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御城 碧です。実は他の名前でも小説投稿してますが、今回の作風は今までとは全く違う為、別のアカウントを用意しました。ちなみに以前から書いている小説はファンタジー系ライトノベル属な感じでしたが、停滞中ですハイ。こっちでは続けられるようにしますので、どうかお付き合いのほど宜しくお願いいたします。
気が付けば、貴方はそこにいた。
私に向かって微笑む貴方。
私の身体を優しく抱きあげ、果ての見えない花道をゆっくりと歩いてゆく。
貴方の腕は暖かくて、優しくて、安心できた。
***
この光景を言葉で表すことは、容易なことではなかった。
文才を持たず表現を得意としない僕には、その光景が目の前に現れたことはあまりにも唐突なことであり、それを表す術を見つけられなかった。
大学からの帰り道、片手に持った小説を読みながら、春風の吹く道を歩いている所であった。普段は多くの人々が行き交う大通りを歩くところを、今日は気分を変えようと、昔よく遊んでいた花畑のある道を通った。冬が通り過ぎたこの街には暖かな風が流れるようになり──そしてそれに誘われるかのように、たくさんの花々が芽を出し、葉を付け、そして満を持して悠々と咲き誇るのが、毎年の光景である。
そして今年も例年通り、この花道は満開の花達で溢れかえっていた。
だが今、目の前には、毎年の例には無かった異様な光景がある。
花畑の上に、少女が横たわっていたのだ。赤や黄の花々に包まれ、白く光る艶やかな肌に、これはまた真っ白なワンピースを纏った幼き少女。本来は大変だと慌てて少女の安否を確認する所であろうが、その“幻想的”な光景を前に、僕は完全に魅入ってしまっていた。
──そう、“幻想的”。幻想的なのである。
僕は少女の無事を確認する為に、歩み寄る。小さなお腹が一定のペースで動いていることから、命の危険は無いようであった。辺りを見回してみたが、彼女の親らしき影はどこにも見当たらず、そればかりかこの花畑の主であるお婆さんの姿も、郵便配達員の姿も、人っ子一人いない状況であった。この場にいるのは、僕と少女だけ。そう考えると何故だか急に底知れぬ不安のようなものが感じられたが、それは一瞬のことであった。
少女は規則正しい寝息を漏らし、気持ちよさそうに花のベッドで眠っている。それに手を触れる事に少し背徳感のようなものを覚えはしたが、彼女をこのままにしておくわけにも行かず、一瞬悩んだ結果、僕はこの少女を家に連れていくことにした。
なるべく少女を起こさぬよう、腕を花々の下へ潜らせて彼女の肢体を抱きかかえる。持ち上げてみると、当然ながら身体は軽い。子供独特の暖かな体温が僕の腕に伝わり、先程とは対照的に一瞬安心感のようなものを受け取った。少女は抱きかかえられた振動によってか、小さな呻き声を発して少し身をくねらせる。目を開けはしなかったがどうやら落ち着かないらしく、僕の腕の中でもぞもぞと動いたあと、ピタリとその動きを止め、またすぅすぅと寝息を立てた。その愛らしい仕草に思わず頬が緩む。
と、いつまでもこの場で立ち尽くしているわけにも行かず、僕は少女をかかえたまま再び帰路に着く。少女を起こさないようにゆっくりと歩いていたつもりであった。が、どうしても少女の睡眠の妨げになるだろうか、彼女は先程と同じように何度か身体をくねらせ、ついにはゆっくりと目を開いた。
「……ん…」
昼の陽射しが眩しすぎるのであろう、少女ははっきりとは目を開けずに小さくぱちぱちと瞬きをする。その視界に僕の顔がはっきりと捉えられるまでには、数秒の時間を有した。
少女と目が合ったとき、僕は彼女を不安にさせないよう、優しく微笑もうとした。それができていたのかは自分ではわからない。だが少女はしばらく僕の顔を見つめると、暴れるわけでも泣き叫ぶわけでもなく、ただ大人しく僕の腕の中で小さくなるだけであった。