Yell.09 -心があっても止められない-
変身しながら走り出し、こちらに向かってくる大の身体にしがみついて動きを止めた。
だが、大はそれをものともせずに逆に僕を押し返して離れた。なんてパワーだ……簡単には静止させられそうにないな。
大は両手の甲から棘を生やして、真っ正面から突っ込んで来た。しっかりと防御するために僕もファイティングポーズを取った。
「お前の攻撃、全部受け止めてやるよ!!」
棘まみれで鈍重そうな見た目からは思いもよらない速度で接近してきた大は左、右と次々パンチを繰り出す。
鋭利な棘が身体に近づくたびに背筋が凍るようにゾクッとする。まともに食らえば装甲なんてあっという間に粉砕して生身を貫通されそうだ。
軽い左ジャブから力強い右ストレートが放たれ、少し後ろに下がってそれをかわした。
しかし、眼前で空を切る大の右腕から長い棘が突如出現し、それで僕の胸部を斬りつけた。
バリンとガラスが割れるような音が響いて、地面に装甲の結晶がパラパラと落ちる。残った胸部の装甲には斬られた痕が大きくついていた。心臓をえぐられたのかと錯覚するほどの衝撃だ。
「このバカ……目を覚ませ!!」
攻めに転じて、オーラを纏った右ストレートをお返しした。カウンターで顔面にクリーンヒット、大の身体をよろめかせる。
続いてガラスマグナムで力を込めすぎない程度に数発弾丸を当て、少し後退させて距離をとった。
そして全力で大のもとまで走り、ドロップキック!
大は思わず地面に膝をつく。よし、少しは弱らせることができたか?
「ハァッ!!」
だがその状態からでも手を突き出して大きな棘を二発こちらに飛ばした。弾いて避けようと思い僕はセイバーを呼び出し、超高速で飛来する棘に向かって振り下ろした。
しかし、刃先と棘が接触した瞬間、棘は爆発した。爆弾だったのか……!
衝撃で態勢を崩しているところにもう一発が僕の身体に触れ、直後にドンと爆発を起こした。装甲が弾け飛び、たまらず僕は後ろに倒れる。
「んぅ……がはっ」
胸が途端に熱くなり、マスクの中で僕は血を吐いた。さすがに身体が悲鳴を上げ始めてるな、ここからどうする……。
大を正気に戻す前に僕が死んだら元も子もないぞ。何か……何かいい方法はないのか。
「どうやら、お困りのようだね」
考えを巡らせていると、突然どこからか謎の声が聞こえた。
若い男性の声……誰だ?
すると、僕と大の間に眩い金色の輝きが発生し、中から中学生くらいの男の子が現れた。その様子からして間違いなく普通の人間ではない。
「誰だか知らないけど離れた方がいい。ここは危ないから」
それでも一応忠告をしておいたが、彼は聞く耳を持たない様子で辺りを見回している。
どこからどう見ても普通の中学生なのだが神々しい雰囲気を纏っており、それが面白いくらいに不気味だった。何なんだこの子……。
大は急に現れた邪魔者を排除しようと立ち上がり彼に襲い掛かる。
だが、彼が手を軽くサッと振ると、大の身体に火花が走って後方へ大きく吹き飛ばされた。
まさか、こんな小さな子までカラットなのか……?
向こうで倒れている大の姿に気をとられているうちに、彼は僕のすぐそばに来ていた。
「き、君は一体何者?」
身体が正体不明の恐怖心に縛られ、自然と声が上ずる。
僕の問いに彼は不敵に微笑んだ。そして、僕の左腕を掴んでジュエライザーをじっと眺めている。
「大丈夫、僕が君に力を与えてあげるよ。いや……“解放”と言った方がいいかな?」
そう呟いた彼は、僕の左腕を掴んだまま左手でジュエライザーを数回撫でた。
力、解放……僕には何のことかさっぱりわからない。ルタ、何かわかるか?
『ごめん……変だ、気持ち悪い。うえっ……私、なんでかわからないけど、この子がすごく嫌だ……』
おいおい、どうなってるんだよ。お前がそんなこと言うなんて相当だ。
気持ち悪さは僕にも伝染し、咄嗟に彼の手を振りほどいたが彼は笑っているままだ。どうだルタ、治まったか?
『うん、なんとか……えっ? 待って、何これ。どうして、正義の体内にカラットのエネルギー反応が……!?』
……さすがに、言っていることの意味が分からない。さっきから情報量が多すぎて、脳内の処理が追い付かないんだが。
僕の中に何が…………ってなんだこの感じ。今まで感じたことのない変な力が体中から湧き上がってくる!
「なっ、何なんだよこれ、気持ちが……抑えられない! 身体が、全く言うことを聞かない!!」
思考回路ははっきりしているのに、腕が、脚が、勝手に動き出す。
誰かに身体を乗っ取られているようだった。必死で脳から全身に信号を伝えても、頭を抱えて蹲ることしかできない。
ジュエライザーに目をやると、青一色のはずのクリスタルが赤く点滅していた。
あの少年はいつの間にかいなくなっている。
雨はその勢いを増してどしゃ降りになってきた。
僕は足元の水溜りに映る自分の姿を確認して、血の気が引いた。
「僕は……カラット?」
鋭い爪、尖った肩、牙が生えたマスクの口元、そして血管のような赤いラインが入って生物感が増した装甲。
そこに映った自分の姿はまさにカラットのそれだった。……なんで僕がカラットになってるんだ?
至極当然の疑問を解決する時間は与えられず、僕の身体は大に向かって"勝手に"走り出した。
何やってるんだ、止まれよ! おい!!
いくら僕がそう願っても、恐ろしいことに全く身体に伝達されず止まることはなかった。
僕は"暴走"し始めてしまった。
「ルタ! 変身解除だ! 人間態に戻ってくれ!!」
僕はルタに必死でそう呼び掛けた。このままじゃ……僕には嫌な予感しかしなかった。
『だっ、ダメ、制御できない! さっきから試してるけど全然戻れない!!』
ルタがここまで焦っているなんて、とんでもない非常事態なんだな。って他人事のように言ってる場合じゃない!
そうこうしているうちに僕と大の距離はどんどん近づいていき、大の方も謎の少年の攻撃で怒り狂ってこちらに突撃してきている。
なんでこうなるんだよ……僕はただ大を……助けたかっただけなのに……。
僕の意識は段々と薄れていき、身体の制御が全くできない恐怖に苛まれながらやがて眠るように気を失った。





