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第20話 侵入

「で、何が必要だ?」


 支店に戻り、一室を借りて準備を始める。

 タソルに忍び込む準備を。

 ブレアについては商売相手ということで話をつけて、一緒に通してもらった。

 ああぁ~……また犯罪の片棒を……。


「えっとねー、そうだなー。ちょっと待ってね」


 眉根を寄せて目を閉じ、何かを考えるピオテラ。


「うん、あそこなら……。何か金属製の細い板はない?」

「ナイフか?」

「ナイフはちょっと太すぎるかな。あ、もちろんナイフも欲しいけど。出来れば数本、長めで頑丈なやつ」

「ナイフ数本な。あとは細い板……ああ、あれでいいかな。あるかな……」


 室内にあった事務机を探る。

 金属製の30cmほどの定規があった。


「これは?」

「おっ、それいいね。いただき。あとそれと、金庫を破る必要はあるかな?あるなら針金なんかも必要になってくるけど」

「あー、それはまずいですね。痕跡は残して欲しくない。対応されるおそれがあるので」

「うーん、そっかぁ」

「まぁ、かさばるものではないし、念のため持っていってもいいでしょう」

「うん、そうする」


 完全にブレアに泥棒と認識されてるな。

 事が終わった後はどうするつもりなんだろうか。


「あっ、あとロープね。細くて長めの」

「それならすぐ用意できる」

「あとはー……」

「一目見て何かの契約書とかって分かるか?」


 オルが無茶を言い出す。


「えっ、それはちょっと……無理かな……」


 だよね。


「出来れば何か関係ありそうな書類でもあれば、書き写してくるくらいはして欲しかったんだが……」

「ないものねだりだな。第一、そういうヤバイものは金庫にしまい込んでおくだろ」

「あー、そうか。そりゃそうだ」


 彼にしては珍しい。

 何をそんなに期待してるんだ。


「契約書なんかが外に出るとしたら出先へ持っていくくらいじゃないですか?その時にでも」

「船を襲えと」

「あ、そうなっちゃいますね。ははは」

「笑えないよ!」


 ブレアがおかしなことを提案してくるが、下手をすればこっちが御用だ。


「よし、こんなもんかな」


 ピオテラはあれこれ入れた小さい肩提げ鞄のヒモを途中で結んで、腰からぶら下げる。

 ベルト状になったところにナイフを差しこんでいく。

 そのうちの1本には柄にロープをくくりつけ、ロープも腰に巻いていく。

 動き易さを意識してだろう。


「要所要所にピオテラさん以外の4人で見張りにつきましょう。店に戻る人間を見かけたら大声でその人を引きとめてください。ピオテラさんは外から4人のうちの誰かの声が聞こえたら脱出するように」


 俺たち4人を見回しながらブレアが提案し、それぞれが頷く。


「うん、分かったよ。カッコよくガシャーンって行けばいいんだね」

「できれば静かに……」

「努力はするよ!」


 ブレアが言葉に詰まる。

 不安だなぁ。


「逃げるのは得意だからさ! 安心してよ!」


 ピオテラが俺の表情に気付いたのか、こちらに言葉を投げかけてくる。


「まず逃げることにならないようにしてくれよ」

「努力はするよ!」

「それさっきも聞いたぞ……」

「なははは」


 そんな話をしながら窓の外に目を向けると、いつの間にか日は陰り、暗くなり始めていた。

 店が閉まるにはもう少し時間がかかるだろう。


「こっちの店が閉まる時に出よう。時間的に向こうも閉まる頃合いのはずだ」


 今度は俺の提案に皆が頷いた。



 *



 店を囲むように、なおかつお互いが視認できる位置で、それぞれが距離を離して対角線上に立つ。

 表通りにはブレアとオル。

 裏通りには俺とラフナ。

 俺からはオルとラフナが見える。


 店内にはまだ明かりが点いていたが、それも消える。

 間もなくオルが手を上げる。

 最後に出てきた誰かが鍵を閉めるのを確認した合図だ。


「よし、いいぞ」


 隣にいたピオテラに声をかけると、顔を隠した彼女は無言で頷く。

 靴底が柔らかいのか、猫のように音もなく店の隣にある2階建ての建物の屋根に登っていく。


 その屋根からは届きそうにない位置に両開きの窓が見える。

 あそこが狙いだろうか。


 しばらく外壁を眺めていた彼女は、木造の壁に柄にヒモをくくり付けたナイフを投げ、突き立てる。

 割と大きめな音がするが、まだ街の喧騒が鎮まりきっていないので聞こえない……ことを祈ろう。

 店内に人がいたら聞こえたかもしれないが、それは分からない。

 いずれにしても、自称逃げ足は速いらしい彼女のことだ。

 この時点で危険を察知したら引き返してくるだろう。


 そのナイフの上に彼女は飛び移るが、当然のように彼女の体重を支えきることは出来ず、下に落ちる。

 しかし、地面に落下する前に、柄にくくり付けられていたロープによって引きとめられる。

 また、飛び移って壁に張り付いた際も音がしたが、想像していたよりも大きな音はしなかった。

 彼女ごと落ちてくるんじゃないかと思い、焦ったが、見やると別のナイフを壁に突き立ててぶらさがっている。

 す、すげぇ……。

 猟師ってみんなそうなのか?

 あ、泥棒か。

 いや、いくら泥棒ったってさ……。


 次は、唐突にロープを振り回したと思ったら、その先にあるナイフを左手で受け止め、さらに壁に差し込んでいく。

 今度は静かに、ゆっくりと、抉るように。

 それが終わると、右手よりも少し上に左手のナイフを刺す。

 次は右手を同じようにして、その動きを何度か繰り返し、左足を先ほど開けた穴に突っ込むと、ちょうど窓枠に手が届いた。


 さらにロープのついたナイフを窓枠の近くに刺して足場にする。

 しばらく中を窺ってから、定規を窓の隙間に差し込むと上へと跳ね上げる。

 定規を引き抜くと窓がわずかに開く。

 あんなところから誰も入ってくるとは思っていなかったのだろうか、簡単な施錠だったみたいだ。


 その片方だけを開けて右手で窓枠に腕を回すと、もう片方も開いて中に入り込んだ。

 俺が唖然として見上げていると、両腕を窓枠にまわしたまま、ロープのついたナイフを手繰り寄せたあと、ピオテラは手の平をわずかにヒラヒラさせて、俺にニッと笑いかけた。

 床よりも少し高い位置にあるらしい。

 片方の窓を閉めると、もう片方は閉め切れないのだろう、若干開いたままで彼女は姿を消す。


 さて、上手くやってくれるといいが……。


 ふとラフナの方を見ると二人組の男に声をかけられているのが見えた。

 娼婦と間違えられたか。

 助けに行こうと動き出すが、すぐさま男達はラフナの元を去って行った。

 不安なので確認しに行こうとすると、ラフナがこちらを見て、俺の接近の意味を悟ったのか、手と頭で大丈夫だという表現をする。

 ならいいんだが……。


 元の位置に戻り周囲の警戒を再開する。

 あとできる事と言えば……ピオテラの戻りを待つことだけだな。



 *



 半時ほど待ったが、まだ出てこない。

 やらかしたかな、などと考えていると――


「ただいま」

「うおっ!?」


 ――急に後から声をかけられた。

 口から心臓が飛び出すぐらいに驚く。

 振り向くとピオテラが立っていた。


「あれ? お前、どこから出てきた?」


 視線を窓と彼女を行ったり来たりさせる。


「んーとねー、地下に通路があったから通ってきた」

「はぁ?」

「ぼろっちい家に出たから、そこから」

「お前、地下通路好きだな」

「別に好きなわけじゃ……」

「まぁ、それはいい。ちなみに、そのぼろっちい家ってどこ……あ、いや、まずは集まろう」

「うん」


 オルとラフナに集合のサインを送り、さらにそこからブレアにサインが送られたのだろう、店から少し離れた路地裏に5人が集まる。


「で、どうだった?」

「いたよ。昼間に見た女の子。小さい泣き声が聞こえたから見に行ったらドンピシャ」

「どういう状態だった?」

「鍵がかかってたからドアの隙間からだったけど、はっきりとは分からない。あ、似たような空き部屋がもう1つあったから、もしあの内装と同じなら、そうひどい扱いを受けてるって感じではないかも」


 鍵が掛かってる部屋に入れられる時点で十分ひどい扱いだと思うが……。

 しかし、そんな状態に置くということは、ほぼ確定的だな……。

 そう考えていると、ブレアが身を乗り出してくる。


「ちなみに鍵は中から? それとも外?」

「鍵穴が外にあったから、たぶん外からだと思う。破って助けようと思ったけど、ダメって言われたのを思い出したからやめといた」

「賢明です。しかし、外からですか。しかも似たような部屋がもうひとつ……。捜索したときはそんなものなかったはずですが」

「地下だよ。1階の倉庫を覗いたら床に木箱をずらしたあとがあって、それをどかして見たら入り口があった」

「うわ、失態だ……。書類に気を取られすぎたか……」


 あからさまに『しでかした』という顔をするブレア。


「よく見つけたな」

「せっかくだから何かもらってこうかなーって探し回ってて、偶然ね」

「だからさぁ!」

「うわ! 何!?」

「……いや、いい。もちろん何も盗ってこなかったよな?」

「あー、地下に気を取られちゃって忘れてた」


 結果よければ全てよし!


「で? その地下通路から別の出口に出たんだよな?」

「そうそう。ぼろっちい家」

「その家まで案内していただけます?」

「はいはーい」


 ブレアに案内を頼まれ、軽い足取りでピオテラが先導していく。

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