Yell.01 -隠さなければ変身できない-
散々だったクリスマスイブから一夜明け、無事に冬休みに突入した僕はそのまま特に何事もなく年を越した。
大晦日はおじいちゃんも一緒に両親の家で楽しくゆったりと過ごしていた。年越しの瞬間は皆もう寝てたけど。
ルタは年越しに関して「新しい1年が始まっただけなのに、何がそんなにめでたいの?」と疑問に思っていた。
まあ言ってしまえばその通りではあるんだが、なんとなく昨年の自分とは少し違う感じがして、頑張ろうって思えるのだ。残念ながらルタにはそれがわからなかったらしい。
五十嵐さんから年賀状代わりのメールも届いた。
実は、あの日別れる直前に連絡先を交換したのだ。それまで僕の携帯の連絡帳にはほとんど親族しかいなかったので、一覧に表示される見慣れない名字がとても新鮮だ。
ほんの少し前、僕はヒーローになってしまった。最初はろくでもないと思ってたけど、やってみると意外と悪いもんじゃない。
少なくとも、ヒーローになってから僕は生きることが退屈ではなくなった。妄想の頻度だって随分減った。妄想の一部は現実になってしまったし、自分の妄想を上回るような現実がこの先に待ち受けてるかもしれないから。
年が明けて1週間ほどしたらまた学校が始まる。この冬が終わればもう三年生だ。
僕の場合、将来なんてないようなものだけど、それでもそろそろ考えないといけないよな。まだ見ぬ未来を少し心配しながら、僕は貴重な冬休みを部屋にこもって浪費していた。
学校が始まってしばらくすると事件は起き始めた。前にアメジストが僕と戦わせた黒いカラットたちがそこかしこで人間を襲撃していたのだ。新年早々、僕はその黒カラットの討伐に奔走することとなった。
黒カラットの強さは分身状態のゾイサイトと同等かちょっと弱い程度だが、彼らは必ず3人ほどのグループで来るので厄介だ。
とはいえ基本的には弱いので、倒すのにほとんど苦労はしていない。何の前触れもなく突然現れるので、急いで現場に駆けつけて誰にもバレないように変身するのは地味に大変だが。
五十嵐さんはこの事態を認知しているみたいで時々心配して声をかけてくれる。
ネットでもカラットと僕、というかクリスタルライザーの存在が局所的に認知されているみたいだが、まだ都市伝説の域を出てはいない。あまり騒がれても僕にとって良い事は起きないと思うのでこれくらいで収まっていてほしいものだ。
1月のある日。その日も深夜に黒カラットが出現した。場所は街のシンボルとなっているスタジアムに併設されている広大な公園だ。
僕が現場に駆け付けると、ランニングをしていた男性が2体の黒カラットに殺されそうになっていた。僕は迅速に物陰に隠れると、ささっと変身を済ませた。
「結晶化」
僕は「おい」と一言かけて、右手の人差し指を立てて弾丸で黒カラットを牽制した。
単発だとエコーの場合はほとんど何も感じていなかったが、黒カラットはこれだけでもひるんでくれる。
男性はわけがわからない様子で僕を一瞥すると、一目散に逃げていった。
よし、あとはこいつらを蹴散らすだけだ。
『正義、二丁拳銃で行こう!』
了解。僕は左手の人差し指も立てて、向かってくる二体の黒カラットを一方的に銃撃して寄せ付けなかった。
これだけでも黒カラットにとっては致命傷のようだ。早いけどもう終わらせてしまおう。
僕は中指も立てて指先を相手に向け、通常の2倍サイズの弾丸を出現させた。そして、2つの弾丸を超高速回転させながら発砲した。
「ツインガラススピン!」
勢いよく発射された2発は気づいたら消滅していて、僕の目の前には胸のど真ん中に穴が開いて硬直している2体の姿しかなかった。
ええ……自分で言うのもアレだけどなんてスピードだ……。
黒カラットはそのままバラバラと崩れ去った。正直黒カラットを倒すよりここに来るまでの方が疲れたな……。まあ、これでまた一つの命を救えたんだし良しとしよう。
僕は一息ついてから高速で物陰に隠れて静かに変身を解除した。明日も学校があるとはいえ、そんなに焦ることもないしゆっくり帰るか。そう思って歩き出した時だった。
「今の何すか! すごかったっすね!」
正面から興奮した声が聞こえた。顔を上げると制服を着た男子が目を輝かせてこっちを見ていた。同じ高校の生徒だ。
ていうか、「今の」ってもしかして……見られた?
僕は不可解に思いながら彼に近づいた。
『自分から言ったらダメだよ!』
ルタの忠告が脳内に響いた。わかってるよ、一応探ってみる。
「一瞬で倒してたもんねえ。あれが都市伝説のヒーローかな?」
僕はとぼけて、あくまで目撃者の一人を装った。けど、彼は首を横に振りながら「いやいや」と言った。……まずいな。
「何言ってるんすか! さっき自分で倒してたじゃないすか! 俺、この目でしっかり見ましたからね!」
彼は興奮冷めやらぬ状態でまくし立てる。
あちゃ~、早速バレたか。えーと……ルタ、こういう時はどうすればいい。
『とりあえず人気のないところに行って、それから処理しよう』
物騒だから「処理」はやめろ。けど、確かに人気のない場所で話す必要がありそうだな。
「ちょーっと来てもらおうか。君、名前は?」
彼の腕を掴んだ僕は公園の奥に連れて行きながら名前を訊ねた。彼は嫌がるどころかむしろ嬉しそうについてきた。
「俺は草鷹大っす! 高1っす!」
彼との出会いが僕の運命を大きく変えるなんて、この時の僕はこれっぽっちも思っていなかった。





