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Trust.02 -決別 そして出会う謎の種-

 夕陽が沈みだした頃、両親は病室を後にした。

 1週間ほどで退院できるようだが、しばらくは家で安静にしていなければならないらしい。


 となると、次に学校に行くのは4月。僕はもう高校三年生になるのか。

 平穏な日々が戻ってくる安心感と裕斗たちへの罪悪感が脳内でバトルを始めてしまい頭が痛いので、心が落ち着くまでゆっくり眠ることにした。


 その前に携帯の電源を入れると五十嵐さんから『大丈夫?』とメールが来ており、何度か着信も入っていた。

 両親以外でこんなにも僕を心配してくれるのは五十嵐さんしかいない。僕はそのことに感謝しつつ、丁寧にお返事を送信した。

 その時、病室の扉がガラガラっと開かれる。まさか、五十嵐さんか?


「やっほー」


 残念ながら正解はルタだった。

 トパーズの一撃をもらった時に巻き添えを食らったのか、顔に多少の傷ができていた。

 すっかり制服姿が様になってきた彼女はベッドのそばにある丸椅子に腰かけた。


「いやー、大変だったねえ」


 他人事のように笑いながらルタは口走る。どんな時でもにこやかなその表情は変わらない。


「お前もな。大丈夫だったか?」


 呆れたように笑いながら僕はそう返す。

 まだ戦い続けるつもりならばそんな笑顔すら浮かべることは不可能だった。

 罪悪感とかほざいていたくせに、早くも僕の心には余裕が生まれていた。


 僕はなんて最低なヒーローなんだ。


「全然平気だよ! 正義も早く治してまた一緒に戦おう!」


 ルタは両こぶしを顔の前に持ってきてグッと構えながら僕をそう励ます。

 ……お前なら、そう言うと思ったよ。


「ああ、それなんだけど……悪い。僕はもう戦わないことにしたんだ。他の誰かを当たってくれ」


 笑っている僕の無責任な態度にさすがのルタも「へ?」と困惑した表情を見せた。

 まあ、当然の反応だろう。


「そんなにひどいケガだったの? あ、それともユートピアのこと? 大丈夫だよ~、正義が本気出せばどんなカラットも一人でやっつけられるって」


 だけど、すぐにルタはもとの笑顔に戻り、楽観的な考えを僕に押し付ける。

 こんなにも純粋な瞳をしているんだ。悪気がないことくらい分かっている。


 分かってはいるけど、僕はもう黙っていられなかった。


「……ルタ、お前も所詮カラットなんだな」


 僕の若干怒気を込めた言葉を意に介すことなくルタは「そうだよ?」と疑問符を浮かべた。

 ここまで言っても分からないなら、もう言えるところまで言ってやる。


「前から言おうと思ってたんだ。お前には人の心がないんだよ。人の気持ちも考えずに自分の言いたいことだけ言って、それがどれだけ迷惑なことか分かってるのか? お前が余計なことを言わなければ大は死ななかったかもしれないんだ。一人で戦える? そんなわけないだろ。僕にとって彼らがどれだけ大切な存在だったか、自分のことしか頭にないお前には分からないだろうな」


 ここまで言ってもこいつには少しも響かないのだろう。そう思いルタの顔を一瞥した。


 しかし、ルタは今まで一度も見たことがないほど悲しい顔で「でも……」と一言呟いた。


 ……これじゃどっちが自分勝手かわからないな。


 卑怯にも僕は逃げるように窓の方へ寝返りを打ち、静寂を耐え忍ぶ。

 少し言い過ぎたかもしれないけど、悪いとは思ってない。全て本当のことだ。


「──ルタを責めるな」


 ん? 誰だ?


 僕の耳元で聞いたことのない男性の声が響く。

 痛む身体に鞭を打って振り返るが、そこには俯いたままのルタしかいない。


 こんな幻聴が聞こえるなんて、きっと疲れているんだ。完全に疲れがとれるまでゆっくり休まないといけないな。

 大きくため息をついた、その時だった。


「全ての責任は我にある」


 ルタの首にぶら下がっているクリスタルが淡く点灯している。

 ……間違いない、今このクリスタルから声が聞こえた。


「何だよこれ」とルタに問うも、彼女自身も驚いたように「知らない」と答える。

 おいおい……また厄介なことになるんじゃないのか?


「お前、誰だよ」


 とりあえずクリスタルに向けて僕はそう問いかけた。

 もうどうでもいいことのはずなんだけど、それだけははっきりさせておきたかった。

 男性が話し出すとクリスタルはまた光を灯した。


「我の名はガラク。ルタの夫だ」


 ガラクって、お前があの……え?


 おっとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!????





 トパーズはルタがガラクというカラットと仲が良かったと言っていた。

 だがそれはどうやら間違いだったようだ。


 仲が良いどころか結婚してんじゃねえか!

『彼氏いない』どころか既婚者じゃねえか!

 ああもう、何がどうなってるんだ!!


「えーっと、まず整理しよう。あんたはかつて戦争で人間側に味方したカラット、ガラクで、ルタはあんたの……お嫁さんってことでいいんだろうか」


 あまりにうろたえて声が裏返りまくっている僕を一切気にすることなく、ガラクは「そうだ」とはっきり言い張った。

 クリスタルから声が聞こえているだけなので姿形は全くわからないが、その渋い低音ボイスと硬い話し方から、だいたい僕より一回り上の世代くらいの外見かなと勝手に妄想していた。


「はへー、私結婚してたんだね。知らなかった」


 ルタはせいぜい目を丸くさせる程度の、相変わらずの薄いリアクションを病室内に炸裂させる。

 それだけはもっとちゃんと驚いた方がいいぞという僕のツッコミも「そうなの?」の一言で片づけられた。


 結婚って女の子にとって一大イベントじゃないのか?

 もうそんな時代は終わったのか?

 それともこいつがおかしいだけか?


「知らないのではない。忘れていただけだ」


 脳内でそんな事案を繰り広げる僕の目の前でガラクはそう口にする。

 ルタには昔の記憶が頭に無いから知らないようなもんだけどなあ。


 すると突然、クリスタルは輝きの光度を増していき、至近距離では眩しくて目が当てられないほどになった。

 僕もルタも困惑する中、ガラクが一言呟く。


「解凍」


 その言葉とともにルタの双眸がわずかに青く光り、呆然とした表情で窓の方を凝視し始めた。

 どうなっちゃってるんだ……?


 彼女の瞳から光が消えると同時にクリスタルもその光度を徐々に落としていった。


「久しぶりだな、ルタ」


 ガラクは少し声色を柔らかにしてルタにそう話しかける。

 久しぶりって言われても、ルタにはわからないので意味がないと思うが。


「あれ? ガラクくんじゃん! 久しぶり~! そんなところで何やってんの?」


 だが驚いたことに、僕の眼前にはクリスタルに向かって旧知の仲のように親しげに話しかけるルタの姿があった。

 嘘だ……まさか、記憶が戻ったのか?

 僕は声にならない驚きを顔に示しながら、身を乗り出してガラクに聞いた。


「おい、どうなってるんだよ」


「我は人の記憶を操作する力を持つ。ルタの記憶は我がかつて凍結させていた。それを今一部のみ解凍したのだ」


 ガラクの言葉にルタは「そういえばそんなことできたねー」と感心していた。

 記憶操作とかどんなチート能力だよと言いたくなったが、今は横に置いておこう。問題はそこじゃない。


「トパーズやターコイズに会ったんだ。でも彼らは昔の記憶をきちんと持っていた。なんでルタだけ記憶を凍結されてたんだ?」


 真剣な眼差しでクリスタル──ガラクを見つめる僕。

 カラットのことはだいたい分かったつもりでいたが、まだまだ謎も多い。


 それにずっと気になっていた。

 ルタ、ひいてはこのジュエライザーが一体何なのか。

 そして、どうして僕がクリスタルライザーになったのか。

 ヒーローを辞める前に、それだけは知っておきたかった。


「少し長くなるが……それでもいいか?」


 僕はその問いにしっかりと頷いて、身体を起こした。

 ガラクはそれを確認するように一呼吸おいた後、自らが知っている全てを話し始めた。

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