5話 A.E.U.G.
「では、お話をお聞きします。何なりとどうぞ」
「あ、はぁ、では」
昼食を食べ終え、エイジ達はしばらくのんびりする。美月が片づけを終えた後、話を切り出してきた。
「ある程度のことは資料を読みました。まず前原さん、暁さんが襲われた際に助けたとの話ですが」
「そうですね」
「あの周辺は元から人通りがない。加えて時間は深夜。何故その時間帯にあそこを?」
前原はしばらく考え込む。
「あの日は確か… そうそう、急患が出たんです」
「急患…なるほど、その日通ったのは偶然やったってわけか。どんな容姿だったか覚えてるますか?」
「身長は180センチぐらいで体重は不明。顔は暗くて見えませんでした。服を着ていてわかりませんが結構な筋肉質だったので何らかの格闘技経験者かと思われます。もしかして僕を疑ってるんですか?」
「可能性としてや。」
「あの、一ついいでしょうか」
美月がおもむろに話を切り出す。
「実は… 被害者のことなんですが」
当時、事件の被害者が4名ほどだった頃。
美月と高町はその被害者の一人の親族に当たる人物に依頼され、事件の調査を進めていた。
だが犯人が手がかりを残すはずもなく、被害者とも面会謝絶。警察のほうでも調査をしていたのかは不明だが何の情報もなかった。
高町は調査がなかなか進まないことに困惑をしていた。一方の美月はとある日、不意に思い出すことがあった。
「今までの被害者を見てみると…、私や前原君、八坂さんの通っていた衛宇午高校のクラスメイトだということがわかったんです。」
「衛宇午高校… 呈鍛高校はないのか?」
「ありませんよ。どうしたんですか?」
「…とにかく。」
エイジは美月を見据える。
「クラスメイトとのことですがそうだという証拠的なものはありますか?」
「えぇと、卒業アルバムが確か…あ、これです」
本棚の片隅に置かれたアルバムを取り出す。
やや古ぼけたように見えるそれの表紙には衛宇午高校卒業アルバムと書かれている。
ページをめくり、卒業生紹介の欄の生徒個人個人の写真のページを見る。
「暁美玲、美月咲夜、前原時雄、八坂美奈子…。ん、これホンマにお前か?」
写真の八坂は今と体系がかなり違っていた。集合写真を見ても現在と違い、二倍近くの大きな体を持つ。エイジは隣に座っている八坂とのギャップに唖然とする。
八坂は下を向いたまま顔を赤くし、上げようとはしない。
「あ、アルバムはあまり見てほしくないです…」
「…そういえばここの所長は?」
「烈は…意識不明となってしまいました」
「は、意識不明?」
高町は調査を進めていたがその間にも犠牲者は出続け、二桁に達していた。
だが解決になるような鍵は見つからず、ただ時間だけが過ぎていく。調査を始めて約2週間たった頃、高町は早朝の前野公園を気分転換のために散歩をすると言い、出かけたまま帰ってこなかった。
その数時間後、美月のいた探偵事務所に連絡が入った。
「烈は…何者かにより、襲撃されました」
「…そう、だったんですか。失礼な事聞いてもうたな…」
「…その後、彼の知り合いである八神嵐という方が引き継いで調査を進めていました。」
「八神さん、烈とは結構長い付き合いで捜査協力もしてくれたのですが…」
「…無差別殺人事件の際にやられてしまったと…」
「はい…」
しばらくの間、重苦しい沈黙が流れる。
時計の針のカチカチという音だけが室内に響き渡り、どうしたらいいか困っていたその時、電話が鳴り響く。
美月が電話を取り、重苦しい空気ではなくなったかに思えた。
「はい。…あれ、鹿島さん、どうしたの? はい。烈はいないのですが…。」
「美月、事件に関わる事なら代わってくれる?」
「う、うん、どうやらそうみたいだから…」
八坂は美月から電話を受け取るとしばらくの間話をしていた。
エイジは八坂が電話をする間に美月に頭を下げる。
「美月さん、失礼なことを聞いて申し訳なかったです」
「いえ、こちらこそ。」
一方の八坂はそんなことを尻目に世間話に花を咲かせていた。
5分ほど立つが一向に話が終わる気配はない。エイジは苛立ちを覚え、突っ込みたい気持ちを我慢する。
その後、会話を終えた八坂は電話を置くとエイジのほうに向き直る。
「3時に衛宇午高校に来てほしい…だそうです」
「は、俺に対してか?」
「はい」
時計を見ると午後の2時半。
エイジは高町探偵事務所を出ると八坂の案内により、エゥーゴ高校に向かう。
道中、商店街を通る。
時間のために人通りはそこそこあったがエイジが気にしていたのはそこではなく珍しい看板だった。
1階はマクドナルドとして使われていたが2階の看板には「秘密結社」と書かれていた。
「…なんや、『秘密結社』って…」
「…さぁ…」
時間に余裕があるのでさらに店を巡り、珍しい看板を次々と目にする。
「マレーシア風エステ… 初耳やな」
「ちょっと心惹かれますね」
「…クリオネ専門店? …確かに案は面白いと思うが儲かるんか?」
「……」
「ま、えぇか。時間も時間やし急ぐで」
「了解しました。」