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Sacrifice.09 -再来する絶望-

 そこには、無数の青いカラットに囲まれたまま血だるまになったターコイズが倒れていた。

 ターコイズは別動隊として偵察に来ていたはずだ。自分から突っ込んでいったとは考えにくい。

 ということは、見つかったのか?


 なるべく冷静に考えを巡らせる僕の隣で裕斗はわなわなと震えていた。

 何か声をかけようと思った瞬間、彼は怒りに任せて小窓を突き破ってしまう。


「裕斗、待って!」


 僕も後に続いて中へ突入すると──


「ほう、随分と遅かったな」


 ろうそくの灯が数本燃えているだけの暗い部屋で、青いカラットのうちの一人がそう喋る。まるで僕たちが来ることを予測していたかのような口ぶりだ。

 裕斗は身体が硬化しかけているターコイズのもとに急いで駆け寄る。


「何があった! 乗り込んだのか!? 気づかれたのか!?」


 抱きかかえられたターコイズの呼吸は落ち着くことを知らない。真っ赤な血を全身から垂れ流し、その命はもう幾許もないことが分かってしまう。

 ターコイズほどのカラットがこんなやつらに……。


「こいつらは……俺様たちに気づいたんでも見つけたんでもない。俺様たちが来ることを最初から知っていたんだ……まんまとハメられた……! 裕斗、正義、今すぐ戻れ。仲間たちが危ない。俺様はここまでのようだ……すまない」


 腕にしがみついてそう頼み込んだターコイズは力尽き、全身が硬化しきった後で虚しく砕け散っていく。

 裕斗は消えてしまった仲間を前にただ呆然としていた。呼吸を荒くして、目の前の状況がまるで信じられないように。

 僕は青カラットの一体を掴んで投げ飛ばし、押さえつけたままこの状況を問い詰めた。


「お前たちがターコイズを……。どうして僕たちがここに来ることを知っているんだ? どこかで話を聞いていたのか?」


 セイバーの刀身を首元まで近づけておよそヒーローとは思えない態勢で問うが、青カラットはケケケと不愉快な笑い声を上げた。

 それにつられるように他の個体も同じように笑い始める。


「我々はアメジスト様から命を受け、この地に来たる三人の者どもを始末するように言われたのみ。一人は殲滅完了。残りは貴様ら二人だ」


 またアメジスト……黒や赤と見た目が一緒なあたり、こいつらもあいつの能力で作られた兵隊ということか。赤より強い上に自我まで持っているようだ。

 今はこいつらの相手をしている暇はない。どうする、逃げるか?


「正義、どいてろ」


 その時、圧倒的かつ絶対に逆らってはいけない殺気を背中に感じた。

 何かを考える前に、僕は裕斗の背後まで後退する。


 裕斗は手の平にドス黒いエネルギーの塊を集めて、それを床に叩きつけた。

 すると廃墟の壁が影が広がるように黒く染まっていき──


「ナイトメアスティング!」


 次の瞬間、漆黒に濡れた壁から無数の巨大な棘が出現し、青カラットを四方八方から串刺しにした。

 その場にいた全ての青カラットは身体を貫かれ、全員が例外なく塵に帰す。


 壁からエネルギーが消失してもなお、裕斗の息は荒い。僕は彼の胸をポンと叩いた。

 僕だって怒っていないわけじゃない。だけど今は、ターコイズの遺言通りに一秒でも早く拠点に戻ることが先決だ。


「ありがとう。急ごう、裕斗」


「……そうだな」


 彼は自らの右手を物悲しげにしばらく見つめていた。

 裕斗は誰よりも優しい。本当に悪いカラットでもきっと心の底では殺したくないと思っているんだ。それが、仲間を殺害したただの(しもべ)だったとしても。


 だから、裕斗が誰も殺さなくてもいいように、少しでも起こり得る危険を回避する必要がある。

 何が起きてるのかよくわからないけど、絶対に僕が止めてみせる。

 決意を胸にした僕と、仲間の死を未だ受け止められない裕斗は廃墟を後にした。





 全速力で森を抜けた僕たちはそのまま拠点の廃工場に急行した。

 可能性として考えられるのは、手薄になったユートピアをアメジストが襲撃していることだ。いや、逆にそれしか考えられない。とにかく今は拠点まで急ぐしかない。


 僕と裕斗は夜道を飛ばす車より遥かに速く走り続け、かなり体力を消耗したが予想よりずっと早く拠点までたどり着いた。


「やっぱり……カラットまみれだ」


 工場内には黒カラットが大量に蔓延っており、奥の棟からは不穏な煙が立ち昇っている。

 トパーズ、甘莉さん、慎治さん、どうか無事でいてくれ!


「行くぞ正義! 俺たちの理想を壊そうとするやつを全員ぶっ飛ばしてやろうぜ!」


 見せかけの前向きさを見せる裕斗を少し可哀そうに思いながらも僕は同調して返事をした。

 裕斗がなるべく傷つけないでいいように、僕が頑張らないと!


 僕はセイバーを、裕斗は忍者刀を片手に、黒カラットの群れに突っ込んでいく。

 赤や青と違ってやはり黒カラットは脆い。クリスタルエナジーを込めなくても思い切り一刀両断すればそれだけで砕け散ってくれる。しかし、コストが低い分生産性がいいのか、おびただしい個体数が波のように攻め立ててくる。


「キリがねえ! 正義、同時に行くぞ!」


「わかった!」


 前線から一歩退いた裕斗は忍者刀の細い刀身に紫炎を走らせて暗黒のエネルギーを内包した。僕もセイバーの刀身を蒼く染め上げる。

 蒼炎が迸るセイバーを裕斗と同時に横に一閃する。青紫の巨大な衝撃波が大気を揺らしながら目の前の黒カラットを豪快に駆逐していった。


「かなり見やすくなったね」


 衝撃波が消滅したころには黒い無数の残骸が散らばっているだけだった。周りの状況が把握しやすくなり、メンバーがいつも集まっている棟から発煙していることが確認できる。

 あそこで確実に何かが起こっている、それだけは間違いない。僕と裕斗はものの数秒でそこまで走り抜けた。


「待ってろよ、お前ら!」


 中の様子は見えないが二階から何やら剣戟のような音が聞こえる……。お互いに顔を見合わせて頷いて突入しようとしたその時──


 僕たちのそばにドサッと何かが落ちた音がした。

 シルエットは、人の姿。そしてその正体を脳が理解してしまい、すぐに僕たちは言葉を失った。


「し、慎治さん……?」


 落ちてきたのは紛れもない、慎治さん。こちらに背を向けて倒れている慎治さんを僕たちは慌てて仰向けにする。

 口から鮮血を流し、胸部や腹部を複数回綺麗に貫かれていた。その瞳の輝きはもう消えかかっており、助かる助からないの議論をする余地なんてなかった。


「慎治! しっかりしろ! 何が……俺たちがいない間に、一体何があった!」


 裕斗の必死の呼びかけに慎治さんは少しずつ口を開いた。

 話すこともままならないほどの苦痛に満ちた表情。激しく血を吐いた。

 痛々しくて思わず僕は目を逸らしてしまう。


「アメジストが攻めてきたのか……!?」


 裕斗が慎治さんの顔に耳を近づけてそう問うた。しかし、慎治さんはどこか悔しそうにゆっくりと首を横に振る。

 アメジストじゃ……ない……?


「アメジストだけじゃない……見たことがないカラットもいたが……がはっ……俺たちをいたぶってどこかへ消えた……。俺のことはいいから、早く行け……! 甘莉が、危ない……」


 慎治さんは裕斗の肩を掴んで切実にそう訴えた。

 ひどい……そりゃ敵同士だけど、何も寄ってたかって攻撃しないでもいいじゃないか。

 慎治さんの痛ましい姿を見ながら、僕は静かな怒りを沸々と心に滾らせていた。


「おい、甘莉って……トパーズはどうしたんだよ!」


 裕斗がトパーズの名を口にした瞬間、僕は悪夢のようなとてつもなく嫌な予感を抱いてしまった。

 アメジストが自分の力ではなく、誰かから偵察のことを聞いていたとしたら。

 今日の偵察を提案したのも、緊急時に駆け付けられるために他のメンバーをここに集めたのも……。


 慎治さんは下半身から硬化していく身体から、全ての力を振り絞って僕たちに伝えた。


「裕斗、正義……頼む。トパーズを止めてくれ」


 慎治さんは全てを僕たちに託した直後、黒く硬化した身体がバラバラになり死亡した。

 それはあまりにもあっという間で、呆気ない最期だった。声も出せずに、その場で時が止まったように固まる。


 もう二度と、あの優しい微笑みを見ることはできない。

 自分の人生の答えを探していたんだ。こんなところで終わっちゃうなんてあんまりだ。

 マスクの中で静かに涙を流した。裕斗はそんな僕を強引に立ち上がらせる。


「いいか……。慎治の死を無駄にしちゃダメだ。急いで甘莉を助けにいくぞ」


 その裕斗も涙声を抑えられてはいない。

 僕は今この時何をするべきなのか再認識して、涙を振り切った。


 そうだ。裕斗の言う通り、皆の死を無駄にしてはいけない。


 僕たちは慎治さんの亡骸を綺麗に集めた後、外階段を駆け上って非常用のドアを蹴破って二階に突入した。

 さらなる絶望が待っているとも知らずに。

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