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Confidence.2 -拒絶-

 廊下側の後端に座った彼女は休み時間にクラスメイトに囲まれていた。一風変わった転校生が初日にされることといえば、もちろん質問攻めだ。

 教室の外にも他クラスの生徒が数名集まっており、ちょっとした騒ぎになっている。


 外見や名前に関しての質問は「海外生まれだから」という曖昧かつ適当な答えで受け流していた。

 他にもいろいろな質問をされてその都度無難な返答をしていた。当然、すべて嘘だと分かっているのは僕だけだ。

 極力関わりたくなくて、飛び火を避けるためにもボケっと窓の外を眺めていた。


「どの辺に住んでるの?」


 しかし、ある生徒の何気ない質問が僕の背筋を凍らせた。

 おい、頼むから変なこと言うんじゃないぞ……?

 怖くなってチラッと彼女の顔を覗くと明らかに返事に困っている表情だった。

 僕に気づいた彼女は「なんとかごまかせ!」という僕の切実な願いをよそに口を開いた。


「えっと……両親は仕事で忙しいからいつもいなくて、親戚同士の仲がいい石海くんの家でお世話になってるんだよね」


 設定だけ凝っておきながら事実はそのままだ。僕は頭を抱えた。

 僕の名前が出た瞬間、その場にいた全員の目線がこちらに集中した。女子は「大丈夫なの?」と心配の表情を浮かべる者がほとんどだった。余計なお世話だ。

 おっと、男子諸君、そんな憎しみに満ちた顔で僕を睨んでも何も出てこないぞ。


 次の休み時間からは僕のところにも数名の男子がくだらない質問をしてきた。

 僕はその全てに適当に答えた。本当に面倒くさかった。早く帰りたかった。





 昼休み、誰もいない屋上に彼女を呼び出した。

 転校初日の彼女と僕が一緒に歩いていると何か良からぬ噂が立つことは容易に想像できたので、休み時間に隙を見て屋上へ来るように彼女に伝えた。

 たった一人で校庭をぼんやり見つめながらおにぎりを頬張っていると、彼女がスキップしながらやってきた。


「お待たせ~。ねえねえ、栗栖ルタって即席にしては結構いい名前だと思わない? なんかパッて思いついたんだよね」


 クリスタルを一文字並べ替えただけの名前を自慢された。どうでもいい。ため息をつきそうになったが寸前でやめた。ため息の無駄だ。


「いろいろ言いたいことはあるけど、ひとつだけ。なんでお前はここにいるんだ? 再度言っておくけど、僕はクリスタルライザーってのにはならないぞ」


「なんでー!? このままじゃこの世界はカラットのものになっちゃうよ? それでもいいの?」


 彼女は僕の顔を覗き込み、露骨に不満そうな表情を浮かべて反論した。風に吹かれて青白い綺麗な髪がなびいている。


「知らないよ、そんなのどうでもいい。どうせ僕は死ぬんだ、世界を救おうが救わまいが」


 もう彼女と話すのが面倒くさくて、早く一人になりたくて、ほとんど何も考えずに口任せに答えた。

「ふーん」と興味があるのかないのかわからない返事をした彼女はふらふらとうろつきだした。


「昨日も言ったけど、私ほとんど何も覚えてなくてさ。それこそ自分の本当の名前も。正義にクリスタルライザーになってもらわないと、私やることないんだよね」


 今度は退屈そうな表情になって彼女は僕にそう言った。

 そんなこと言われたって僕にはどうしようもない。さすがに「知るか」とは言えないし、適当な返しも思いつかず僕は黙ってしまった。


「正義に私が託されたのはきっと何か理由があるんだと思うし、私も正義以外にやってもらうつもりはないから」


「だから僕は……」


「ま、やる気になったら言ってね」


 表情豊かな彼女は笑顔でそう言い残して手を振りながら去っていった。


 溜まりに溜まった息を一気に吐き出すと、白くホワッと浮かび上がって一瞬で消滅した。

 僕がクリスタルライザーにならない限り、彼女はずっと付きまとってきそうだな。

 面倒くさい…………誰だか知らないけど彼女を僕に託したあいつ、恨むぞ。


 しかし、彼女の言うことが正しいなら肝心のカラットはいつ復活するんだろうか。

 敵がいないとヒーローになっても意味がないと思うけど。


 急に冷たい風が吹いて僕の身体に打ち付ける。非常に寒い。もう屋上で昼飯食べるのはやめよう。

 僕はおにぎりを一気に詰め込むと急いで校内に戻った。


 既に脅威はすぐそこまで迫っていたことなど、僕は微塵も知らなかった。





 僕は荒野のど真ん中に突っ立っている。無数のわけのわからない姿をした者たちが僕を取り囲む。きっと人間じゃない。

 僕が何かを言うと身体が光り輝いた。ぼやけてどんな感じかよく見えない。

 そのまま駆け出した僕は向かってくる敵を蹴散らしていく。僕ってこんなに強かったのか。

 大群をかき分けた先に見えたのはいかにも悪役っぽい黒い姿のバケモノ。こちらも詳しい姿はよくわからない。

 右手で殴り掛かる僕に対して相手も同様に殴り掛かって来る。互いの拳が激突する——



 そこでパチッと目が開いた。──いつもの天井だ。周りは真っ暗。

 2秒ほど経過してさっきまでの不思議な光景は夢だったんだと気づいた。そうか、夢か……。


 夢の中の僕は理想の僕だ。現実の物静かで少々不気味な僕と違って、非常に生き生きしている。

 僕は本当はそんな風に生きていきたいのかな。僕は本当はヒーローになりたいのかな。


 妄想や夢の中じゃない、現実に存在している僕は、本当はどうしたいんだろう。

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