バレンタインデー、気にしすぎなくてイイんじゃない?
バレンタインデー前の、とある金曜日。
保育園で、スマさんが子供たちに囲まれています。今日のスマさんは、白雪姫のような衣装です。
スマさんは、週に1日、保育園で働いているのです。その日の気分で変わった服装をしているので、子供達には人気です。
遠目から見ると、小人に囲まれている白雪姫のようです。
・・・・・・といっても、その白雪姫の表情は明るい笑顔ではなく、魔女のような微笑みですが・・・・・・。
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スマさんは、4~5才の子供たちを相手に、バレンタインデーについて一通り話し終えると、
「今だけ、大人の女性に、聞けることがあるのよ」
その呪文を、子供たちに教えました。教わった女の子が、さっそく使おうとします。
よりにもよって、目の前にいる、スマさんに!
「せんせー、だれに、チョ・・・・・・」
女の子は、本能的に口を固く閉じました。目の前のスマさんは、微笑を貼り付けたままです。ですが少女は、本能的に、何かを、感じたのでしょう。
周りの子供たちも、動きを止めて、見守っています。
スマさんは、硬直した少女の頭に、右の手のひらを被せると撫で回しました。
「あなたは、いま、人生で、とても大切なことを、知ったのよ。
誰にも、同じ質問してイイとは限らないの。1つの質問で、壊れる人間関係もあるのよ」
怯えていた女の子は、褒められたことを素直に受け取って、にっこりと笑顔に戻りました。
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「せんせー」
スマさんと同じ保育園で働いているナスナさんのところに、女の子が駆け寄ってきました。
この保育園の職員では、一番若く、明るい笑顔の似合う方です。
子供達に、とても人気者です。
スマさんを北風と例えると、ナスナさんは、暖かな太陽のようです。
「んー、なぁに?」
ナスナさんは、満面の笑みで女の子に応じます。
「チョコは、だれに、あげるの~?」
「・・・・・・・・・」
女の子は、目をキラキラさせてナスナさんの答えを待っています。
「・・・・・・え、えーと。ひ・み・つです」
「えーー、おしえて~~!」
本当は、あげる相手は居ないのです。
でも、大人のプライドが正直に話すことを阻んでいます。
しばらく曖昧な答えを繰り返していると、女の子は飽きたのか、みんなが遊んでいるところに戻っていきました。
ナスナさんの額には、うっすらと汗が浮かんでいます。
汗を拭く暇なく、別の女の子がナスナさんに近寄ってきました。
「先生、バレンタインデーは、どうするのー?」
「・・・・・・・・・」
今回も、ナスナさんが微妙な答えを繰り返して粘ったあげく、女の子は微妙な表情のまま、みんなのところに戻っていきました。
『チョコをあげる相手がいる』と、嘘をついてしまえば楽なのですが、ナスナさんの信条として嘘をつけないのです。
とても立派な心意気ですね。
そうして、またまた別の女の子がやってきました。
「せんせーは、チョコをあげる人、いるのー?」
「・・・・・・・・・」
ナスナさんの顔が、一瞬引きつりましたが、すぐに笑顔に戻りました。そして、額に汗を流しつつ、あいまいな答えをするのでした。その後、次々と、ナスナさんのもとに同じ質問が届くのでした。
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夜。
子どもたちが、全員、親に引き取られていった後、ナスナさんとスマさんが、後片付けをしています。
ナスナさんの顔からは、すっかりと笑顔が剥がれ落ち、目が虚ろです。
声は出していませんが、何やら口元を動かしています。
いち早く片付け終えたスマさんは、
「またね。あ、そうそう。ストレスがあったら、叫ぶといいわよ」と一言加えて、去っていきました。
ナスナさんが、一人きりになりました。
スゥーーと、大きく、大きく、深呼吸しました。
「クソォォォぉぉぉーーー、
なんていうイベントを作りやがったのよォォーーー!!
チョコ会社めーーーー!!
なんで、女が男にチョコをあげないといけないの?
バレンタインデーの意味知っているの?
男が男に、チョコを送ってもいいじゃない!!??
本場だと、親しい人に贈り物を送る日みたいじゃない。なんで日本は歪められているの!!」
しばらく悲痛な叫びが、保育園に響き渡りました。
その叫びは、保育園の入り口まで来ていたスマさんにもバッチリ聞こえていました。
「ま、あんまり気にしすぎなくてもイイんじゃない?」
スマさんは、そう呟くのでした。
終わり。
作者にとって、バレンタインデーは普通の日です!
チョコ?
あ、ネットゲームのイベントの話ですね^-^