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あ…ありのまま今日起こった事を話すぜ!『おれは18:00に寝たとと思ったら いつのまにか6:50だった』な…何を言っているのかわからねーと思うが おれも何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか寝不足だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……
2日も空いてしまいましたが、続きです
家を出てからというもの、僕とフィアの間に会話という会話は成立しなかった。僕はフィアの手を引き、フィアは手を引かれ、ただ歩いてゆくだけ。途中、先程フィアが倒れていた花道も通りはしたが、結局彼女は何かを思い出すようなことはなかった。あの道を通る時は花々の彩りを眺め、穏やかな気持ちになるはずだった。しかし今、フィアはただ俯くだけ。不安に押しつぶされそうになっている彼女に、花を楽しむほど心に余裕はなかったのである。そして僕もまた、フィアに起こった不幸を知り、ただこの子の手を引いてあげることしかできなくなっていた。
警察署に着くと、中から一人の警官が顔を出す。足取りがここを目指していたから何があったのかと様子を伺いに来た、と言ったところであろう。
「どうかしましたかな」
小太りの優しそうな中年の警官は、そう僕に尋ねる。僕は一連の出来事を彼に説明した。説明している間、フィアはずっと僕の手を握りしめていた。警官はうぅむ…と唸り声を上げる。
「名前がわかっているならば、役所に頼んで身元を特定できるやもしれません。依頼しておきましょう、この子はこちらでお預かりします」
警官は、さぁ、とフィアに手を差しのべる。しかし、フィアはビクッと肩を跳ねさせ、僕の背後に隠れてしまう。僕の服の裾を握りしめ、動こうとしない。
「はは、怖がらせてしまったかな」
警官も困った顔でそう笑う。
「この人が、君のお家を見つけてくれるそうだよ。ここにいれば安心だ」
僕がそう言っても、フィアはふるふると首を振り、僕の傍を離れようとしない。僕と警官が困り果てていたその時、僕はフィアの口が何かを訴えているのを見る。
「………………やだ……」
それは、僕とフィアが出会って初めての、彼女の主張だった。
「警官さん。もしよろしければ、僕にこの子を預けてもらえませんか?」
僕がそう問うと、警官は難しい顔をする。
「身元が見つかるまで、僕がこの子の世話をしたいのです。許しては貰えませんか」
フィアの主張を聞いた時、僕は胸が苦しくなった。何もわからない状況の中、ただ少しの安心を求めて必死に僕を事を頼ったのだった。か細い彼女の声を聞いた時、それを悟った。フィアの心に触れた僕は、彼女の必死の主張を受け入れずにはいられなかったのである。
「……わかりました。それでは、お願いしましょう。しかし、幾つか書類を用意して頂く必要があります。こちらでお待ちください」
警官は僕らを署の中へ招き入れる。背中に張り付いていたフィアの手を握ると、彼女は安堵した表情を見せた。