前世女ですが。
「白川くん、好きだ。付き合ってください」
「うん、あの。前世が女なんだけれどそれでも良ければ」
一世一代の告白は、何だかよく分からない返事が返ってきた。
私は顔を上げて、白川くんの顔を見返す。
白川くんの目は本気だった。
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そもそも、私がなんで白川くんに告白しているのか。
こんな妙なやりとりをしているのは何故なのか。
きっかけは私が高校へ入学した時に遡る。
私、乾美紀は、入学式の時に白川くんに一目ぼれした。
非常にシンプルだ。
もっと言えば、白川くんが別の男子と集合写真撮影を待っている時の事だ。
中学校からの友達なのだろうか、何かしら話して盛り上がっている様子に惚れた。
耳に心地いい笑い声、何だかしっくりくる友達を呼ぶ声。
友達に笑いかけている顔、柔らかい雰囲気。
……ああ、私の名前も呼んでほしい。笑いかけてほしい。
私は友達に止められるまで、白川くんの横顔をじっと眺めていた。
その入学式の日は、白川くんが私の名前を呼んでくれる夢まで見てしまった。
遠くから白川くんが呼んでくれて、駆け寄ると抱きしめて笑いかけてくれるのだ。
恋の度合いとしては重症だろう。
自分でよく分かっている。
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そして、あれやこれやあるようでいて白川くんとは全然何もなく、告白当日だ。
違うクラスで接点もない。
「そこでだ! 告白しようと思う!」
「お、おおー。何だか美紀って小さい頃からかっこいいよね。男気溢れるというか」
私の宣言を聞いて、一緒にお昼を食べていた真子ちゃんが目を丸くした。
「放課後に裏庭の約束の木の下に来るように、と手紙を下駄箱に入れた」
「そこは乙女なんだね」
真子ちゃんが嬉しいことを言う。
そう、もう一学期も過ぎ夏休みを越えて二学期だ。
長すぎる。
乙女のように告白しなくてはならない。
「白川くんはそこそこモテる。今でこそ断っているらしいが一学期に2回も女子に告白されていた」
「そうね」
「いつ先を越されるか分からない」
「そうね」
「何とか視界に入りアピールしたい」
「うん、まあ美紀って可愛いし告白成功しちゃうかも」
「ふふっ。ありがとう」
真子ちゃんと笑いあう。
「ただ心配な点もあるよね」
真子ちゃんが急に真顔になって囁いた。
私は深く頷く。
そう、白川譲くんに、ある噂がある。
振られた女の子が流している噂だ。
『白川譲は電波男』という奇怪な噂だ。
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そこで冒頭の告白に戻る。
私の渾身の初告白の答えが、
「前世が女なんだけれどそれでも良ければ」
との事なのだ!
何度見ても、白川くんの爽やかなイケメン顔は本気だ。
……ああ、そうか。
もしかしなくても前に告白した2人の女の子たちは、この質問に、
『それはちょっと』とか『いや、それはない』
みたいな事を答えてお断りされたのだろうか。
あり得る。
だが、しかし私の乙女心(真子ちゃんのお墨付き)を甘く見てもらっては困る。
「よし! じゃあ、付き合おう! 今日から恋人同士と……」
前世が女でも今は特に白川くんなので問題はない。
さっそく恋人としてのあれやこれやを……。
「うわ、ちょ。ちょっと待って。よく考えて。前世女でお嬢様だったから、交際スピード遅いと思うけど」
何故か慌てた様子の白川くんに遮られた。
ふむ……。私は顎の先を触り、しばし考える。
自分の前世が女でお嬢様とな。
だがしかし、前世が女でお嬢様でも、今は特に白川くんなので問題はない。
「よく考えた。大丈夫だから早速たった今からデー……」
「うわわ、俺の事前世とか言い出してやばい奴だと思わない? 女でお嬢様で飼ってる犬にしか心を開けなくて、今世では友達を作ろうと頑張ってるところなんだけど」
「うん?」
……待て? 犬? 犬? 今、何か心に引っかかったような気がしたが気のせいだな。
それにしても、慌てて顔が赤くなっている白川くんもなかなかかっこいい。
後、一応自分で前世と言い出すことの妙さを理解している。
ただ、この流れはなんだろうか。
「私は白川くんが好きだ。白川くんは私についてどう思っているか聞かせて欲しい」
もしかしたら、私を傷つけないように断る流れかもしれない。
私はそれにようやく思い至って俯いた。
「あ、ごめんなさい。そうじゃない。ごめんなさい」
俯いてスカートの端を強く握る私の手を、白川くんがおずおずと触る。
「乾さんみたいな可愛い子が告白してくれて嬉しいよ。乾さんみたいな子好きだし。良かったら付き合ってください」
私が白川くんの言葉にパッと顔を上げると、白川くんは柔らかく微笑んでいた。
どうしよう、胸がキューっと締め付けれられる。
白川くんが好きだ!
私はその気持ちを込めるように白川くんの手をギュッと握った。
「ありがとう。よし! 今から放課後デートだね!」
「え、うん」
素敵な彼氏ができたし、私の高校生活はバラ色に違いない。
なんだかエネルギーが溢れてきた。
「正門の所まで走ろう! さあ行こう、白川くん!」
白川くんの手を握ったまま走り出す。
明日、真子ちゃんにもうまくいったって報告しないと。
「うわ、乾さん足早い。待って、この猛スピードに引きずられる感覚」
「早く早く! 白川くん!」
「乾さん、君ってもしかして前世っ……うわ、喋ると舌」
何故だろう。
白川くんの手を引いて走るのって、とっても気持ちいい。
きっと好きな人と一緒に居るからに違いない!
最高だ!
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