Yell.03 -憧れなければ強くなれない-
放課後、靴を履き替えて校舎を出ると、大が両手を腰に当てて待っていた。どうやら少々ご立腹のようだ。
怒らせたのは他でもない僕。下駄箱から大が待っているのが見えて、少し時間稼ぎをしていたからだ。
「先輩、遅いっスよ! 何やってたんスか!!」
僕は「用事があって」と全く悪びれない態度で小さく謝った。こういう風に誰かに意地悪するなんて初めてだったから、実は少し楽しかったのだ。
「またまた~。先輩が放課後に用事なんてあるわけないじゃないっスか」
悪意はないのだろうが腹の立つ顔で大は僕の言い訳を否定した。おい、お前意外と失礼だな。
ムッとなりながらも平気なふりをして無視した僕の後ろを大はひょこひょことついてくる。
「先輩、どこ行くんスか?」
大は背後から質問を投げてきた。
そうだな……また適当に街をぶらぶらしようと思ってたけど、大と一緒じゃうるさそうだしそもそも最近はそれ自体にも少し飽きてきた。
とはいえ、このまま真っ直ぐ帰宅しても何もすることはない。本当は身体のことを考えて家で大人しくしてるべきなんだろうけど、それではつまらない。
友達がいないと時間の使い方がよくわからないな。
「もしノープランなら、俺の行きつけのお店あるんでそこ行きましょうよ! 奢りますんで!」
悩ましい僕の顔を覗き見た大はそう提案してきた。なるほど、面白そうだ。
今まで僕は街の全体をただ歩き回るだけで、細かな場所に入っていくようなことはあまりしてこなかった。
これは新たな暇つぶし……もとい発見がありそうだ。僕は大の提案を快諾して駅前へと向かった。
駅前には基本的に高層ビルや大型ショッピングセンター、ファストフード店が立ち並んでいるが、その狭間には昔ながらの商店街も存在している。
大に連れられて僕はその商店街に足を踏み入れた。どうやら大の言う行きつけのお店はここにあるらしい。
「着きました! ここが俺の行きつけのお店っス!」
しばらく歩いた後で大が立ち止まったその場所には、古びた木造の店構えをした駄菓子屋があった。
なるほど……ってここ!?
「行きつけって、穴場の喫茶店とかじゃなくて駄菓子屋かよ!」
僕のツッコミに大は大真面目に「はい!」と答えた。まさか駄菓子屋とは……めちゃくちゃ久しぶりに来たぞ。
「子どもの頃からよく兄貴と来てたんスよね~。あ、おばあちゃん、こんにちは!」
予想と違った正解に若干困惑しながらも店内に顔を覗かせると、藍色の綺麗な着物を身にまとったおばあさんが出迎えてくれた。柔和な顔つきでとても優しそうだ。
「あら大ちゃん、いらっしゃい。そちらはお友達?」
大は「うん!」と何の躊躇もなく答えた。僕はお前の友達になった覚えはないぞ。
おばあさんは「いらっしゃい」と僕にも挨拶してきたので僕も咄嗟に「どうも」と頭を下げた。
「さあ、何でも好きなの買っていいっスよ! ここはこの辺じゃ断トツで安いっスから、ちょっとくらい買い過ぎても大丈夫っス!」
大の言葉を聞きながら僕は店内を歩き始めた。
それほど大きくはない店内にはギリギリ歩けるくらいのスペースを除いてぎっしりと多種多様な駄菓子が並べられている。
大の言う通り、その大半の値段が3桁を切っており50円を下回るものも見受けられる。普段あまりお菓子は食べないが、この破格の値段と種類の豊富さに思わず次から次へと手が伸びてしまう。
僕はチョコ菓子や祖父が好きなスルメイカなどのおつまみなどを大量に奢ってもらった。
しかし、大は三色団子を3本買うだけだった。いつもいろいろ迷って結局団子に落ち着くらしい。
おばあさんに別れを告げた後、僕たちは人で賑わう駅前の広場のベンチに座って一息ついた。結構歩いたからそれなりに疲れたな。
背もたれに身体を預けて楽な姿勢を取っていると、大は早速買った団子を開封して食べ始めた。
「んー! やっぱこれっスねえ! うまい!!」
大は感嘆の声を上げながらあっという間に一本目を平らげてしまった。本当に子どもみたいだな。……ていうか、まだ子どもか。
……僕、後輩と二人で今これ何してるんだろうか。
「大は、なんでヒーロー好きなの?」
駄菓子屋を出てから買った缶ジュースを飲みながら僕はふいにそう大に訊ねた。大は食べようとしていた二本目をそっとケースに閉じる。
「かっこいいじゃないっスか、ヒーローって。俺、昔から空回りすることが多くて、時々落ち込むこともあるんスよ。けどヒーローが立ち向かう姿を見て、俺も頑張らなきゃって気持ちになって元気が湧いてくるんスよねえ。だから、実際にヒーローやってる先輩と出会えたこと、本当に光栄に思うっス!」
ヒーローについて熱くそう語る大の純粋な瞳と優しい表情を僕はじっと眺めていた。
そうだよな、僕もそうだった。
僕が妄想に入り浸るようになったのもただ現実逃避するためだけじゃない。きっとその昔憧れたヒーローのような強い存在に生まれ変わりたかったんだ。
生きることを諦めておきながら、その諦めの中にも僕は確かな希望を持っていたのかもしれない。
そして、実際にヒーローになったことで闇の中を歩き続けていた僕の人生はちょっとずつ光が射す方へ向かっているのかもしれない。大の言葉に僕はそう気づかされた。
「……ありがとう。僕も嬉しいよ」
素直に感謝を伝えるとその姿が変だったのか、大は戸惑いと照れが入り混じったような声を出しながら僕にペコっと頭を下げた。
ちょっとおバカだけど、こんなにいい後輩と巡り会えたのはヒーローとか関係なく凄く嬉しいな。大との出会いを感慨深く思っていたその時だった。
「うわあああああああっ!!」
広場にいた人たちは突然悲鳴を上げながら慌てて何かから逃げ始めた。まさか……。
僕の予想は的中し、逃げ惑う人々の隙間から朱色の身体に金の斑点という非常に目立つ出で立ちのバケモノが姿を見せた。
まずいな、パニックになっているとはいえ変身するにはここじゃ人が多すぎる。
広場のトイレの方なら人通りも少ないしバレずに変身できそうだが、ここから少し距離がある。その間にこいつが何をしでかすかわかったもんじゃない。
「先輩、ちょっとそれ借りるっス!」
ふいに大は僕が手に持っていた缶ジュースを奪い取ると、「うりゃ!」と声を上げながらそれをバケモノに向かって放り投げた!
「お前、何やってんだ!!?」
まだ少し残っていた中身を空中でまき散らしながら、大の投げた缶はバケモノの胸部にカコンッという気持ちのいい音とともに命中した。バケモノの鋭い視線は当然僕と大の方へと向いてしまう。
「何者だ、貴様。まあいい、この俺に歯向かうということは自殺志願者か何かだろう。そこで待っていろ、すぐに殺してやる」
大に淡々と死刑宣告を下したバケモノは、三日月のような巨大なブーメランを手元に出現させた。うわあ……あれで切られたらすっごく痛いだろうな。
「トイレの方に急ぐっスよ!」
大は僕にそう伝えると全速力でトイレの方へ駆けて行った。あいつ、もしかして僕の変身がバレないために……。大の意思を汲み取った僕も人波をかき分けながら大の後を死ぬ気で走った。
迫りくるバケモノ!
こんなところで死んでたまるかぁ!!
全力で走ったので思ったより早くトイレに到着した。自分の脚に急ブレーキをかけて、後方のバケモノが放ったブーメランをすんでのところで回避した。
ブーメランはトイレの近くに生えていたそれなりに太い木を軽く伐採してバケモノのもとに戻っていく。
「貴様らの墓をここに作ってやろう。安心してこのサンゴーラルに殺されるがいい」
息つく暇もなく、僕たちのもとに追いついたバケモノ──サンゴーラルはブーメランを構えた。感情的ではないものの、確実に僕たち二人を殺したいみたいだ。
「先輩、周り大丈夫っス!」
大からのありがたい報告を耳にした瞬間、僕はジュエライザーに手をかけた。ルタ、準備はいいか?
『いつでもOK!』
大、お前が憧れたヒーローと僕が憧れたヒーローの姿が同じで、僕が少しでもそれに近い存在になれているとしたら……僕はヒーローになって良かった。
見せてやるよ、僕の変身!
「結晶化!」





