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Yell.06 -一人じゃないから僕は負けない-

 目を覚ますと、外はもうすっかり明るかった。

 室内もそれほど寒くはない。ってことはどう考えても朝じゃなさそうだ。

 まずいな、昨日帰ってきてからの記憶がほとんどないぞ。


 しかし……よく寝た。あまりの快眠具合に、僕はベッドの上で自分がどれだけ疲労困憊していたのかをつくづく思い知った。


 時刻は昼の2時を回っていた。これは遅刻なんてレベルじゃないな。

 時計をボーッと眺めていると、ふいにとてつもなく大事なことに気づいた。


「ルタがいない……」


 あのバカ、どうやって学校行ったんだ……!

 ちょうど今は休み時間だ、五十嵐さんに確認してみよう。僕は急いで携帯電話を手に取り、五十嵐さんへメールを送った。


 この家からどうやって出たのかも気になるが、学校で余計なことを言ってないか心配だ。

 僕とルタが同居していることはあいつの登校初日に知れ渡り、だいぶ収まったが今でもたまにくだらない質問をしてくる輩がいる。そんな奴らが何かを盛大に勘違いするような発言を不用意にしてしまっていないか、僕は不安で仕方なかった。


 メールは数分もしないうちに返ってきた。ルタの腹立たしいほどの笑顔の写真つきだ。


『ルタちゃんから聞いたけど身体大丈夫? おせっかいかもだけど無理しないでゆっくり休んでね。ルタちゃんは大人しくしてるから心配ないよ。あと、家は窓から出たらしい(笑)』


 僕は立ち上がって窓際に目を向けた。

 確かに窓の鍵が開いている……まあ、何事もなく学校に行けたのなら良しとするか。それに五十嵐さんがついてれば問題はなさそうだ。


 五十嵐さんに感謝のメールを送信した後、僕は1階に降りた。

 祖父は自分の部屋でつまらないワイドショーをお茶をすすりながら眺めていた。小声で「おはよう」と声をかけても祖父は顔をこっちに向けなかった。


「学校には体調不良で休むと連絡しておいた」


 僕がそのことに感謝を述べても、やはり顔を向けることはなく再びお茶をズズッとすすった。

 廊下を挟んだところにあるキッチンルームの食卓にはご飯、味噌汁、漬物、焼き魚といういつもの朝食が用意されていた。

 一通り温め直してから食べ始める。昨晩は何も食べてなかったので、空っぽの体内に運び込まれる食べ物たちはひたすらに美味しかった。


「最近はどうだ? 元気にやってるか?」


 祖父はふいに何気ない質問を僕に飛ばしてきた。

 最近はどうって言われてもなあ……。「バケモノの退治に勤しんでます」だなんて言えないし。けど、それ以外特に何もしてないんだよなあ。


「まあ、特に問題はないよ。それなりにやってる。……どうして急に?」


 お得意の曖昧かつ無難な返事をしながらも、突然そんなことを聞いてきたことが気になって逆に質問してしまった。僕は味噌汁を一口すする。

 祖父の作る味噌汁はいつも少し濃い目だ。僕は別にどうでもいいが、祖父はもう結構な年齢なので塩分の取り過ぎには気を付けてほしいものである。


「ここ最近の正義は以前に比べて少し生き生きしてるように見えてな。何か楽しい事でもあったのかと思っただけだ」


 一瞬だけこちらに振り返った祖父は、またテレビの方へ顔を戻した。僕は祖父の返答に特に何かを言うことはなかった。


 僕が幼い頃から祖父は今と変わらず無愛想で口数が少ない人だった。いつも笑顔で優しい正反対な祖母が亡くなった時も僕が20歳で死ぬと分かった時も決してそれは例外ではなかった。


 けど、祖父は誰よりも人を見ている。

 長年教職に就いていたからかもしれないが観察眼が鋭くて、たまに物事の核心や誰かの本心をさらっと口にしてはよく皆を驚かせていた。

 僕が突然家を出てこの家に来た時も、祖父は何も言うことなく受け入れてくれた。表向きは祖母とは正反対だったけど、実際は人の気持ちがわかる優しいおじいちゃんなのだ。


 だから僕は安心してここに帰ってこられる。無理に吐き出さなくても、祖父が少しだけ引っ張り出してくれるから。


 遅めの昼飯も早々に食べ終わり、僕はカチャカチャと食器を片付ける。

 どうせ休みなんだし今日はのんびりするかな。キッチンルームの扉をピシャっと閉めて、僕は二階の自室に戻ろうとした。


「正義、長生きしろよ」


 相変わらず身体はそのままだが、祖父のその言葉は確かに僕の耳に届いた。

 ……本当はずっと寂しいんだ、おじいちゃんも。


「できるだけ頑張るよ」


 僕は少し笑いながら自信のない声でそう発した。

 基本的に絶望してるけど、この人のおかげでなんとか今日も僕は生きている。ありがとう、おじいちゃん。





 悔しい敗北から数週間が経過して、もうすぐ2月になろうとしていた。

 その間、サンゴーラルもあの謎のカラットも現れなかったが黒カラットは相変わらずわらわらと出現しており、大と一緒に奴らの退治に勤しんでいた。


 僕はせっせと黒カラットを倒しながら、対サンゴーラル用のシミュレーションを頭の中でひたすらに行なっていた。

 一度負けて特訓の末に再戦で勝つのは、ヒーローなら誰しもが通る道だ。


 サンゴーラルもそうだけど、やっぱり気になるのはあの変なカラットだ。

 ルタによれば、以前から僕を狙っているような気配の正体はサンゴーラルではなくどうやらあのカラットだったらしい。正直、サンゴーラルよりあいつの方が不気味だったりする。


 敗北を味わったあの日から数日は少し落ち込んでいた。

 けど、そんな僕に大は幻滅するどころか励ましの言葉をかけ続けてくれた。それ以降もどんなに夜遅くでも僕が戦う時は必ず駆け付けて応援してくれた。

 そんなこんなで僕の中で大の存在は日に日に大きくなっており、今では戦いのモチベーションになりつつある。アホだけど、いい後輩を持ったもんだ。


 2月1日。僕たちはいつものように放課後、街を散策しに行った。

 最近、大によってこの行動は「パトロール」と名付けられた。それは警察の仕事だろ。

 今日は特に予定がなかった五十嵐さんも一緒だ。付き合わせちゃってごめんなさい。


「しかし、なかなか大物は出てこないっスね~。黒いやつばっかりで俺そろそろ飽きたっスよ」


 大は夕空を仰ぎながらそう嘆いた。戦ってるのは僕なんだけどな……。


「何も出てこない方が平和でいいけどね。さすがにずっとこのままってことはないだろうけど」


 五十嵐さんの言う通り、このまま何も起こらず平穏な日々が続くのが一番だ。

 けど、そんな日々がいつまでも続くわけがない。いつか必ず現れるはずだ……きっとすぐ近くに……。


「みんな伏せて!」


 突然ルタは僕以外にも聞こえるようにそう叫んだ。僕は「へっ?」と驚いている大の頭を押さえつけながら地面に突っ伏した。五十嵐さんもその場に素早くしゃがみ込む。

 次の瞬間、三日月のような黄色のブーメランが僕らの上空を通過していった。本当に来たな……!


 しっかりもう一度僕らの上をブーメランが通過した後、僕たちは立ち上がって後ろを振り返った。

 朱色に金の斑点、二度目でも見入ってしまうその外見はさすがと言うほかない。人目を気にしないド派手な出で立ちのサンゴーラルはブーメランを構えて勇ましく立っていた。


「この前は思わぬ邪魔が入ってお前を殺し損ねた。ハエが3匹とゴキブリが1匹、まとめて首を跳ね飛ばしてやる」


 落ち着いた声色で余裕たっぷりの台詞を吐いたサンゴーラル。

 その余裕を崩すために頭の中で散々お前を倒してきたんだ。あの日の僕と今の僕は違う。


「こんなに心強いハエがいるわけないだろ。けど、僕がゴキブリ並みにしぶといっていうのは正解かな。……今から僕は、お前を倒す」


 僕の言葉を聞いたサンゴーラルは「ほう」と呟きながら二つ目のブーメランを出現させた。

 挑発じゃないぞ。僕は本気で挑む。


「石海くん、ファイト!」


「頑張るっスよ、先輩!」


 ほら、この二人のどこがハエだって言うんだ?

 僕にとっては守護神だよ。

 二人の応援に僕はサムズアップで応える。僕が二人を、この世界を守るんだ。行くぞ、ルタ。


『はいよー!』


 お前の底なしに明るい声も意外と力になってるんだよ……感謝する。

 僕は周りに誰もいないことを確認して、クリスタルをスライドさせた。


結晶化(クリスタライズ)


 僕の周囲に発生した半透明の結晶は一斉に僕の身体に密着して装甲となる。アドレナリンとクリスタルエナジーで体内は興奮状態だ。

 今すぐ爆発させたい、抑えられない!!


「正義貫徹! クリスタルライザー参上!」

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