Sacrifice.03 -邂逅する同志-
「悪いな、遅くまで付き合わせちゃって」
楽しい宴もあっという間に終わり、僕は裕斗と一緒に帰り道を歩いていた。
今日は星がよく見える。小さな輝きを放つ星々に囲まれるように堂々と満月が夜空の中心に居座っている。
まだまだ寒いというのにその光は妙な温かさを感じさせ、僕の心を満たしていった。
「ありがとう。その……楽しかったよ」
自然と口から感謝の言葉が飛び出して、言ったそばから妙に照れくさく感じてしまった。
カラットやクリスタルライザーに関係の無い、本当にただくだらない話に花を咲かせていただけだったが、僕にとってはそれが凄まじく楽しい時間だった。
「まあ、俺達は基本いつもあんな感じで何もない時はあそこでしゃべってるだけだ。こっちこそ来てくれてありがとうな。正直、来てくれないと思ってたから。ほら、いろいろあったんだろ?」
羽織っているだけのジャケットの下は半袖という、季節に逆行するファッションの裕斗。
一瞬大の顔が頭に思い浮かんでしまい、思わず僕は表情を暗くしてしまう。すぐに見せかけの笑顔を作って「うん」と渇いた返事をした。
「──っと、悪い。俺何でもかんでもすぐ話しちまうからさ、甘莉にもよく怒られてるんだよな」
それを見抜かれたのか、裕斗の笑顔にも少しだけ影が差した。
申し訳ないな、気を遣わせちゃって。僕は先ほどまでの楽しい空気に戻すために違う話題を提示した。
「甘莉さんとは随分仲が良さそうだけど、どうやって知り合ったの?」
僕の軌道修正のための質問に、寒そうに手と手をこすり合わせながら裕斗は答えてくれた。
寒さに強いのかと思いきや、普通に寒いんだな……。
「ある朝、鏡を見たらバケモノになっててさ。同じような人間と何かしたいと思ってひたすら探してた時、ちょうどこの公園であいつに会ったんだよ。なかなか見つからなかったから、ひと目で同じだと分かった時は嬉しかったなぁ」
マンションやビルが立ち並ぶ中に埋め合わせのようにポツンと設置されている小さな公園がそこにはあった。遊具は滑り台とブランコのみであとは小さなベンチがあるだけだった。
なるほど、『ユートピア』はここで誕生したんだな。
「あいつ常に喧嘩腰だろ? それが原因で同級生といざこざがあって不登校だったらしくてさ。暇だったみたいで、案外すんなり受け入れてくれたよ」
前から思っていたが、裕斗は甘莉さんと話している時や彼女の話をしている時はいつも以上に楽しそうだ。
つまりそういうことなんだろうなと、僕は勝手に野暮な妄想を膨らませていた。
「羨ましいよ、自分から何かしようと思えるなんて。僕はずっと受け身で生きてきたし、クリスタルライザーになったのもルタにしつこくせがまれたからだったし。行動を起こす勇気が僕にはないんだ」
自由に生きている裕斗と殻にこもって不自由に生きてる僕を比べて、ついそんな弱音を吐いてしまう。
だが裕斗は小さく僕の背中をポンと押すように叩いてくれた。
「んなことねえだろ。行動したってどうにもならねえ時もある。待つ勇気ってのも大事だと思うぜ? それに、最終的には自分で決めたんだろ? なら、それも立派な行動だ」
裕斗のその諭すでもなく教えるでもない、あくまでただ自然と言葉を発しているだけの口調に、先程から続いていた僕の心の安定はほぼ確立されたように感じた。
僕は本当にいい仲間たちに巡り会えたみたいだ。
彼らと会って、あの日から降り続いていた心の雨は徐々に止み始めている。そんな気がしてやまない。
「そ、そうかな……ありがとう」
裕斗は鼻の下を指でこすりながら照れくさそうに笑った。
つられて僕も少しだけ微笑んだ、その時だった。突然闇の中から不気味な声が届く。
「よおよお、人間さん。突然だが、俺様に殺されてくれないか?」
白いシャツに黒のタンクトップという、裕斗と同じくどう見てもこの時期には寒い服装の大男。普通じゃない発言をしながら僕達の前に現れた。
僕は早速変身しようとジュエライザーに手をかけたが、裕斗はその手を抑えて止めた。
「まあ待て。ここは俺にまかせろ」
裕斗は自信満々な微笑みを見せている。どうするつもりなんだろうか……。
彼はそのまま大男のもとへ歩み寄った。大男は気合を入れるような唸り声を上げると、青緑色の無数の結晶を身にまといカラットに変貌した。
「俺様はターコイズ。残念だがお前の名前を聞く時間はない。今からこの手で殺されるんだからな」
濃い空色を全身に纏わせているターコイズは丸太のように極太く発達した右腕を裕斗に向けて振るった。危ない!
だが僕の心配をよそに、裕斗は避けるどころか額で思いっきりその剛腕を受け止めた。
首の血管がピクピクと浮き出ているが、裕斗自身は平気な様子だ。これにはターコイズも驚いていた。
「いいパンチだ。気ィ抜くと脳ミソ吹っ飛ばされちまいそうだな」
裕斗はニヤリと口元を緩ませると真っ黒な結晶を自分の周りに出現させた。
夜の闇に溶け込むどころか逆により黒く染めてしまいそうなほどの闇に身を包み、禍々しさを残しながらも今まで出会ったカラットとは一線を画すスラッとした姿に変わった。それはまるで──
「忍者みたいだ……」
ターコイズはその姿を見てゆっくりと腕を元に戻し、そして驚嘆しながらも実に楽しそうな笑い声を上げた。
「ハッハハハハハ! まさかカラットだったとはな。カラットのクセに俺様とやろうってのか?」
「先に仕掛けてきたのはお前だろ? ま、俺の後ろのあいつに手を出すってんなら話は別だけどな」
挑発的な言葉を交わす裕斗とターコイズ。
両者の間に緊張感が波打つ。ターコイズは豪快に大笑いして、足を開いて踏ん張った。
「これはいい。ちょうど弱っちい人間を殺すのには飽きたところだ。お前は……俺様をどこまで楽しませてくれる!!?」
再び剛腕を振りかざすターコイズ。
裕斗は手元を光らせて忍者刀のような細長い刀を取り出し、素早い動きで拳を刃で受け止めた。
交わり合った瞬間、巨大な金属同士がぶつかり合うような音とともに周囲に衝撃波が走る。
あんなに大きな拳を細い刀一本で止めてる……すごい。
「ほう、ならこれはどうだ?」
ターコイズは裕斗の眼前で左手を開き、巨大な光球を回転させて射出した。避ける間もなく光球は裕斗の顔面に直撃して大きな爆発を起こす。
少しの間を開け、裕斗の身体は上半身からバラバラと崩れ去ってしまった。そ、そんなバカな……。
しかし次の瞬間、ターコイズは無数の斬撃をその身で受けて吹っ飛ばされ、その背後には裕斗が堂々と立っていた。
まさか、変わり身か……?
「お人形に手ごたえはあったか?」
挑発と自信にまみれた一言を浴びせながら、倒れているターコイズに裕斗は刀を突きたてた。
か、かっこいい……僕もあんな台詞言ってみたい……。
剣先がキラリと光っている刀を前にターコイズはまたしても大笑いしだした。自信があるのは裕斗だけじゃないようだ。
「大昔の戦争でバカみたいに強い緑色の戦士とやり合った時以来の感覚だ。俺様はずっと、お前のような奴を探していたんだ……!」
戦争を経験している、ということはオリジナルのカラットなのか。
跳びあがったターコイズは降下の勢いとともに裕斗に拳を振り下ろす。裕斗はバックステップでそれを避け、行き場を失った拳は地面にぶち当たり大きなヒビがバキバキと走った。
すぐさま左手で光球を放つターコイズ。裕斗は刀でそれを真っ二つに切り裂き、後方で爆散した。
「──なあ、お前のその力、もっと面白いことに使いたいと思わねえか?」
「何だと?」
だがここで、優勢だと思われた裕斗は突然人間の姿に戻り、ターコイズにそう話しかけた。ターコイズは裕斗の真意がわからないようで、訝しげだ。
「俺たちはカラットと人間の共存という理想を目指している『ユートピア』というグループだ。弱い人間を殺すのは飽きたって言ってたな。どうだ、かつての仲間を裏切ることになるが、俺たちの仲間になれば思う存分カラット相手に暴れられるぞ?」
まさか、勧誘してるのか……?
覚醒者ならまだしも人間と戦争して敗れたオリジナルのカラットだ。人間との共存なんて望むはずがないと思うけど……。
裕斗の口説き文句を聞いたターコイズは高笑いを宵闇に放つ。そして、僕の予想とは裏腹に、彼も変身状態から人間態に戻り裕斗に近づいた。
「この時代にガラクと同じようなことを口走るやつがいるとはな! 俺様はもともと人間に大した恨みはない。お前についていけば存分に楽しめそうだ。その話、乗ったぜ!」
二人はお互いの拳を突き合せてから握手を交わした。
マジか……まだ出会って数分だぞ……あれが人望、あれがリーダーシップ……。
僕にないものを裕斗はきっと全部持っているんだろうな。衝撃と羨望を抱えながら僕は一瞬で仲間になった二人を静かに見つめていた。
「お前、オリジナルのカラットか! ならトパーズを知ってるだろ? あいつもユートピアの一員だぜ」
裕斗の言葉にターコイズはひどく驚いて目を丸くしていた。何か思うところがあったのだろうか。
「おいおい、トパーズはカラットの中でも群を抜いて人間が嫌いだったはずだぞ? いやぁ、あいつも変わったなあ」
笑いながらかつての仲間の変心を感慨深く感じているターコイズ。
トパーズ自身は人間側につくかどうか迷ってたって言ってたよな……きっと自分の中でかなり葛藤したんだろう。
トパーズが人間側についてくれた要因の一つには裕斗の力もあると思う。裕斗のどこまでも前向きな姿勢が決め手となったんじゃないか、僕にはそんな気がする。
そういえばまたガラクという名前が出たな。
人間側に味方したカラットの一人でルタと仲が良かったらしいけど、一体どんな奴なんだろう。ルタが復活しているならそいつもどこかにいるはずだ。





