Relationship.6 -戦え! その宿敵-
空から届く聞き覚えのあり過ぎるその声に、身体がビクッと震えてしまった。声がした方を見上げるとエコーが屋根の上に座って足をブラブラさせている。まるでおやつが待ち遠しい子どものようだ。エコーは「よっこらせ」と立ち上がると、ひゅっと下に飛び降りてきた。
え? 僕、今からこいつと戦わないといけないのか……? ちょっと待って、勘弁してくれ……。
「安心しろ、俺はお前にしか興味はない。正々堂々と行こうぜ」
エコーは五十嵐さんをチラッと見た後で僕に向かってそう言った。振り返ると五十嵐さんは再び現れたヘンな奴に困惑していた。どうやら今日は五十嵐さんにとって悪い意味で忘れられないクリスマスイブになりそうだな……。
「どうしてそんなに僕との戦いに固執するんだ……」
僕の呆れ交じりの問いにエコーは豪快に笑いながら答えた。
「お前と戦ってる時、俺はこの世界に生きてるんだよ。心臓の鼓動、血液の流動、本能の衝動、全てが俺を熱くさせる。それ以外はどうでもいい」
本当に僕と戦うのを子どものように楽しんでるだけなんだな……。月光に照らされて自慢の逆立った銀髪がギラギラしている。
「戦闘狂だね」
大真面目な顔でルタはそう呟いた。まあ同意はするけど、お前たまにひどいな……。
「何とでも言え。さあ、早く始めようぜ。おっと、ここじゃ全力は出せねえな」
確かに、住宅が多いここで僕たちが全力で戦ったらどんな被害が出るかわからない。……まさか、辺り一帯を吹き飛ばしたりしないだろうな!?
そんな僕の杞憂を尻目に、エコーは指をパチンと鳴らした。すると、僕とエコーの間を中心に緑の光が広がっていき、僕たちを包んでいく。な、何が起きてるんだ?
僕は眩しくて思わず目を瞑る。しばらくして目を開けると、僕は車がひとつもない立体駐車場の屋上にいた。ここは……駅前?驚いて周囲を見回すが夜空に大きなビルが立ち並んでいるだけで、五十嵐さんの姿もなかった。
「おい、どうなってるんだ」
勝手に準備運動を始めているエコーに僕はそう問いかけた。ルタも不思議がっている。
「俺は現実と全く同じ別の世界を開くことができる。と言っても、開ける範囲はこの駐車場くらいだけどな。地味に疲れるしあんまり使わないんだよなこの力。まあ、お前も疲れてんだろうしこれでフェアだろ」
屈伸したり腕を伸ばしたりしながらエコーはそう説明した。駐車場どころか下の道路にも全く車や人が存在しないのも、全く同じ別の世界だからか。ビル群は背景みたいなものなんだろうな。
「よし、やるか」
まるでスポーツの練習試合でも始めるかのようなテンションでそう言ったエコーは、エメラルドグリーンの異形の姿に変化した。彼の特徴的な逆立った髪の毛と同じような無数の角が妖しく煌めいている。
「正義、私たちもやろう」
そりゃやるけどさ……僕の身体、持つかな。さっきの戦いでだいぶ体力消耗しちゃったけど。まあ、それでもやるしかないか。再びルタはジュエライザーに戻り、僕は気合を入れ直してクリスタルを押し込んだ。
「結晶化」
眩い光とともに僕は再びクリスタルライザーに変身した。今日は本当なら補習を受けるだけだったんだけどなあ。どうやら僕にとっても、忘れられないクリスマスイブになりそうだ。
誰もいない世界で、青白いヒーローと緑色のバケモノが対峙していた。
「行くぞおおおおおォォォッ!!! 石海正義ィィィィッ!!!!!!」
エコーは誰もいないのをいいことにドデカイ雄叫びを上げると、僕目掛けて真正面から突っ走ってきた。顔は見えないけど、きっと笑ってるんだろう。
「ガラスセイバー!」
近接戦だと押し負けてしまう。ここはセイバーを使って距離を取りながら戦おう。スピードなら僕の方が上回っているはず!
疲れもあってかセイバーの刀身は4つ分にまで減っていたが、徒手空拳のエコーとのリーチ差を考えると十分だ。至近距離で思い切り右拳を振るうエコーの胴を鮮やかに一斬りしつつ背後に回った。少しは体勢を崩せた、このまま背後から追撃する!
「さすがに前よりは強くなってるか……おもしれえ」
しかし、やはり彼は一筋縄ではいかなかった。エコーはよろめいた状態から強引に身体を捻ってこちらに方向転換した。そしてその勢いを殺さぬまま、追撃しようとする僕の顔面に強烈なカウンターをぶち込んだ。
「がはっ」
一瞬で意識が吹っ飛びそうなほどの重い一撃を受けて、僕はゴロゴロと転げまわる。痛すぎてマスクの奥で僕は泣いていた。地面にはマスクの欠片が散らばっており、今の一撃だけでマスクにひびが入っていた。鉄の塊でも飛んできたのか?生身でもらってたら顔面潰れて死んでたぞ……。
手放したセイバーの刀身は2つ分にまで減っていた。もう近接戦を避けるのは難しそうだな。なんとか立ち上がるも、早速圧倒的劣勢に追い込まれて僕は非常に焦っていた。……ルタ、僕はどうすればいい。
『大丈夫、スピードはこっちの方が上だし、とりあえず今は逃げ回ろう。それから、指を銃の形にして力を込めてみて。体力をあまり使わずに攻撃できるから。落ち着けば、セイバーもまた回復するよ』
いつにも増して的確なアドバイスをくれたルタに感謝しつつ、僕は言われた通りに人差し指と親指を立てて力を込めた。すると、指先に水色の小さな弾が現れた。
「よし、これだな……」
「俺はお前との戦いを楽しむために生まれてきた男だ。まだまだ俺を楽しませてくれよ!」
エコーはまたもや正面から突っ込んで来た。ん……?よく見たら、エコーの身体に大きな切り傷がついている。最初の攻撃、あまり手ごたえがなかったけど効いてたのか。よし、僕はまだいける!
僕はエコーを避けつつ落としたセイバーを拾った。触れた瞬間に刀身の3つ目が回復した。距離をとって背後に回り、指銃を連射!本当だ、全然身体に負荷を感じない。威力は低めだが、確実にエコーの背中に命中した。
『指銃はさすがにダサいんじゃない?』
「なら、ガラスマグナムだ」
どうでもいい会話をしながら距離を取る僕を、エコーは楽しそうな叫び声を上げながら追いかけてくる。両手にこの前の短剣の2倍はある細い長剣を取り出していた。間合いに入られたらひとたまりもなさそうだ。距離を取り続けなきゃ!
マグナムで牽制しながらエコーを駐車場の中央まで誘導した僕は、真正面からエコーの頭に向けて少し溜めた弾を発射した。
「そんなもん、当たるわけねえだろ」
予想通りエコーは弾丸を斬り落とそうと腕を上げ、視線も一瞬だけ僕から外れた。今だ!僕は猛スピードでエコーのもとに飛んだ!この隙ならガードはできないな!
ガラ空きになった胴を5つ目まで回復したセイバーですれ違いざまに一閃した。ガキンという鋭い斬撃音とともに火花が散る。
「くっ……弾は囮ってわけか……」
後ろをチラッと振り返るとかなりよろめいていた。やっぱり最初のが効いてたんだ!またある程度まで距離を取った僕は、エコーを中心に円を描くように高速で移動しながらマグナムを連射し続けた。
体勢を立て直せていないエコーは四方八方から弾丸を身体に浴びせられた。威力は低いとはいえ、さすがに何発も受け続けたら身体にも響いてくるだろう。
5回転ほどした後で僕は再び距離を詰めた。今度は全力で行く!!セイバーの柄を両手で握りしめて刀身を青く光らせる。そして、よろめいているエコーの胴目掛けて、大きく横に一振りする!
「ガラスラッシュ!」
しかし、セイバーは空しく空を斬った。目の前にいたはずのエコーがいない。なぜだ……!
「油断したな」
背後から余裕溢れる声。まずい!変な汗が身体から噴き出る。僕はそのまま急いで前方に走り距離を取る……べきだった。不覚にも、僕は反射的に振り返ってしまった。大技の後なので身体は油断してしまってガラ空きだ。
「はあっ!!」
エコーは2つの長剣を流れるように振るって僕の身体を滅多切りにする。装甲は無残に削れていき、みるみる薄くなっていくのでその分痛みも増していった。まずい……このままじゃ……。
「緑光斬!」
エコーは長剣を正面でクロスさせて、X字型の緑の衝撃波を飛ばしてきた。くそっ……避けなきゃいけないのに……身体が動かない!!
『正義!』
ルタの叫びも空しく、僕は真正面から食らってしまい大きく弾き飛ばされた。装甲は深く削られてもはや胴体は生身も同然だった。
「ごはっ」
僕はマスクの中で吐血してしまった。これ以上は……もう身体が持たない。このまま僕は終わってしまうのか?身体、精神ともにボロボロなので、セイバーは消失してしまった。意識も朦朧としてきた。どうしよう……僕は……。
いや……まだだ。こんなところで死んでしまったら、父さんはショック死してしまう。母さんは悲しみに暮れて毎日涙を流すかもしれない。おじいちゃんも一人になってしまう。五十嵐さんにも……合わせる顔がない。まだ謝っていないんだ!僕は気力を振り絞って、ふら付きながらもなんとか立ち上がれた。
『正義、もう少しだよ! 頑張って!』
全く、お前はいっつも無茶ばっかり言うんだから。……わかってるよ、ルタのためにも僕はまだ死ねない。だから、もう少しだけ一緒に戦ってくれ。





