Yell.07 -倒れなければ終わりじゃない-
「ガラスセイバー!」
駅近くのスタジアム付近、サンゴーラルと対峙する僕はセイバーを取り出し正面から突っ込んだ。
きっと奴はまたあの技を出してくるだろう。けど、多少の被弾など恐れず進む。
「学習しないやつだ」
サンゴーラルはブーメランを手にしたまま両腕をクロスさせた。
やっぱりそう来たか!
身体中に空気の振動が伝わると同時に大量のブーメランがその姿を見せる。前から思ってたけど、もはやブーメランじゃないだろこれ!
『全部弾こうとすると被弾が多くなるから、なるべく回避していって!』
そう、前回の戦いでは距離をとっても結局突っ込んでいったりとあまり考えて戦うことができなかった。そこで今回は、誰にも負けない僕の持ち味であるスピードを意識することにした。
正面から突っ込んでいけば、サンゴーラルは必ずあの技を出してくる。だがあの技は、空気の振動からブーメランが放出されるまでの間にほんの僅かな時間がある。
その隙間を掻い潜り続ければ、何か勝機が掴めるはずだ!
予想通り、ブーメランはほんの少しの間を置いて発射された。地面を思い切り蹴り飛ばして最高速度で左方向に回避するが、間髪入れずに次々と僕に向かって飛んでくる。
気を抜くと直撃しそうな勢いだ……けど確信した、こっちのスピードの方が上だ!
襲い掛かるブーメランを縦横無尽に避け続けた。
「なぜ当たらない!? ……まあいい、これならどうだ!」
サンゴーラルの声を耳が捉えたのと同時に大きな空気の振動を感じ取った。
場所がわからない、何だ、どこから来る!!?
「先輩、下っス!!」
大のよく通る大声が届いた。
「下、地面からか!!! 助かった!!」
後方に軽く飛んで回避しようと思ったが、足の辺りに振動が伝わった。低空で横からも来そうだな……上だ!
僕は膝を目一杯曲げて空高くジャンプした。ほぼ同時に地面からブーメランが飛び出してきた。
横は回避できても下のは追尾してくるだろうな。セイバーで全弾弾ければいいんだけど。
と思っていたら、空中で下からのブーメランは光になって消滅した。かなり高く跳んだし、射程範囲外だったのか?
「バカめ、かかったな?」
かなり高い位置まで来て、後方からブーメランが飛んできていることにようやく気付いた。
しまった、罠だったか!
僕の注意を下のブーメランに向けていたんだな……。まずい、このままじゃ直撃してしまう!
「はあああああああああああああっ!!!!」
全身を駆け巡るクリスタルエナジーを重力に任せる形で下に落ちることだけに集中させ、慣性に従ってまだ上に行こうとする身体を強引に高速で落下させた。着地の衝撃で地面にビシビシとヒビが入ってしまった。
ジャンプした後に発射された横からのブーメランがすぐそこまで迫っているが、避けるのは無理だ。僕はセイバーにエネルギーを伝えて、刀身を青く煌めかせた。
「ガラススピン!」
身体を数回転させて円状の衝撃波を放ちブーメランを消し去った後、僕は急いで後退して息を整えた。
「なんて奴だ……あの状況から逃げ出すとは。素直に驚いたぞ」
サンゴーラルは余裕の口ぶりで僕を称賛してくれた。
やっぱりあいつ、かなりの強敵だ。いくらシミュレーションを重ねたとて、容易に勝てる相手ではない。
「前みたいに何もできずにやられるわけにはいかないからな」
僕も気取ってそんな言葉を返したが、そこまで余裕があるわけではなかった。
確かにクリスタルライザーの長所は圧倒的なスピードだが、それをフル活用するのはなかなか難しい。
生身では絶対にできない動きを無理やりさせているので、身体にそれ相応の負担がかかるからだ。速度で翻弄して早期決着を狙っていたが、さっきの急降下で体力の消耗と身体の痛みが激しくなった。あんな動きはもうできないかもしれない。
「だが、どうやらその影響はしっかりと受けているようだな。そこでサンドバッグになって野垂れ死ぬがいい!」
実力だけではなく、観察眼も鋭いらしい。
……ルタ、もう一度だけ最高速度出そうと思うんだけど、装甲持ちそうか?
『大きな攻撃には絶対に当たらないこと。あとは正義の精神力次第だね、頑張って!』
気持ちをしっかり持てってことか……了解。
セイバーの柄をがっちり掴み、エネルギーを可能な限り流し込んだ。伸びきった刀身に蒼炎が迸る。最初で最後の大勝負だ、行くぞ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」
大に負けないくらいの大きな雄叫びを上げて、スタートダッシュを決めた。速度は身体が壊れる限界スレスレ、今までで一番速い。
「また特攻か。その一本槍では俺は倒せんぞ!」
辺り一帯の空気が震えて、大きさもバラバラのブーメランが大量に僕の後ろを追尾してきた。
一本槍はお互い様だ。前方からもブーメランが来る。挟み撃ちなんてさせるか!
進路を右にずらして前後のブーメランを同士討ちさせた。このままあいつのところまで突っ込む!
一気に距離を詰めたが、サンゴーラルは動揺する素振りも見せない。両サイドかどこかに忍ばせているんだろう。僕はサンゴーラルの目の前から姿を消して背後に回った。
「ふん、正面がダメなら背後というわけか。甘いな!」
予想通り、サンゴーラルは自身の背後にも大量のブーメランを隠していた。
「……甘いのはどっちかな?」
僕はすぐにまた正面に戻ってきた。発射されてから僕に当たるまでの本当に短い時間を狙っていたんだ!
戻ることのないブーメランはサンゴーラルの背中に直撃し、火花を散らす。
「ぐはっ!」
そしてもうひとつ。サンゴーラルは隠したブーメランを発射させる時、必ずブーメランをクロスさせる。
それを崩すのが僕の本当の目的だ。これさえなければ、僕の勝ちだ!!
「ガラスラッシュ!」
セイバーを正面から一閃して手持ちの巨大ブーメランを砕いた。よし、さすがに動揺を隠せないようだ。
「くっ……ハメられたのは俺の方だったというわけか」
サンゴーラルは初めて大きく態勢を崩した。隙を与えちゃいけない、くらえ新必殺技!!
「クリスタルアッパー!」
縮ませた全身を勢いよく伸ばしながら右拳をガツンと顔面に突き上げた。
僕がジュエライザーを受け取ったあの日、あのヒーローがバケモノに対して放った一発を見よう見まねでやってみたがうまく決まった!!
「ぐあああああっ!!」
叫び声を上げながら上空に吹き飛ばされたサンゴーラル。
まだだ、こんなもんじゃあいつは倒れない。次は僕オリジナルの必殺技だ。僕も奴を追いかけてジャンプし、すぐに追いついた。
「くそっ、なぜだ! なぜそれだけの力を持ちながら人間を支配しようと思わない!! 他の者を圧倒して自分の力を誇示しようとしない!!! か弱い人間を守る必要が、一体どこにある!!!!」
吹き飛ばされている最中なのに早口でよく喋るサンゴーラル。完全に余裕がなくなったようだ。
「答えてやるよ。僕は他人にそれほど興味がない、だから他人を支配しようだなんて思わない。この力も僕の力じゃない。今左腕にいる変なやつとお前が言う“か弱い人間”からもらったものだ。それから、人間は意外とそんなに弱くない。失敗したり欠点があったりしても、それを受け入れて乗り越えて前に進もうとする強い心があるんだ!」
僕は右脚に力を入れて青く輝かせた。そしてサンゴーラルの上で宙返りして、その勢いのまま思い切り踵をぶつけた。
「クリスタルクロウ!」
何もできずに腹部にもろに食らったサンゴーラルは衝撃を発したあととんでもない速度で落下していき、ドンと大きな音を立てて地面に叩きつけられた。僕も自然に落下していったが、うまく着地できた。
はぁ……何とか勝てた、かな。
「やべー!」とか「すげー!」とか言いながら大は感動の涙を流していた。五十嵐さんは口をポカンと開いて唖然とした様子だった。まあ、二人が無事なら何よりだ。
僕の方はかなり無理をしたし、明日は筋肉痛確定だ。また寝過ごして遅刻しちゃうかもな……。
サンゴーラルはまだ生きておりゆっくりと立ち上がったが、ふら付いていてもう戦えるような状態ではなかった。僕は歩いて彼のもとに近づく。
「か、完敗だ……。だが……俺が死んだところでカラットは終わらない。憎き人間の前に脅威となって立ちふさがり続けるだろう……。貴様に、その壁を乗り越えられる自信と覚悟があるなら……好きにするが、いい…………」
そう言い残したサンゴーラルの身体は一瞬で硬化し、バラバラに砕け散った。
敵だし人間を殺そうとした極悪人ではあるんだけど、結構純粋な奴だったな。ちょっとエコーに似てるかも。
ルタは僕の腕から離れて人間態に戻り、自然に僕の変身は解除された。同時に頭がクラっとして一気に疲労感が押し寄せてきた。さすがに疲れたな……今すぐ寝たい。





