって欲しいけど、そうはいかないことくらい猿でも分かる。

 それでも僕は終わって欲しかった。


「……ふっ、ハハハハッ! やはりお前は……弱い!」


 そう断言された僕のもとに金の衝撃波が飛んできて、セイバーを後方へ真っ二つに弾き飛ばした。

 あろうことか、僕はその行方を目で追ってしまった。

 まずい、今の僕は格好の的だ!


「そんな……全然効いてない」


 ルタの言う通り、トパーズはダメージを受けるどころか、むしろ僕の油断を誘っていたのかもしれない。

 瞬きする間もなく懐へ潜り込まれた僕になす術などなかった。

 その瞬間に僕の敗北は決定したのだ。


「恐怖しろ! 俺の力に!!」


 強く握られたトパーズの右拳が光のようなスピードで僕の腹に直撃した瞬間、想像を遥かに凌駕する衝撃と痛みに今までの人生の記憶が全て吹き飛びそうになる。


 気をしっかり持って何とか耐えたが、その代わりに身体がくの字に曲がる。

 そして、一棟まるまる貫通してその向こうの棟の外壁に激突した。


「ごふっ……がはっ! ごぼっ……」


 ずるっと滑り落ちて地面に這いつくばり、2回に分けて大量に血を吐く。

 痛い……痛すぎるよ。熱したスコップで腹を抉られたみたいだ。


「石海くん!」


 意識がぐらつく中、脳内にはっきりと五十嵐さんの声が届いた。

 首に精一杯力を入れて顔を持ち上げると、彼女が近づいてきているのが見えた。

 即座に危険信号が全身に発令される。


「五十嵐さん! 来ちゃダメだ!」


 だが遅かった。

 現れたトパーズはノールックで、側方の五十嵐さんに細い光線を指先から放った。


 視力が数倍上昇しているこの状態ならはっきりと分かった。

 それが五十嵐さんの頬を掠り、わずかに流血させたことが。


「奈乃!」


 僕より先にルタが息苦しく叫び、それをトリガーにしたように僕はフラっと立ち上がる。

 やばい、もう限界かもしれない。足腰が生まれたての子鹿のように震えている。


 でも、絶対に許さない。皆が受けた傷を何十倍にもしてお前に返してやる。


「うぉおおおおあおおおああああああああああぁぁぁッッ!!」


 喉が切れそうになるくらい無茶苦茶に叫びながら、目の前の敵に向かって突進した。まるでイノシシのようだ。


 けど、僕にはもうそうするしかない。

 一発、一発だけでいいんだ。あの顔面を渾身の力で殴らせてくれ!


 左手を禍々しい顔面に伸ばす。しかし、如何せん大ぶり過ぎた。

 簡単に掴まれて、逆に装甲が薄くなった腹をしつこく膝蹴りで攻められる。


 それなら右だ!

 強く握った拳にオーラが宿る。そのまま一直線。

 が、それも容易く避けられ、追撃の左も顔への裏拳のカウンターで潰された。


 胸部、顔面、腹部、顔面と見事なコンビネーションを決められ、完全にトパーズの独壇場となってしまう。


 体力も底をつき、最後の力を振り絞って右ストレートを放つも、まるでコピーしたかのようなタイミングでトパーズも右拳を僕に向けた。


「終わりだ」


 その言葉とともに届けられたトパーズの右拳は、マスクを容赦なく破壊して僕の顔面に直接届いた。


 そのマスクのおかげでかろうじて威力は軽減されたが、変身と戦意の維持を不可能にするには十分だった。


 着ていた服には腹の部分に大きな穴が開き、全身は血まみれ。

 汚れた僕はゴミのように地面に転がる。


 結局、僕はヒーローになんかなれなかったのか──

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