Trust.03 -真実 運命は遥か昔から-
かつて、人間とカラットは互いの知恵と力を共有して、平和な世界で暮らしていた。
人間より数が劣るカラットは恐ろしい姿に変化することができたが、それを怖がる人間はほとんどおらず、個性として尊重していた。
ガラクはそんな人間をカラットよりも弱い存在と見なしていたが、だからこそ我々が守って共存していくべきだという考えを持っていた。
しかし、ある日を境に両者の間には少しずつ亀裂が入っていく。
人間が多く住む町で彼らと仲良く暮らしていたはずのトパーズが突然人間から非道な扱いを受けるようになり、ついには町から追放されてしまった。
それからというもの、各地で人間とカラットの些細な小競り合い、すれ違いが多発するようになる。
人間のごく一部はカラットを絶滅させると息巻いて無差別に襲撃を仕掛けた。
これは人間とカラットの双方によって鎮圧されたが、以後人間とカラットは小規模かつ地域的ではあるものの戦闘を繰り広げるようになる。
事態を重く見たガラクはカラットたちに人間との関係を今一度修復しようと提案するが、ほとんど聞き入れてもらえなかった。
そんな中、ついに反人間のリーダー格であるカラット、ダイヤが人間との全面戦争を決意する。
何度も交渉に向かったガラクだが、人間もカラットを排除したいと考える層がほとんどになってしまいもはや戦争は避けられなくなった。
未来を創造するべきは人間であると考えたガラクは同胞たちと敵対することになった。
人間とカラットがただ戦うだけでは人間側に勝機はない。
そこでガラクは発明家であるドラル・ハウリングにカラットと人間の力を融合させることを提案した。
装着して人間の体内にカラットの血液とエネルギーを流入させることで化学反応を起こし、神経、細胞、筋肉、あらゆる体内組織を発達させて超人に変身させる装置。
ハウリングは変身後の姿が宝石のように美しかったことからそれを「ジュエライザー」と名付けた。
いよいよ始まった戦争はカラットが優勢かと思われた。
しかし、ハウリング自らが変身した超人は予想を遥かに上回る強さでカラットたちを軒並み塵に還していった。
単体では歯が立たない人間も情報と知恵、そして集団の力を使って次々と局地的な勝利を収めた。さらに、カラット同士の仲間割れによる内乱まで発生し、徐々にその陣営は瓦解していった。
ハウリングとダイヤの一騎打ちの末にダイヤが死亡し、戦争は人間側の勝利に終わった。
しかし、平和が訪れたのも束の間、ハウリングは多量にカラットの血液を摂取してしまったことで暴走したうえで自ら命を絶った。
人間が作る未来にカラットの居場所はないと感じたガラクは人々からカラットがいたという記憶を消し去った。
そして「復活の力」を持つダイヤを懸念し万が一のためにジュエライザーを2つ作成。
一方に全ての記憶を凍結させたうえで妻のルタを封印した。
ハウリングのジュエライザーとともに地中深くに埋めた後、もう一方のジュエライザーに自らを封印して眠りについた──
「……これが、人類の記憶から我が消した歴史だ」
ガラクは淡白だったその声にわずかに感情を乗せて話してくれた。
同族のほとんどを敵に回してしまったんだ。さぞ辛かっただろう。
消された歴史の大きさとガラクの悲壮な決意を感じ取った僕には駆り出すべき言葉が見つからない。
「私とガラクくんは別々に封印されたはずなのに、なんで同じジュエライザーにいるの?」
「ああ。これから話すことは我にも理解し難いことが多い。ひとまず事実だけを述べていく」
再び声音を元に戻したガラクはルタの問いにそう答えた。
そうだ、本題はここからだ。僕もより一層真剣に話に耳を傾けた。
「およそ60年前のことだ。ダイヤの復活の予兆を感じた我は目を覚ました。完全に復活を遂げる前にジュエライザーの『資格者』を見つけなければならない。もう一つのジュエライザーを片手に、我は強力な精神と肉体を持つ者を必死で探した。だがダイヤは不完全な状態ではあったがこの世に再び生を受けてしまった。我はダイヤに殺される寸前だったある若者を助け、その者に我の『資格者』、クリスタルライザーになってもらうことにしたのだ」
60年前。1950年代末期だ。
僕はおろか、両親ですら影も形もない時代。
世界を揺るがすような危機が異世界でもパラレルワールドでもない戦後間もない現代で起こっていたことを知り、僕は夢でも見ているかのような気分になった。
「ダイヤは本調子ではない。奴を倒せば世界からカラットの脅威は完全になくなる。そう思っていた。だが事態は思わぬ方向へ動き始めた。奴は身を削る代わりに漠然とした未来を予知することができた。ダイヤは『2018年にカラットが復活する』ことを予知した。そしてあろうことか、時を超えた。奴にそんな能力はなかったはずだ。我らは戸惑いながらも奴のあとを追って時空の穴に飛び込んだ。……だいたい想像はついたか?」
ガラクは深く切り込まない曖昧な問いを僕に投げかけた。
だが僕には揺らぐことなくはっきりと察しがついていた。
深々と雪が降っていたあの夜に目撃した光景。あれは時を超えてやって来たガラク達だったんだ。
「鮮明に覚えてるよ。あの夜、僕はクリスタルライザーからジュエライザーを受け取って、ルタと出会ったんだ。けど、どうして僕にジュエライザーを? やっぱり近くにいたから?」
僕は昨年の12月から続く最大の疑問を口にした。
ルタも気になっていたようで、うんうんと僕の問いかけのあとに相槌を打った。
「……『資格者』は自宅付近でダイヤに遭遇した。時を超えた先も60年前と同じ場所だった。我は意識と自らの力の半分をもう一つのジュエライザーのクリスタルに再封印して、その本体にルタを結び付けた。ダイヤは未来予知の影響でかなり弱っていて半分程度の力でも倒せると『資格者』が直感的に判断したからだ。そして『資格者』はお前を見て感じ取ったのだ。自分の血を継ぐものだとな」
ガラクがほんの少しだけ間を開けて放った最後の一文が僕の脳内をひた走った。
ずっと気がかりだった謎が解明される瞬間というのは、激しい雷に打たれるというより電流が徐々に強くなっていく感覚だ。
「なぜダイヤ以外の戦争で死んだカラットが復活しているのかは我にもわからん。だが少なくとも、ダイヤは60年前に『資格者』──石海忠義によって倒された。それだけは間違いない」
ガラクは力強くそう断言した。その言葉にわずかの迷いも見られない。
僕が思い出していたのは自分の幼少期。
祖父と一緒に風呂に入った時のことだ。
祖父の背中を流していた僕はその左肩に小さな傷があるのを発見した。「昔やんちゃをした」と今と変わらぬ口調で祖父は僕に話したのを覚えている。
「あの時肩にもらった攻撃の傷跡だったんだね……おじいちゃん」
60年間隠し続けていた事実。
すぐ近くにいた大切な人は、あの日僕を助けてくれたヒーローだったんだ。





