表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

前世女ですが。

「白川くん、好きだ。付き合ってください」


「うん、あの。前世が女なんだけれどそれでも良ければ」


一世一代の告白は、何だかよく分からない返事が返ってきた。

私は顔を上げて、白川くんの顔を見返す。

白川くんの目は本気(まじ)だった。


+++++


そもそも、私がなんで白川くんに告白しているのか。

こんな妙なやりとりをしているのは何故なのか。

きっかけは私が高校へ入学した時に(さかのぼ)る。


私、(いぬい)美紀みき)は、入学式の時に白川くんに一目ぼれした。

非常にシンプルだ。


もっと言えば、白川くんが別の男子と集合写真撮影を待っている時の事だ。

中学校からの友達なのだろうか、何かしら話して盛り上がっている様子に惚れた。

耳に心地いい笑い声、何だかしっくりくる友達を呼ぶ声。

友達に笑いかけている顔、柔らかい雰囲気。


……ああ、私の名前も呼んでほしい。笑いかけてほしい。


私は友達に止められるまで、白川くんの横顔をじっと眺めていた。


その入学式の日は、白川くんが私の名前を呼んでくれる夢まで見てしまった。

遠くから白川くんが呼んでくれて、駆け寄ると抱きしめて笑いかけてくれるのだ。


恋の度合いとしては重症だろう。

自分でよく分かっている。


+++++


そして、あれやこれやあるようでいて白川くんとは全然何もなく、告白当日だ。

違うクラスで接点もない。


「そこでだ! 告白しようと思う!」

「お、おおー。何だか美紀って小さい頃からかっこいいよね。男気溢れるというか」


私の宣言を聞いて、一緒にお昼を食べていた真子ちゃんが目を丸くした。


「放課後に裏庭の約束の木の下に来るように、と手紙を下駄箱に入れた」

「そこは乙女なんだね」


真子ちゃんが嬉しいことを言う。

そう、もう一学期も過ぎ夏休みを越えて二学期だ。

長すぎる。

乙女のように告白しなくてはならない。


「白川くんはそこそこモテる。今でこそ断っているらしいが一学期に2回も女子に告白されていた」

「そうね」

「いつ先を越されるか分からない」

「そうね」

「何とか視界に入りアピールしたい」

「うん、まあ美紀って可愛いし告白成功しちゃうかも」

「ふふっ。ありがとう」


真子ちゃんと笑いあう。


「ただ心配な点もあるよね」


真子ちゃんが急に真顔になって(ささや)いた。

私は深く(うなづ)く。


そう、白川譲(しらかわじょう)くんに、ある(うわさ)がある。

振られた女の子が流している(うわさ)だ。


白川譲(しらかわじょう)は電波男』という奇怪(きかい)(うわさ)だ。


+++++


そこで冒頭(ぼうとう)の告白に戻る。

私の渾身の初告白の答えが、


「前世が女なんだけれどそれでも良ければ」


との事なのだ!


何度見ても、白川くんの爽やかなイケメン顔は本気(まじ)だ。


……ああ、そうか。

もしかしなくても前に告白した2人の女の子たちは、この質問に、

『それはちょっと』とか『いや、それはない』

みたいな事を答えてお断りされたのだろうか。


あり得る。

だが、しかし私の乙女心(真子ちゃんのお墨付き)を甘く見てもらっては困る。


「よし! じゃあ、付き合おう! 今日から恋人同士と……」


前世が女でも今は特に白川くんなので問題はない。

さっそく恋人としてのあれやこれやを……。


「うわ、ちょ。ちょっと待って。よく考えて。前世女でお嬢様だったから、交際スピード遅いと思うけど」


何故か慌てた様子の白川くんに(さえぎ)られた。

ふむ……。私は(あご)の先を触り、しばし考える。

自分の前世が女でお嬢様とな。

だがしかし、前世が女でお嬢様でも、今は特に白川くんなので問題はない。


「よく考えた。大丈夫だから早速(さっそく)たった今からデー……」

「うわわ、俺の事前世とか言い出してやばい奴だと思わない? 女でお嬢様で飼ってる犬にしか心を開けなくて、今世では友達を作ろうと頑張ってるところなんだけど」

「うん?」


……待て? 犬? 犬? 今、何か心に引っかかったような気がしたが気のせいだな。

それにしても、慌てて顔が赤くなっている白川くんもなかなかかっこいい。

後、一応自分で前世と言い出すことの妙さを理解している。

ただ、この流れはなんだろうか。


「私は白川くんが好きだ。白川くんは私についてどう思っているか聞かせて欲しい」


もしかしたら、私を傷つけないように断る流れかもしれない。

私はそれにようやく思い(いた)って(うつむ)いた。


「あ、ごめんなさい。そうじゃない。ごめんなさい」


(うつむ)いてスカートの端を強く握る私の手を、白川くんがおずおずと触る。


(いぬい)さんみたいな可愛(かわい)い子が告白してくれて嬉しいよ。(いぬい)さんみたいな子好きだし。良かったら付き合ってください」


私が白川くんの言葉にパッと顔を上げると、白川くんは柔らかく微笑んでいた。

どうしよう、胸がキューっと締め付けれられる。

白川くんが好きだ!

私はその気持ちを込めるように白川くんの手をギュッと握った。


「ありがとう。よし! 今から放課後デートだね!」

「え、うん」


素敵な彼氏ができたし、私の高校生活はバラ色に違いない。

なんだかエネルギーが(あふ)れてきた。


「正門の所まで走ろう! さあ行こう、白川くん!」


白川くんの手を握ったまま走り出す。

明日、真子ちゃんにもうまくいったって報告しないと。


「うわ、(いぬい)さん足早い。待って、この(もう)スピードに引きずられる感覚」

「早く早く! 白川くん!」

(いぬい)さん、君ってもしかして前世っ……うわ、(しゃべ)ると舌」


何故だろう。

白川くんの手を引いて走るのって、とっても気持ちいい。

きっと好きな人と一緒に居るからに違いない!

最高だ!

読んでくださってありがとうございます。

よろしかったら評価感想等頂けますととっても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ