Relationship.7 -目覚めろ! その正義感-
「最後の一撃、絶対に決める……!!」
残り少ない体力と胸の奥底から湧き上がる気力を振り絞り、僕はエコーに視線を固める。それを受けてエコーは長剣を放り投げて棄てた。あいつも本気だ。
「俺も実は結構キテるんだよ。来い! すべて受け止めて、跳ね返してやる!!」
僕は地面を蹴り飛ばしてエコーのもとに猛ダッシュした。エコーはその場で声を上げながら拳に力を込めている。カウンターで勝負をつける気だ。
エコーとの距離がどんどん短くなっていく。次にあれを食らえば、打ちどころが悪ければ確実に僕は死ぬ。相打ちでもパワーの差でこちらの負けだ。だから僕は拳ではなく足に力を込めた。
走るというよりはリズムよく跳ぶようにしてエコーとの距離を詰めていく。エコーが間近に迫る中、僕は左足で強く地面を蹴って跳躍した。それに合わせてエコーも跳びあがる!!
「緑光拳!」
「クリスタルシュート!」
エコーの右拳が先に僕の胸元に届きそうになる!
させるか!!
空中で身体を少しだけ右に捻って、右拳の行き先をほとんどダメージのない左肩に移した。そして稼いだわずかな時間で、エコーの腹に空中回し蹴り!!
脇腹を抉るようにジャストミートし、手ごたえとしては100%だった。
だが結果的に相打ちとなり、空中で僕とエコーは弾け飛んだ。もう受け身もとれない。左肩の装甲が崩壊したのを皮切りに次々と装甲が崩れていって、空中で変身が解除された。
これ……頭打って死ぬパターン? けど、この状態ではもはや何もできない。終わりか……。
「大丈夫!」
左腕のジュエライザーが眩しく光り、人間態に戻ったルタは地面すれすれで僕をしっかり受け止めてくれた。
はあ……良かった。
「ルタ、ありがと──ぐはっ! なっ、何してんだ!!」
安心しきっていたらいきなり地面に落とされた!背中を強く打った、痛い……。
「だって重いんだもん」
冗談でも何でもなさそうな顔でルタはそう言った。ああそうですか……。
僕はルタの肩を借りてなんとか立っているのがやっとだった。
しかし、よろよろしながらも自分の脚でエコーは立っている。僕の蹴りが直撃した腹を苦しそうに抑えているが、それでも中央にいる僕のもとへゆっくりと歩を進めた。
まだそんな余力があったのか……。完全に僕の負けだな。
エコーは人間態に戻るとパチンと指を鳴らした。すると、周囲が緑の光に包まれて収束していく。僕とエコーの間で光は消滅して、辺りはさっきまでいた帰り道に戻っていた。
「へへっ……こんなに楽しかったのは生まれて初めてだ。その様子じゃ、今日は俺の勝ちだな」
エコーは僕の左肩を軽くポンと叩く。それだけでもビリビリと激痛が走った。いくら装甲があっても、確実に芯を貫いてくる。あの一撃はそれくらい強烈だった。
「僕はもう……お前とは二度と戦いたくない」
僕が呆れた口調でそう言うと、エコーは大口を開けて大笑いした。何がそんなに面白いんだか……。
「ハハハハッ!! そんなこと言うなよ! 俺はまだ暴れ足りないくらいなんだからよ。じゃあな、またやろうぜ」
手で小さく僕に合図した彼は光になってどこかへ消えた。
はあ、やっと終わったか。ギリギリ骨折とかはしてなさそうだけど、全身がズキズキと痛む。明日学校行けるかな……?
「次は勝てるといいね」
「やめてくれ……もうこりごりだ」
確かに、こんな痛い思いをするならもう二度とあいつとは戦いたくない。けど、僕は心のどこかでちょっとスッキリしていた。
エコーとの戦いは戦争というより全力で喧嘩をしたような感じだった。あいつ自身もただ楽しんでいるだけだった。ルタの言う通り、どうしてもまた戦うことになったらその時は……勝ってみたいな。
「石海くん! ルタちゃん!」
背後から僕たちを呼ぶ声がする。まさか、五十嵐さん?もうとっくに帰っていたと思ってたのに。
五十嵐さんはボロボロの僕のもとへ駆け寄ってきて、一層不安な表情を見せた。
心配してくれてたのかな……そんなわけないか。何やってるんだって思われて……あれ……変だな、頭がボーっとして……意識が……
あれ……僕どうなったんだっけ。
寒い、死んではなさそうだな。
パッと目を開くと、家の近くの公園のベンチに仰向けで寝ころんでいた。雪が降っているのに顔が全く濡れてない……と思ったら僕の頭上には可愛らしいピンクの傘が開かれていた。
まだ痛む身体をゆっくりと起こすと、ルタは小さな雪だるまを楽しそうに作っていた。起き上がった僕に気づくと彼女はこちらに手を振った。よくわからないが僕も小さく手を振る。
「石海くん! 良かった……急に倒れたから心配したよ!」
左隣のベンチから僕の目覚めに安堵する声が聞こえた。ふっと顔を向けると五十嵐さんが鼻先を赤く染めていた。そうか……僕は気を失って倒れたのか。二人がここまで運んできてくれたのかな。
「ごめん、迷惑かけたみたいで。あっ、えっと……その、なんて説明すればいいのか……」
今更ながら僕はまだ五十嵐さんに何も説明していないことに気づいた。あんな状況に巻き込まれて一切パニックにならないのもある意味すごいけど。
「大丈夫、だいたいの話はルタちゃんから聞いたから。大変だったんだね。その……ああいうことしてて、身体の方は平気なの?」
五十嵐さんは僕が病気だと知っている。だから『あの時』も励ましたり心配したりしてくれた。
あれからそれなりの時間が経って、僕たちの関係はもしかしたら自然に修復されつつあるのかもしれない。五十嵐さんも実はずっと前から何とも思ってないのかもしれない。
けど、未だに僕の心には罪悪感と苦手意識が混合したものが、こびりついたように沈殿している。
五十嵐さんはひとつくしゃみをして鼻をズズッと啜った。雪に降られながらずっと座ってたんだろう。僕なんか放っといて傘を差せばよかったのに。
「まあ、なんとかね。えっと……今日は本当にごめん、また明日。ルタ、帰るぞ」
いろいろ考えていると気まずくなってしまい急に何を話せばいいのかわからなくなった僕は、会話を強制終了させてそそくさと家に帰ろうとした。雪だるま作りに精を出していたルタは文句を垂れるが無視した。
彼女をこれ以上巻き込まない方がいい。彼女のためにも、僕のためにも。
「石海くんは悪くないよ」
だが、万物を優しく包み込むような彼女の声がそっと背中に押し当てられる。僕は静かにその歩みを止める。
「石海くんは私を守ってくれたし、身体を張って悪い人もやっつけた。だから、私は石海くんに迷惑かけられたなんて思ってないし、石海くんが謝ることなんて何一つないんだよ。むしろ私は応援したい。石海くんのこれからを」
……そんなの絶対に嘘だ。
だって、普通迷惑に思うだろ。
ましてや、今日はクリスマスイブだぞ。
絶対心の中でひどい目にあったって思ってる。そうに決まってる。そうじゃなきゃ僕は……。
彼女の発言が本心ではないと必死に自分に言い聞かせながら、何も言えない僕は黙って俯いた。足元の雪はもうすでに溶けかけている。
そんな僕の目の前に五十嵐さんは駆け寄ってきて、かばんの中を何やらゴソゴソし始めた。
「それから……これ。クリスマスクッキー、石海くんにだけ渡しそびれちゃったから」
五十嵐さんは赤と緑のクリスマスらしい華やかな包装がされた数枚のクッキーを僕に手渡した。
……いつも見た目だけはいいんだよな。おかしいな、なぜか僕はふっと笑ってしまった。
「石海くん?」
当然、五十嵐さんは疑問符を浮かべる。そりゃ急に笑い出したら気持ち悪いよな。
「いや、ごめん。そうだね……そう思ってくれるなら、僕も嬉しい。ありがとう」
うん、と笑顔で頷いてくれた五十嵐さん。その顔を見て僕も自然と笑顔がこぼれる。
今はまだ腹を割って話をすることはできない。どこかぎこちない会話にもなってしまう。心のどこかで嫌われてすらいるかもしれない。
だけど、いつかはこの雪が溶けるように、僕たちの関係が元に戻ればいいな。
降りやむことのない雪が彩る夜空を眺めながら、いるのかいないのかわからない髭のおじさんに僕はそうお願いした。
「しょっっっっっぱ! いてて」
ようやく帰宅できた僕は部屋で早速五十嵐さんがくれたクッキーを食べたのだが、非常に塩気が強くてとても食べられるものではない。
なんかいい感じに打ち解けられた気がしたのでクッキーも美味しく感じるかななんて思っていたが、そんなことはありませんでした。
おまけにエコーとの戦いで口の中を切ったので、塩が沁みてめちゃくちゃ痛い!
「そんなにヤバいの~?」
ルタはケラケラ笑いながら僕の苦しむ姿をバカにしてきた。くっ、お前にはこの苦しみがわからないのか……少し羨ましいよ。
「そういえば、約束破って悪かったな。バラしちゃいけないってやつ」
涙目で痛みを我慢しつつ僕はルタに謝罪した。
普段おちゃらけているルタが真面目に提示してきた約束だ。それなりに大切なものだったのだろう。
「ああ、いいよ別に。奈乃なら何の心配もないだろうし。ただし、次は気を付けてね!」
僕を指さしてルタは怒ったような表情を浮かべた。五十嵐さんのことは信頼してるんだな……いい友達ができたみたいで良かった。
「肝に銘じておくよ。話は変わるんだけどさ、そのクリスタルって一体何なんだ?」
僕はルタの首からぶら下がっているクリスタルについて問いかけた。
クリスタルライザーに変身する際、ジュエライザーに押し込む宝石。分かっているのはそれだけだ。どういう原理でクリスタルライザーに変身できているのか、僕は全く知らない。
「これねえ。私も調べたんだけどよくわからなくて。この中のエネルギーが正義の身体に流れてクリスタルライザーになれる……ってくらいかな、今わかってるのは」
ルタでもよくわかってないのか……。まだなったばっかりとは言え、謎は多いなあ。
もう今年も終わりかあ。無難に一年が終わるはずだったのに、最後の最後で僕はなぜかヒーローになってしまった。
最初は嫌だったけど、今はそんなことはない。よく考えたら、僕の妄想がどんどん現実のものになっていってる。死ぬまで残り約3年、僕の平穏を守るためにほどほどに頑張れたらそれでいいかな。
今日はもう疲れた。身体も痛いし、もう寝るか。
……五十嵐さん、いい人だなあ。
『……で、私に協力するというあなたの目的は何ですか』
『僕に目的なんてないよ。僕はその気になれば何でもできるからね。ただ、僕は君たちと一緒に遊びたいんだ』
『いまいち信用できませんね……あなた、何者なんですか?』
『通りすがりのカラットってとこかな。まあ、君たちに悪いようにはしないからさ』
『……いいでしょう。共に目指しましょう、超越した存在による世界を』





