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Sacrifice.06 -結実する正義-

「悪いけど、今はお前に構ってられるほど暇じゃないんだよ。消えてくれ」


 僕のあしらうような言葉を最後まで聞かずにエコーはいきなり拳を突き出した。

 手の平で受け止めたそれが、少し震えている気がするのは気のせいだろうか。


「お前といつも一緒にいる女にカラットを探してるって聞いてな。俺はお前と戦うため()()に生まれてきた男だ。さあ、早くやろうぜ」


 ──ちょっと待て。


「お前、五十嵐さんに近づいたのか……?」


 そういえば、将子ちゃんの友達にも近づいてたって話だったな。

 忘れていたわけじゃない。だけどこいつも所詮カラットで、アメジストの仲間なんだ。

 放っておくと何をしでかすかわからない。これ以上、大切な人たちを危険に晒すわけにはいかない。真っ当な正義感が僕の心根で燃え上がる。


「もうお前に好き勝手させるわけにはいかない。エコー、僕が絶対にお前を倒す」


 急に闘争心をむき出しにした僕にエコーは多少驚いたようだが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。


「正義! こっちは俺たちに任せろ! 存分に戦ってこい!」


 裕斗が忍者刀で赤カラットを切り伏せながら、そう後押ししてくれた。

 うんと頷いた瞬間、僕とエコーだけが緑の光に包まれた。僕も全力を出したいので、エコーが作る異空間の方がやりやすい。

 やがて光は広がっていき、粒子状になって霧散していく。眩しくて閉じていた目をゆっくり開けると、浅い川が流れる森林の中に僕たちはいた。


「俺もお前をぶっ倒してやるよ。手加減抜きでな」


 川を隔てた向こう側にいるエコーは僕をピストルで撃つ仕草をかました後、無数の緑の結晶を身に纏って禍々しく煌めく緑のカラットに変化した。

 早速ジャブジャブと川を突っ切ってこちらに向かってくる。その姿はまるで獲物を追いかけるライオンのようだ。

 今回は様子見なんてしない。どれだけ攻撃をもらおうとも攻め続けるつもりだ。


「ガラスセイバー!」


 セイバーを手に取って川へ突入し、肉薄した瞬間エコーの身体を全力で斬りつけた。

 だがあまり効いてないようで、エコーが出現させた短い双剣の刀身が光り、衝撃波がゼロ距離で放たれる。


「緑光斬!」


 セイバーの刀身の根元で受け止め、何とか横方向に弾き飛ばした。

 あいつ、いきなり大技使ってきやがって……。

 エコーは攻撃の手を緩めることなく、双剣をめちゃくちゃに振るって隙を作らせない。

 全てセイバーで受け止めてはいるが、このままじゃ防戦一方だ。

 いや、何を弱気になっているんだ僕は。さっき攻めると決めたばかりじゃないか。


 セイバーで双剣を押し返すと、少し態勢を崩したエコーに何度も斬撃を繰り出した。縦横無尽に斬り続ける僕にエコーは手が出せないでいた。付け入る隙など与えさせない。


 前回は彼に対する恐怖心もあって、守りの攻めになってしまった。

 けど、今日は違う。

 恐怖心がなくなったのもそうだが、今日のエコーには前回のような無邪気な殺気をあまり感じない。どこか不純物が混じっていて、心が乱れているような感じだ。


「この野郎……調子に乗るなああああっ! 緑光砲!」


 エコーはドスの利いた怒声を上げながら、左手にライムグリーンのエネルギーを収束させて特大のビーム砲を放出した。

 僕は大急ぎでクリスタルエナジーをセイバーの刀身に走らせた。刀身の色が半透明からよりはっきりとした青に変わり、同色の炎が迸る。


 セイバーを目の前にどっしりと構えて、真っ正面から受け止めた。

 なんて重さだ……何重にも重なった鉄壁が押し寄せてくるみたいだ!

 一瞬でも油断すると押し潰されてしまうぞ……!!


「ハハッ、お前はバカか! こんな攻撃避けれたはずなのに、自分から向かってくるとはな!」


 エコーは嘲笑するようにそう言い放ちさらに出力を上げる。

 川が大きな波を立て、木々は吹き飛んでしまいそうなくらい揺れている。

 現実世界だと災害レベルの被害が起きそうだ。

 僕も徐々に後退を余儀なくされ、ジリジリと身体が後ろへ押されていた。

 それでも僕は必死に踏ん張る。絶対に負けられないんだ、今この時だけは。


「多少無理したって、大切な仲間たちが僕を支えてくれる。それを信じて、そしてそんな彼らを僕自身も支えたいと思う。だから頑張れるんだ。こんな攻撃、避けなくてもいいくらい!! はあああああああアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!!」


 僕の心に爆炎が舞い踊ったのを感じ取った。

 その瞬間、水を蹴り飛ばして最高出力で前進する!

 割れんばかりの轟音を放つビーム砲の中を突進しながら必殺技のイメージを固める!

 熱い、身体が溶けてしまいそうだ! だけど、気にしてなんかいられない!

 長大なビーム砲を突き抜けた先にはひどく狼狽するエコーの姿があった。──僕の勝ちだ!


「ガラススイング!」


 蒼炎に包まれる刀身をバットをフルスイングするようにエコーの胴にぶち当てて、遥か後方へ吹き飛ばした。

 異空間の壁に衝突し、剥がれるようにぐったりと落ちて倒れる。


「おお〜、場外ホームランだね」


 ルタが感嘆の声を上げる。セイバーの刀身は輝きを失い、4つ分にまで短くなった。

 無理したって大丈夫とは言ったものの、さすがに負担は大きいな……。地面に膝をついてしまいそうになった、その時だった。


「緑光弾」


 一刀両断したはずのビーム砲が上空で光弾に変化しており、一斉に僕に向かって射出された。

 脚部にわずかに残るクリスタルエナジーを使って避けていくが、油断と疲労で捌ききれなくなってしまい数発が身体に着弾して爆発する。


 胸部の装甲がかなり削られてしまい、欠片となったそれらは川に流されていく。大きな衝撃に思わず僕は倒れてしまう。

 戦況としては僕が有利だろう。だけど、油断してはいけない。高を括っていると、あいつは間違いなく予想外の反撃をしてくるはずだ。

 最後まで気を抜くな、戦いはまだ終わっていないんだ。

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