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第45話 抵抗

 マレザンの鶴の一声で方針は決まった。


 戦うために必要な物は、まず。


「テオラキさん、武器はありますか?」

「え?」


 相も変わらず状況を飲み込みきれず、何を言っているか分からないといった様子で、とぼけた返答をするテオラキ。


「武器です。銃、弾薬」

「あ、ええ、警備隊用の武器庫に……」

「鍵はかかってますか?」

「えっと……待ってください」


 テオラキはそう言って、部屋の中を見回すと、そばにあった小さな机の横を探る。


「あ、あれ?」


 どうやら探し物がないらしい。


「ぶ、武器庫なら……さっき開けて……」

「喋らないでください」


 会話の内容を何とか聞き取っていたらしい守衛が、テオラキが何を探しているのかを察してか、言葉を捻り出す。

 そして、それをたしなめるラフナ。


「案内してください」

「ええ……でも、あの……武器なんて出して、どうするんです?」

「ハラスダハ様がおっしゃったでしょう。退かせるんです。反撃するんです」

「あっ、そ、そう、そうですよね」


 テオラキに案内を頼むが、混乱しているのだろう、話が円滑に進まない。

 少々苛立(いらだ)ちを覚えるが、致し方なし、とも思う。

 俺も少し前だったら同じようなものだっただろうから。

 頭の中でどうにか段取りを組めるのも、この短期間に色々あって鍛えられたのかもしれない。

 ホントに……色々……。


 テオラキに案内され、武器庫に向かう。

 ……いや、案内とか向かうとか、そういうほどのこともなく、部屋を出てすぐの、真向かいの部屋だった。

 部屋に入ると、そう多くはない銃が並んでいる。

 少しほこりっぽい。


「整備はマメにされてるんですか?」

「整備?」

「武器のお手入れ」

「さぁ……」


 さぁ、って……。

 大丈夫かよ。

 ぶら下がっていた鞄から弾薬を取り出し、いくつかを実際に装填する時のように噛み千切って、中の火薬を手の平に注ぐ。

 包み紙は容易に破れた。

 火薬は……うーん……湿気ては……ないな。

 筒に入った点火用の火薬の方も確認する。

 こっちも問題なし。

 銃を1丁だけ取り出し、変形など無いか確認する。

 うん、よしよし。

 テオラキのあずかり知らぬところで、警備隊員がしっかりとやっていたのだろう。


「テオラキさん、はい」


 一式を渡そうとすると、受け取る様子も無く、きょとんとした目でこちらを見る彼。


「あの……」

「……あれ? ……銃を撃ったことは?」

「いえ……ありませんが……」


 ……なんと。

 帝国の成人男性は、ほとんどが軍務に就いた経験があると思っていたが、偏見だったようだ。


「隣接する国と紛争が無い領邦では志願制なんだよ」


 声のした方を見ると、扉の前に手についた血のりを布で拭いながらマレザンが立っていた。

 こちらに近付き、俺がテオラキに差し出していた銃を受け取る。


「久しぶりだな」


 そう感慨深そうに呟きながら、俺と同じように、銃の状態を確認していくマレザン。

 彼はそれを、後ろの護衛に渡す。


「もう一人と、それと私の分も頼む」

「承知しました。2丁ずつでいきましょう」

「ああ、そういえば空軍ではそうだったな。ん? そうだったか? あー、いや、はは、年は取りたくないものだ」

「ハラスダハ様!」


 当主の客人、それも高貴な身分であるマレザンが命の危険を伴う場に出るのをいさめようとしたのか、声を上げるテオラキだったが、マレザンは幾度目かの確認を終えた銃の銃床ストックを床に強く叩きつけ、彼のそれ以上の発言を阻む。


「私よりも守るべき人物がいるだろう、ウラトゥーシくん」

「それは……」

「その人物は、私にとっても守るべき人物なんだ」

「…………」


 マレザンに低く、重い声でそう言われたテオラキは押し黙る。


「……ハラスダハ様、彼に銃の操法を。人数が必要です」

「そうだな。いいだろう。君は?」

「私は先に行って、表でまだ戦ってる味方を支援しに行きます」

「外に出るのか?」

「まさか。あくまで支援です。2階の窓から撃ち下ろすだけですよ」

「ああ、うん、それがいい。敵と味方の判別はつくか?」

「あー……」

「警備隊の制服には白色が多い。宵闇の中では目立つだろうから、すぐに分かるだろう」


 そう言われて、先程の怪我をした守衛の格好を思い出す。

 いまいちはっきりと思い出すことは出来ないが、のん気に思い出している時間的猶予はない。

 今も味方が傷つき、倒れているのかもしれないのだ。

 それは人道的見地から言うのではなく、勝つ、ないしは生き残る可能性の高低に関わるからである。


「まぁ、気を付けます。ちなみに、相手も白かったらどうします?」

「あー……うん、撃たずに待ってくれ。操法を教えたら、すぐにそちらへ向かう。どこに陣取る?」

「2階の……玄関扉に向かって、左側に。今どうなっているかは分かりませんが、さっきはそこから撃ち合っている様子が見えたので」

「分かった。まずは護衛の2人と向かってくれ。あとで一度合流して、配置を再考したい」

おおせの通りに。では、のちほど」

「ああ」


 会話を終え、いつものように銃を2丁と、その分の弾薬を抱え、マレザンの護衛たちと共に部屋を飛び出す。

 階段を駆け上がり、目的地に向かう。

 ピオテラとセラチが抱き合っていた廊下に出るが、彼女らの姿はない。

 どれかの部屋の中に入ったのだろう。

 本当なら夜目が利き、銃の腕に優れるピオテラの加勢こそ必要なのだが、あの様子ではセラチに付かせておくほうが正解だろう。


 ああ、秘密の脱出路も彼女なら探し出せるかもしれない。

 事、ここに至っては、やはり彼女を連れて行くというオルの判断は正しかったと言わざるを得ない。

 慧眼、と言っても差し支えないだろう。


 だが、それはあくまで結果論だし、ここに宿泊していくことになった一因にピオテラが絡んでいる。

 やっぱりオルはダメな判断を……いや、もしここに留まらずにいたら、セラチはどうなっていただろうか。

 ……なぜこんなことを考えているのだろうか。

 そんな余裕はないはずなのに。


 あーぁ、やだやだ。

 金貨100枚にはまったく見合わなくなってきたなぁ。



 *



 2階に辿り着き、3人揃って廊下の突き当たりの窓から外の様子をうかがう。


 相も変わらず、そこかしこで散発的に閃光と噴煙が発されている。

 2つのグループに分かれて、お互いに、正門より入って左右にあった彫像や植え込みに身を隠しながら撃ち合っているのが視認できた。

 その2グループ間の距離はせいぜいが50メートルあるかないか。

 お互い、十二分に有効射程内である。

 昼間で、なおかつ開けた場所ならば、人がバタバタ倒れていただろう。

 だがそれも、これだけの遮蔽物と、月が出ていないのか、それとも雲がかかっているせいかで暗闇が深い中では、そうはならない。


 さらによく観察すると、この窓からは左のグループの側面が狙える。

 近くの護衛の一人に尋ねる。


「目の前の奴らは味方か?」

「……分からないな。白っぽい服を着ているようにも見えるが……」

「そうか……。うーん……」


 右の方へ確認に行くか?


「一応、右の方からも確認しては?」


 俺がそう考えていると、もう一人の護衛が提案して来る。


「俺もそう思っていた」

「なら話は早い」

「それじゃ、俺が見てくる。お前さんらは一旦待機しててくれ」


 そう言って立ち上がろうとすると――


「待て待て。そういえば、同僚が外にいたんだった。声をかければいい」


 ――と、俺が最初に話しかけた護衛の一人が提案してくる。


「それじゃ奇襲にならないじゃないか。もし目の前の奴らが敵だったらどうするんだ」

「いや、目的は奇襲じゃなくて支援だから。俺たちの存在がバレたって問題ない。どうせ撃てばバレる」


 もう一人の護衛が異を唱えるが、俺はそれに対してさらに反論すると、しばしの黙考ののちに彼は『それもそうか』と独りごちり、頷く。


「よし、決まりだ。同僚を呼んでくれ」


 声をかけることを提案してきた護衛に、そう頼む。

 彼は頷くと、ゆっくりと窓を開け、同僚の名前を呼ぶ。

 返事はない。

 もう一度、名前が叫ばれる。


 すると、返ってきたのは銃弾だった。


「敵だな」


 俺がそう言うと、慌てて頭を引っ込めてきたのを含めた2人の護衛と頷き合う。

 仮に、外にいるマレザンの護衛が返事ができない状態でも、屋敷から声をかけて来たのなら、味方だと思うだろう。

 しかし、返ってきたのは鉛弾。

 屋敷の中の人間は敵だと認識するグループ、つまりは俺たちの敵ということだ。


 この窓から右には、正面に向かって右の棟に繋がる渡り廊下があり、いくつかの窓がある。

 左手には部屋。

 その中にも窓があるだろう。


「左側のグループに撃ちかけるぞ。何度も同じ窓から撃つなよ」

「ああ」

「分かってる」


 俺の忠告はあっさりと受け入れられる。

 というより、一人が言ったように、あらかじめそう考えていたのだろう。

 軍務に就いていた経験があるのだろう。


「よし、行くぞ。撃たれたら撃たれたって言えよ」

「頭に当たったら?」

「助ける手間が省ける」


 俺がそう言うと、彼らはさも愉快そうに笑う。


「さぁ、反撃だ」


 俺のその一言で一人は部屋の中、一人は俺からも見える渡り廊下の窓から撃ちかけ始める。


 右手の護衛が発砲したのを合図に、目の前の窓から撃つ。

 当たったかを確認することも無く、頭を引っ込める。

 確認する必要などない。

 当たっていればラッキーだな、と思う程度だ。

 脅かしになれば十分である。


 再び撃とうと立ち上がると、こちらの動きに対応するためか、いくつかの人影が場所を変える。

 外の味方に向けられる銃口の数が減った。

 重畳ちょうじょうなことである。


 しばらくすると、弾を込めているところにマレザンとテオラキが姿を現す。

 姿勢を低くしながらこちらへと近付いてくる。


「どうなっている?」

「向かって左側が敵だと思われます」

「思われます? ちゃんと確認してないのか?」

「護衛の一人が外にいるはずの同僚に呼びかけましたが、返ってきたのは鉛弾でした」

「ふむ……そうか……」


 そう言いながら、マレザンはゆっくりとわずかに頭を出し、窓の外を覗く。

 彼の中では、それだけでは根拠が弱すぎると思ったのか、それとも自分の目で確かめないと気が済まない性質たちなのか。

 狙ってか狙わずか、至近に銃弾が撃ち込まれ、頭を引っ込めるマレザン。


「どうですか? 私たちが今撃ちかけているのは警備隊の人間でしたか?」

「分からん」


 なんだそりゃ。


「が、こっちに撃ち返してくるなら敵だろう」


 さきほどの頭の中の考えは、後者が正解だったらしい。


「では、ご加勢を……」


 と思ったところで、人数に対して窓の数が足りない。


「一度撃ったら、2,3回装填できる時間を置いて撃ってください。どの程度の銃口がこちらに向けられているかは不明ですが、狙いを定められてる可能性がありますので」

「言われずとも」

「テオラキさん、左手の部屋にマレザン様の護衛の一人がいます。彼にもそう伝えて、加勢を」

「わ、わかりました」


 まぁ、銃の扱いに不慣れなテオラキなら否応いやおう無く、かなりの時間を置いて撃つしかできないだろう。

 マレザンとテオラキが散っていくと、護衛の一人に近寄り、装填作業をしていた彼にもそう伝える。

 それを終えると、元の位置に戻り、射撃を再開する。


 ふと、敵側から上がる噴煙が少なくなっているような気がした。

 退き始めている?

 それとも、撃たれて数が減ったか?

 どちらにせよ、慶事だ。

 よしよし、いいぞ。


 生き残れる可能性が増したことを確かに感じ取り、喜色に浮かた指で軽やかに引き金を引き絞り、発砲する。

 屈みこんで装填を始める。

 よしよしよし、このまま行けば勝ちだ。

 突然のことだったが、始めてみれば実に簡単だった。

 数はともかく、位置取りではこちらがかなり優位なのだ。

 航空戦で言えば、ずっと上につけているようなものだ。

 楽勝楽勝。

 うひひひひ。


 作業の最終段階、鼻歌を歌いながら弾込め棒で銃弾と火薬を銃身に押し込んでいると、目の前、今の状態だと廊下の奥から、閃光と銃声が発される。

 それとともに、頭上のガラスが割れ、その破片が降ってくる。

 そして左耳から、銃弾がすぐそばを通り、背面の壁に着弾する音がする。


 うひひ……うひ……


 ……うひろ!?

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