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第19話 情報交換

「では、お仲間同士ということで情報を交換しませんか? どこまでご存知で?」


 ゴータチェニ警務少尉殿はニコニコとしながら、俺たちに問いかける。


「どこまで、と言われましても……我々も昨日カルノに来たばかりで……」

「旅行者の方ですか。よくもまぁ、こんな話を嗅ぎつけたものですね。それも昨日の今日で」

「いや、俺たちはウィルラクのもほごっ」

「ディム!」


 そう言いかけた俺の口を慌てて押さえるオル。

 あー、また迂闊なことを……。

 ピオテラに毒されてしまったか……。


「ウィルラク……? ああ、同盟の商会ですね。なるほど、情報が早いワケだ。同じ商売人同士ですからね」

「……まぁ、そう……ですかね……? はは……」

「なるほどなるほど……別方向から見た情報も必要だな……うん……」


 納得したかのように繰り返し頷くゴータチェニ。

 横から俺の迂闊さを責めるかのように、オルが大きくため息をつく音が聞こえた。

 ごめんなさい。


「さて、お互いの素性が分かったところで、早速交換会といきましょう。よろしいですか?」


 ゴータチェニは何らかの結論に至ったのか、顔を上げ、そう提案してくる。


「……ええ、お受けしましょう。えー……少尉殿? ゴータチェニさん? それともブレアエスさんとお呼びすれば?」


 俺は諦めて提案に応じることにする。


「ブレア、で構いませんよ。さん付けも敬語も結構です。なるほど、商人の目から見ればそうなりますか。ディムさん……と……」

「オルエニ。オルでいい」

「オルさんですね」

「こっちも堅苦しいのはいらんぞ」

「すみません、こういう性分でして。ご容赦を。それと……そちらのお嬢さん方のお名前を伺っても?」

「そっちの可愛らしいのがラフナで、そっちの騒がしいのがピオテラだ」

「なるほど、承りました。ディムさん、オルさん、ラフナさん、ピオテラさんですね」

「よろしくお願いします、ブレアさん」

「なんか酷いこと言われた気がする!」


 紹介され、うやうやしく頭を下げるラフナと、やはり騒がしいピオテラ。


「で、商人の目から見て、どうお考えに?」


 不本意な自己紹介を終え、すぐさま本題に戻るブレア。


「もしかしたら禁制品の取引でもしてるんじゃないかって……いや、そもそも俺たちがどう考えるかも何も、本来、そういうのはそちらの仕事だろう」

「確かに。その通りです。しかし、違った視点からの情報も重要なんですよ」

「一応、警務局の方には伺ったがね。門前払いを食らったよ。娼婦の斡旋ってことで落着してると」

「ああ、そうでしょうね。この件に関しては内々に進めてますから」

「内々に? どうして?」

「どこ経由でかは不明なのですがストップをかけられてまして……おっと、失礼。迂闊な話をしましたね」


 そう言いながらも、俺に向けるのは失態を恥じる顔ではない。

 こちらの不用意な情報開示への返礼とでも言うのだろうか。


「こちらもタソルの動きに気付いたのは1週間ほど前でしてね。それなのにロクに情報も集められていない時点でストップをかけるという話が出てきて、2日前に慌てて令状をとってガサを入れたのですが、それで精一杯でしたね。むしろ同盟の領事館から抗議が来まして、さらに身動きが取りづらくなってしまいましたよ。ははは」

「それは難儀なことで……。で? 俺たちに接触してきたのはどういうことで?」

「いえね、この件で動ける警務局の人間が私しかいない状態でして、手伝ってもらえたらと思いまして、声をかけさせていただいた次第です」

「もしタソルを探っている人間じゃなかったら?」

「ちゃんと退路は確保してましたよ? それに、いつも私がやってるような動き方をしていれば、仲間意識も芽生えるというものです」

「こんなことをするのは今が初めてだぞ?何度も確認したのならともかく……」

「警務局をお訪ねくださって助かりました」


 ああ……あそこからか……。


 頭をめぐらせていると、不意にゴータチェニが視線を俺から外し、商会の方へと目を向ける。


「ほら、出てきましたよ」


 そう言われ目を向けると、少女を連れてきた男女――やや年を食っているように見える――に続いて、先ほどの服とは違い、小奇麗な従業員用の服を着せられた少女と一人の男の4人が出てくる。

 男女は少女……というよりは、もう一人の男の方に頭を下げ、少女に手を振ると、踵を返し去って行った。

 その背中を見送り終えたのか、男に促され、少女は店内へと戻っていく。


「なんで従業員の服なんか着せてるんだ?」

「それは雇うことに決めたってことでしょう。違いますか?」


 俺の疑問にゴータチェニは答える。

 うん、まぁ……そうなんだろうけど……。

 こんな短い間で決めてしまうものだろうか。


「あの男……」


 ポツリとオルが呟く。


「どの男だ?」

「店内に戻って行った男だよ。支店ですれ違った男だ」


 言われて思い出す。


「……ああ、タソルの支店長か」

「ああ。……いや、特段おかしな話でもないな。奴の仕事場なんだし」

「確かにその点はおかしくないが、あの女の子をほぼ即決で従業員にした点は?」

「不可解……とは言い切れないな。商売の手を広げるなら人手も必要になってくるだろう?」

「言われてみれば、その通りかもな。ピオテラの件ではうちも似たようなものだし」

「それは内部の人間の後押しがあってこそだろう。状況が違う。参考にならん」

「そうか……うーん……」

「私が不可解に思う点はですね」


 俺とオルが話していると、横からゴータチェニが口を挟んでくる。


「3日ほどこうやって監視しているのですが、今みたいに子供を伴って訪ねてくる人々のことごとくが女の子連れなんです。しかも、全員が全員ではないですが、その連れてくる人も同じ顔であることが多い」

「……つまり?」

「考えられるのは、子供の集団疎開を引き受けた孤児院か、あるいは親戚筋の家庭の人間か、くらいですかね」

「女の子連れ、という点は?」

「事務方は女性を受け入れることが多いでしょう? 男手は現場の方へ直接回されてる可能性もあるかと思います。ま、商売については門外漢の素人意見ですがね」

「まぁ、そう大きく間違っちゃいない」


 ゴータチェニの考え方を肯定するオル。

 となると……。


「これも娼婦の件とは別に、慈善事業の一環ということになるか?」

「そうなるかもな」

「オルがそう言うなら……そういうことじゃないのか?」


 彼の方に振り返り、尋ねる。


「慈善事業ですか。彼らの言い分通りというわけですね」


 そういえば、警務局でそんな話が出ていたな。


「それなら、そういうことで手仕舞いに……したいところですが、実はもう一点、気になる事がありましてね」


 ブレアが続ける。


「不思議なことに、終業時間になって店から明りが失せて、支店長やその他の従業員が帰路についても、その女の子達は出てこないんですよ」


 ふむ?


「それも別におかしなことじゃないさ。店内に従業員のための宿泊施設があったりもする。あの店が中にそういうのを設けているかどうかは分からないが、商売ってのは速度が大事だからな。いざって時にすぐ動けるようにしてるところがほとんどだ」

「すぐ動くために従業員を夜間も店内に留めおくと?」

「航空艦で勤務した経験は?」

「いえ、ないですね。私はこの通り、目が悪いですから。一応、警務局管轄の部署でそういうところもありますが、配属されたことがないのでさっぱりです」


 眼鏡の端を指先でトントンとつつくブレア。


「航空艦も同じだよ。夜になっても、何か変事が起こった場合に対応できるよう、数名の宿直を置く」

「ああ、宿直。それなら私も数日置きにやりますね」

「そうなのか。まぁ、それと同じことだよ」

「なるほど」

「そうなってくると、いよいよ怪しいところが消え失せるが?」


 オルとブレアの議論に終止符を打つように俺が口を差し挟むと、ブレアは考え込むように俯く。


「もう少し様子を見るしかないか……」


 そうブレアは独りごちる。


「あの」


 急にラフナが声を上げたので、目線を移す。


「その……女の子の表情、空港で見たのと同じでした」

「空港で?」


 ブレアに問われ、彼に頷き返すラフナ。


「やっぱり何か……ちょっとおかしいです」


 胸元で拳をギュッと握り締めて訴える彼女。

 つまり、先ほどの少女は、彼女が不安になるくらいの表情をしていたということだろうか。


「そうだったとしても……これ以上、調べようがないんじゃないか。ピオテラみたいに直接聞きに行くのか? もう警務局に任せたほうが良い」

「警務局としても、少なくとももうしばらくは積極的に動く姿は見せたくないですね。時間はかかるかもしれませんが、いずれはどうにかできるかもしれません」

「店内を捜索したときにおかしな部分とかはなかったのか?」

「私も一緒に入りましたが、そんなところはなかったですし、そのような話も聞かなかったですね。入れる人員も少なかったですし、令状にも時限がついてたので調べきれたとは思いませんが、それなりに手際よく探った自信はあります」

「だそうだ。手詰まりだな。もう任せよう」


 俺とブレアが対応の困難さを説くと、彼女は唇を噛み、悔しそうな表情を見せる。

 彼女のその表情に思うところがないことはないが、本当にこれ以上はどうしようもない。


「じゃあさ、あたしが調べてきてあげようか?」


 不意にピオテラが提案して来る。


「お前が?」

「うん」

「できるのか? どうやって?」

「だって、あたし、そもそもそういうの仕事にしてたし」

「……あ、あああー、あ、そう、そうだよな。うん、確かに……いや、でもな……?」

「そういう仕事とは?」


 ブレアがいぶかしげに問いかけて来る。


「まぁ、その……なんというか……」

「……ああ、なるほど。さっき逃げようとしたのはそういうことか……」


 俺が必死に誤魔化そうとするなか、何かに得心したのか、ブレアが声を上げる。


「では、お試しでやってみましょう。毒を持って毒を制すとも言いますしね。頼めますか? ピオテラさん」

「うん! 任せてよ!」


 ブレアの察しが良いのか、ピオテラが察されやすいのか……絶対後者だな。

 とにもかくにも、彼の一声で今夜の予定が決した。


 しかし、彼女が自信満々に答えるほど不安になるのは俺だけだろうか。

 そういう風にしつけられてしまったような気持ちだ……。

 ……あれ?なんで俺がしつけられてるんだ?

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