初めての仮想世界
ここはもう、仮想世界の中なのだろうか。
恐る恐る、そっと目を開けてみる…
目が半分ほど開いたところで、上がろうとするマブタを一旦止めた。細目のまま、あたりを回そうとしたが、ボヤけていてよく見えない…
意を決し、一気に目を開けた!と同時に私は固まってしまった。「ウェルカム トゥー アーバンネイチャー」と英語で書かれたネオンの文字が目のに飛び込んで来たかと思えば、周りには、見慣れない服装をした人々やそびえ立つ高層ビルが見えた。
口が開いたまま閉じなくなってしまった私を、「ピンポーン」というインターホンのような音と、目の前に表示されたメールマークが、何とか我に返してくれた。どうやら、運営側からメールが届いたらしい。
目の前を浮かんでいるメールマークを指先でつつくと、「ポンッ」という音をたてて、一通のメールが表示された。
『アーバンネイチャーにようこそ』
仮想世界、アーバンネイチャーにようこそお出でくださいました。つきましては、簡単な手続きを行わせていただきます。
まずは、ユーザー名を登録してください。
私は空欄になっている記入欄をタップした。すると、手元にキーボードが現れる。ここに来る前からユーザー名を決めていた私は、素早くキーボードを操作し、決定と表示された青いボタンをタップした。ユーザー名は「ユメカ」。本名の朝夢春香から文字ったものだ。
次に「GTJ」に登録する方は青いボタンを、しない方は赤いボタンをタップしてください。
私はこれもまた迷わず、青いボタンをタップした。
GTJへの登録、完了しました。
それでは、簡単にではありますが、GTJについての説明を行います。
GTJとは「ゲット ザ ジョブ」というゲームの略称です。これはPVP制となっていますので、プレイヤー同士が1VS1で行うバトルに勝利してポイントを稼ぐことが目的となっております。獲得ポイントごとで全5ランクに分けられるので、トップランカーを目指し、頑張ってください。
「言われなくても、そうするよ。」
相手と会話ができる訳でも無いのに、やる気に満ち溢れてる私はついつい応えてしまった。
さて、最後にあなたのジョブ、職業を選択していただきますが、このゲームにおいての職業は、魔法使いや戦士といったファンタジーものではありません。現実に存在する職業をモチーフにした初期職業、全8種類からお選びいただけます。
目の前に、8つの職業…ではなく、何故か9つの選択欄が現れた。また、うち1つはバグなのか、よくわからない文字になっている。私は好奇心に負け、バグっているその選択肢をタップした。
職業#*¥&♪〆*でよろしいですか?
音声までバグってしまっているが、私は決定のボタンをタップした。
これにて手続きを終了します。あなたのご活躍を心より期待しています。
「結局、なんなんだろ。これ…」
未だにめちゃくちゃな文字で記されたジョブ欄を見つめ、首を傾げた。
「ごめん!遅れた。」
後ろからかけられた声に振り返ると、そこにはマスクで顔を覆った女性が立っていた。
「あの、どちら様?」
私は誰かサッパリわからず、さっきまで右に傾けていた首を今度は反対側に傾けた。
「私だよ!わ・た・し!」
「緋花莉?!変なモン顔に着けてるからわからないかった…」
「変なモンって、顔出しNGの人はみんなマスクをつけてるでしょ。そもそも、本名で呼ぶのはダメだよ」
「それもそうだね。ごめんごめん」
この仮想世界に来たからといって、容姿や体型が変化することは無い。プラグスーツが、体型などを計測し、ハードがこちらの世界でも、リアルと同じようなビジュアルを再現するからである。緋花莉のように、顔を出したくない人たちは、マスクを着用するのが一般的だ。
「それにしても、遅かったね。何してたの?」
「それが…スーツがキツくて、着るのに手こずちゃって…」
「ふ〜ん。まぁそうでしょうね。そんな大きなものを抱えていたら」
白い目で緋花莉の胸もとをじっと見つめた。
「ちょっ!春香!どこ見てっ…」
緋花莉は慌てて、胸の前で手を交差させ、防御体制に入ったが、顔は見えずとも、耳が真っ赤に染まっている。
「そっそれはそうとして、いいの?マスクつけなくて」
どうにかして話を変えようとしたのか、噛み噛みで緋花莉が話し始めた。
「そうやって、話を変えようたっ…」
「うわぁぁぁ!」
「私がまだ話してるじゃ〜ん」
「いいから!もう辞めて!お願い!」
もう少しいじりたかったが、こうも拒否られはと断念した。
「わかった。わかったって。ちなみに私はマスクつけないよ。理由は一種の布教活動!いずれはトッププレイヤーになるんだし、顔と名前くらいは覚えてもらいたいじゃん」
「でも、変な人に絡まれたりしないかな」
「うーん。その時は、か弱い私を守ってね…」
つぶらな瞳で緋花莉を見つめた
「いやいや、トッププレイヤーになるんでしょ。かわいい子ぶってないで自分でやっつけてよ」
少し考えるような仕草をとっていた緋花莉が「よしっ」と声を上げ、
「ユメカがマスクつけないなら、私もいいや」
と宣言した。緋花莉はスッとマスクを外し、顔を覗かせた。
「うん。そっちの方がいいと思うよ。せっかく、美人なんだし」
緋花莉は少し照れたような表情を見せて、
「じゃっじゃぁ私、あっちで手続き済ませてくるね」
そう言って、緋花莉は少し遠くの方へ行ってしまった。
私はもう一度、目に映る光景で心満たして、気合いのガッツポーズを決めた。




