〈女王様はお熱いのがお好きに決まっているわ!〉作戦
10.
九ヶ月後。
クジラの群れが、地球の空を埋め尽くしていた。
放置された車のボンネットに腰掛けているいづむは、手錠を掛けられていた。
それは全て、スサノヲを大幅にスケールダウンさせ、兵装の代わりに居住区と食糧生産プラントと環境循環システムと各種生命維持装置を搭載させた、外宇宙航行用長期居住型移民宇宙船・ナカツクニ級である。全長一〇キロ。製造元はイノベーションだ。
「火星で建造済みの移民船団を惜しげもなく使って、地球市民の三割を回収するだなんて……。思い切った投資をいたしましたわね、あなたの会社」
その手錠に繋がっているカーボンファイバーロープを握っているのは、ココだった。
「ナカツクニ級のヱ式人工無能の最終調整が出来るのはあなただけでしたから、一時保釈して地球までお連れしてさしあげましたけれど、仕事が終わったのですから、すぐに月の刑務所に戻りますわよ。下手なことをされたら困りますもの」
「もうちょいシャバの空気を吸わせておいてくれよ、月の刑務所は居心地悪くてさ」
「よく言いますわね。会社の資金で刑務所全体を綺麗にリフォームなさったのに」
「金は上手く使わなきゃ勿体ないだろ。それと、リフォーム代は俺の懐からだ」
「あらまあ、自己投資は惜しまないタイプでしたのね」
「刑務所の囚人達もそうだが、人間は貴重な資源だからな。ちょっとばかしのコストと管理維持費と給与だけで、よーく働いてくれる。工場だったら二三年で再建出来るが、人間が使い物になるまでは最低でも十八年掛かる。その辺の損得勘定を考えると、移民船団でごっそり引き揚げた方がコストも掛からないし、手っ取り早いんだよ。あと、こうして恩を売っておけば、賃金をちょっとピンハネしてもごたごた文句を言われねぇ」
「では、市民を回収するのに手間取らなかったのも、金をばらまいたからですの? 文字通り、現金なことですわね」
「使えるものはなんでも使うべきだろ、この際。国連宇宙軍が俺とうちの会社をこき使って、市民の回収をさせたように」
いづむは足をぶらぶらさせていたが、ココを見やった。「んで、提督どの。俺のお守りなんかしてる場合か? ハレー・ビートル本隊の迎撃作戦、始まってんだろ? マリアナ海溝の最深部にいるらしい女王を潰すのが先みたいだが」
「わあたくしだってぇ、こんなところであなたみたいな炭素生物を相手にしていたくありませんわよおっ! それにいっ、今の私はスサノヲ様の提督なんかじゃありませんわあっ、新造されたオオクニヌシ級無人艦隊を率いて移民船団を護衛するという任務を任されたんですものおっ!」
「それならさっさと宇宙に出て仕事しろよ」
「仕事はきっちりこなしますわよ! 公私混同は私の流儀に反しますわ! ですけれど、ですけれどっ、妬けるものは仕方ないんですのよー!」
ロープを派手に振り回し、ココは暴れた。そのせいで、ロープに繋がっている手錠は引っ張られ、いづむは車の上から転げ落ちる。
「痛ぇな、殺す気か!」
「ですけどおっ、スサノヲ様とこころちゃんの蜜月を邪魔するべきではないのですわあっ! スサノヲ様の大願が叶ったのですから、それを祝うべきであって呪うべきではありませんのよおっ!」
ロープを握った手をぶるぶると震わせ、ココは泣き出したい気持ちを堪えていた。そのせいで、彼女はひどく熱して陽炎すら立ち上っていた。
――これさえなきゃ、いい女なのに。
「勿体ねぇ」
ココに聞こえない声量でぼやいてから、いづむは胸中の微熱をやり過ごした。
衛星軌道上、国連宇宙軍衛星基地。
その中にある防疫用隔離ブロックの一室にて、こころは待機していた。
あの日、唐突にスサノヲに宇宙に連れ去られたこころは、国連宇宙軍衛星基地に連れ込まれ、体中を検査された後に防疫用隔離ブロックに入れられた。それから、こころはベルガーやその部下達から感情量子の扱い方を教えてもらい、スサノヲの感情量子融合炉に適度な熱量を注ぎ込めるように訓練を重ねた。何事もぶっつけ本番では上手くいかないからだ。
訓練は厳しく、辛かったが、訓練を重ねた分だけ、こころは自分が生み出す膨大な熱を使いこなせるようになっていった。
窓から一望出来る地球から、数十頭のクジラが群れを成して飛んでいく。大きさはスサノヲの百分の一程度だが、数が多いので圧巻だった。
窓にべったりを貼り付いて地球を見つめ、こころは感嘆する。
「わぁ……! スサノヲさんが一杯だぁ!」
制御棒に用いる炭化ホウ素を加工して作ったブレスレットを両手首に填め、余剰分の熱を発散させるための冷却シートをスカーフのように首に巻き、スサノヲが作った耐熱素材のエプロンドレスを着たおかげで、50℃前後で安定している。
「で、えっと、なんでしたっけ?」
こころは窓から離れ、テーブルに付いている老紳士に向き直った。
「プロスト先生」
この九ヶ月間、こころに授業をしてくれたのは彼である。時には授業を中止してこころの話を延々と聞いてくれたり、好きな本を読ませてくれたり、人型ロボットに意識を宿したスサノヲを相手に運動させてくれたりと気を割いてくれた。プロストがいなければ、地球と人類を救うという重圧に押し潰されていたかもしれない。
「いよいよ、ハレー・ビートルの本隊が地球にやってくる時が迫ってきた。宇宙探査機から得た情報を基にして、そのルートを割り出したので報告に来たのだよ」
老紳士、パウエル・プロストは紙パック入りのオレンジジュースを啜ってから、テーブルに展開している立体映像の太陽系星図を操作し、海王星を拡大させた。ハレー彗星の楕円軌道は、海王星を起点に曲がっている。
「ハレー・ビートルの群れは、海王星をスイングバイする際に生じる過負荷をエネルギーに転換し、そのエネルギーで亜空間と通常空間に繋がる穴を開け、ワープしてくるのではないかと予測されている。本来の予定では、ハレー彗星はもっと地球に接近しているはずであり、我々もその時に合わせてハレー・ビートルが地球に襲来するものだと認識していた。だが、宇宙有脳探査機から送られてきたデータを解析した結果、ハレー・ビートルの群れを五億キロも引きずっているからか、ハレー彗星の速度が半減していた。だから、未だに海王星にも到達出来ていないのだろう」
「先生、どうしてハレー・ビートルが海王星からワープしてくるって解ったんですか?」
「良い質問だ。ハレー・ビートルは群体なのであり、量子テレポート通信で全ての個体の意識を単一化させていることが判明している。九ヶ月前の東シナ海での戦闘後にハレー・ビートルの死骸を回収したのだが、辛うじて脳が生き残っている個体の脳を発見した。その脳を検査し尽し、実験し尽した結果、ハレー・ビートルの量子テレポート通信のチャンネルを割り出せた。内容までは理解出来なかったが、その通信がどこへ向かっているのかは解った。それがこの海王星であり、海王星近辺の空間変動のデータを顧みて検証した結果……」
「なにがなんだかわかりませぇん」
頭を抱えたこころは、困惑したせいで少し過熱し、湯気が昇った。
「解らんでもいい。下手に知りすぎれば戦えなくなる」
ちょっとは黙れ、とベルガーはプロストを制してから、好戦的ににやついた。
「作戦は簡単だ、ハレー彗星の軌道上にてハレー・ビートルの群れを迎撃し、一匹残らず排除する。スサノヲに搭載されているワープドライブは完成していたが、動力不足で試運転すらままならなかった。だが、こころがいるからには、どんな装置もフル稼働する。人間の縄張りを犯した罪の大きさを思い知らせてやる、害虫共め」
「ギル爺ちゃん、なんか怖い」
ベルガーの荒っぽい態度にこころが臆すると、プロストは苦笑する。
「ギルベルトは、本来そういう男さ。君を穏やかな子に育てようとしていたから、大人しくしてただけでね」
「へえ、そうなんですか」
こころは両手でマグカップを持ち、まろやかなココアを啜った。「ギル爺ちゃん。この際だから聞いておくけど」
「なんだ、縁起でもない」
「どうして南の島で私を撃とうとしたの?」
こころが目を据わらせると、すかさずスサノヲがベルガーに詰め寄る。
「総司令官ともあろう人間が、俺のこころちゃんになんという狼藉を!」
「一発撃ち込んで脳震盪でも起こしてやれば、こころを大人しくさせられると思ったからだ。至近距離から撃ったところで、傷一つ付かないと解っていたからだ」
「最低」
「最悪だ」
「悪辣だね、ギルベルト」
「なんとでも言え。だが、海王星に旅立つ前にやることがある」
「地球に虫の卵をばらまいている女王を倒すんだね?」
「そうだ。前哨戦だが本戦だ、しっかりやってこい、源提督」
「いえっさー!」
こころは背筋を伸ばして敬礼し、決意を据えた。
こうなったら、やれることをやるしかない。
一時間後。
アマツカミ級無尽戦艦スサノヲのブリッジ。
『十二億六千万人の地球現住市民の回収及び避難、完了! オオクニヌシ級無人艦隊による護衛を受けながら、火星と月へ移民船団が航行中! 残留した市民のシェルターへの収容、及び内陸への移動、完了!』
『マリアナ海溝の最深部に主砲が直撃した衝撃によって発生する地震の予測震度、マグニチュード13! 津波の高さ、一〇〇メートル超!』
『有脳海底探査機により、マリアナ海溝最深部に高熱源体を確認! 熱探知と超音波による測定により、全長一〇〇〇キロと推定! 小型の高熱源体はハレー・ビートルの成虫であると推測! その数、十万超!』
『現時刻より、高熱源体をハレー・クイーンと呼称!』
『アマツカミ級無尽戦艦スサノヲ、第一感情量子融合炉、臨界点! 第二、第三、第四、第五、第六、第七、第八、第十、第十一、第十二、第十三、第十四、第十五、第十六、第十八、第十七、第十九、第二十、第二十一、第二十二、第二十三、第二十四、第二十五、第二十六、第二十七、第二十八、第二十九、第三十、並びに第百二十八感情融合炉まで臨界点に到達! シミュレーションでの所要時間の三分の二、いえ、三分の一です!』
『対宙広域メーザー砲、全門使用可能!』『プラズマ魚雷、全門使用可能!』『子機関砲、全門使用可能!』『対宙空間断裂弾、全弾装填完了!』『無尽艦載機、全機出撃可能!』『フレキシブルプラント、全ラインがフル稼働!』『超絶長距離荷電粒子砲、全門使用可能!』『その他の兵装、全て使用可能!』
ブリッジの四方八方から飛んでくる言葉の嵐に、こころは気圧された。
スサノヲがとんでもないモノだとは理解したつもりではいたが、まさかここまでの代物だったとは。だが、これは訓練ではない。本番だ。
「怖いか」
こころに寄り添った人型ロボット姿のスサノヲは、こころの肩に手を回した。
「そりゃ、怖いよ。だって、本当の戦いなんだから」
肩に触れるスサノヲの手の大きさにどぎまぎし、こころは目を逸らす。
「俺もだ。地球へ砲撃することになるとは想定外だった。いや……想定してはいたのだが、俺の量子コンピューターはその結論を拒んでいた。少しでも加減を誤れば、俺の雄々しく逞しく勇ましい主砲が地球を貫いてしまいかねないからだ。かといって、半端に出力を弱めてしまえば、ハレー・クイーンを滅ぼせない。故に、俺は怯えている」
「スサノヲさんは機械なのに?」
「機械であるが故にだ。俺は俺自身の正しさを信じているが、俺を扱う人間が正しくなければ、その正しさは根底から間違ってしまうからだ。だが、俺はそれが間違っていると判断したとしても、その命令にあらがう術がない。だから、俺は信じるしかない。俺と、俺を運用している人間を」
「うん」
体の芯が、ずくんと疼く。
十二分後。
〈女王様はお熱いのがお好きに決まっているわ!〉作戦、開始。ちなみに、今回のものを含めた全ての作戦名を考えたのは、ギルベルト・ベルガー総司令官である。
こころは、スサノヲの機関部の中心である感情量子融合炉の炉心に入っていた。この中であれば、こころがどれほど過熱しようともスサノヲが余さずに吸収し、艦体を動かす動力へと変換してくれる。だから、自分の熱を恐れることはない。
通常の耐熱素材で作られた服では溶けてしまうので、スサノヲがフレキシブルプラントで分子から構成して造り上げた超耐熱素材の服を与えられて身に着けた。
「これって、要するに水着だよね? 訓練の時は普通の迷彩服だったのになぁ」
こころが着ているのは、シンプルな紺色のワンピース型の水着、つまりスクール水着と全く同じ形状の超耐熱服だった。生地が少なくて心許ない。
『ふへひひひ、よく似合うぞ、似合いすぎるぞ、こころちゃん!』
「水着なんか着たの初めてだよ。なんか落ち着かないなー」
スサノヲの褒め方は気色悪かったが、褒められると悪い気はしない。
「スサノヲさん、行くよ!」
『俺は既に準備万端だ、いつでもイケるぞ!』
「よおし!」
スサノヲの声の力強さで不安を払拭したこころは、凹凸が控えめな胸の中央に触れ、制御棒を抜き出す。
「ん……ぁっ」
痛くはないが、少し抜いただけで熱さが何倍にも増幅する。
しゃ、りぃんっ!
勢いに任せて制御棒を引き抜き、こころは仰け反った。
「ふぅ、は、ああっ……」
一瞬、全身に汗が浮いたが、すぐさま蒸発する。
感情量子による熱さとは違う火照りが、頭をぼんやりさせる。背骨を伝った痺れが下半身に宿り、反らした胸の中で心臓が暴れ狂う。
『こころちゃん、異常はないか?』
「ないけどぉ」
『けど?』
「恥ずかしぃい」
自分のものとは思えない、鼻に掛かった甘ったるい声が出てしまった。赤面したこころは顔を覆い、背を丸めた。制御棒を抜いたからか、感情の振れ幅が大きくなっている。
その羞恥心が、スサノヲの機関部をフル稼働させた。
同時刻。マリアナ海溝上空。
アマツカミ級無尽戦艦スサノヲの脇腹のリニアカタパルトから射出された、シュモクザメ型駆逐艦、一二〇艦が太平洋へと迫っていく。
大気圏に再突入してマリアナ海溝に砲撃を行い、海を泡立てる。シュモクザメ型駆逐艦から吐き出された、二〇〇〇機にも及ぶトビウオ型雷撃機が急降下しながら扇状の陣形で展開し、絨毯爆撃を放つ。
不意に海が割れ、海中から発射された赤色光線が魚群を円形になぞった。
全機、撃墜及び轟沈される。
『恥ずかしいのかっ、俺の中だから恥ずかしいのかっ?』
「それもあるけど、そうなんだけど、体が熱すぎて変なんだよぉ」
『どうした、俺によく見せてくれたまえ。じっくりと!』
「あっ、やだあっ、どこ見てんの!」
『俺がどこから見ているのか解るというのか? さすがはこころちゃんだ、炉心に内蔵した監視カメラは百はあるというのに! どのカメラに俺の意識が集中しているのか感じられるのか? さすがは俺のこころちゃん!』
「馬鹿っ!」
『ああっ、制御棒で俺の目を! あっ、でも痛気持ちいいかも!』
第二陣。
エイ型潜水艦、五〇艦がパラオ沿岸より着水、マリアナ海溝へと接近。
同時に、ミノカサゴ型機雷敷設艦、六〇艦がミクロネシア側に着水、マリアナ海溝へと接近。海中に潜伏していたハレー・ビートルの成虫の群れと交戦、半数以上が大破。残存戦力も被害甚大。
エイ型潜水艦、マリアナ海溝へ到達を果たしたのは五〇艦中七艦。いずれも被害は甚大。海溝へ突入する寸前、潜伏していた兵隊級成虫の大隊により、残存艦全てが轟沈される。
「スサノヲさんのこと、格好いいかなーって思った傍からそれなんだもん。台無しだよ」
『くあっ、かっ、かかか格好いいいいいい!?』
「だぁから、そこまで強調しなくてもいいんだって」
『もう一度、もう一度言ってくれ、こころちゃん!』
「えー、やだ」
『ぬわぁぜぇだあっ!』
「どうせ録音しているんでしょ」
『なぜ解った』
「今までが今までだもん」
『それのどこが悪いのだ!』
「開き直らないでよー、もう」
第三陣。
ロブスター型装甲艦、三〇〇艦が小笠原諸島側に着水、マリアナ海溝へと潜航。兵隊級成虫の大隊と接触、接近戦を開始。
ロブスター型装甲艦、半数以上が爆砕。と、同時に艦内に搭載していたウミヘビ型高速移動魚雷を多数射出。兵隊級成虫の外骨格の関節を狙って攻撃した結果、兵隊級成虫の大隊の半数以上を撃破する。
ロブスター型装甲艦、全三〇〇艦中五一艦がマリアナ海溝への突入を果たす。そこで、労働級成虫の群れと接触。全艦、轟沈される。
撃沈される寸前に射出したウミヘビ型高速移動魚雷、三発がマリアナ海溝内部に着弾。
労働級成虫の大隊が出撃。総個体数、推定七〇〇体。
「ねぇ、スサノヲさん」
『なんだ、俺は今忙しいのだ。艦載機が次々に撃沈してしまってな』
「私なんか見ていて、楽しい?」
『楽しいなどという価値観を超越している。最早、俺の本能だ』
「私が反応するとぎゃーぎゃー言うのは、嬉しいからだよね」
『なぜ解る』
「なんとなく。で、さ」
『今度はなんだ』
「今更ながら聞くけど、あの割り箸、ちゃんと捨てたよね?」
『……それは最重要機密だ』
「うっわ最悪! 最低! キモい!」
『ふへはははははは! あれは人類の歴史に名を刻む割り箸なのだ!』
「燃やしてくれないと、学園祭でフォークダンスを踊ってあげないから」
『えっ』
「なあに、嫌なの? フォークダンスを踊りたくないの?」
『了解した。焼却炉に投棄し、灰燼に帰した後に廃棄すると誓おう』
「それでよし」
『ふふふふ。そんな強気なこころちゃんも素敵だ』
第四陣。
ウミヘビ型高速移動魚雷に内蔵されていたマーカーが、マリアナ海溝内部に吸着。労働級成虫の一匹に吸着。マリアナ海溝内部に形成された卵群に吸着。スサノヲ、マーカーより発進された誘導信号を受信。受信と同時に、ハリセンボン型砲艦三五〇艦を発進させる。
プラズマ魚雷による弾幕を張り、牽制した後、重粒子機関砲を一斉掃射。
労働級成虫の大隊、卵群、半数以上を撃破
マリアナ海溝内部へ着弾と同時に、マグニチュード9相当の地震が発生。
高熱源体、海底より上昇。ハレー・クイーンの出現を確認。
同時にハレー・クイーンの体内で荷電粒子が発生。
十三秒後、ハレー・クイーンは海中を脱し、荷電粒子砲で対空砲撃を行う。
アマツカミ級無尽戦艦スサノヲ、底部に被弾。
「今の揺れ、何?」
『重粒子機関砲が五〇は潰れたが、なあに、どうということはない』
「撃たれたってこと? 痛くない?」
『痛みなど感じない。むしろ、そんなものを感じるだけ演算能力と動力の無駄なのだ! そうっ、今、俺はこころちゃんに集中しているからだ!』
「無茶しないでね、って言っても無理か。今は無茶する時だもんね」
『ぬへはははははははっ、海上に引きずり出してしまえばこっちのものだ! 害虫の親玉め、俺とこころちゃんの初めての共同作業に貫かれることを光栄に思うがいい! そして、愛の熱量に屈服するがいい!』
「あ、そっか。今気付いた」
『今度はまたどうしたのだ、俺の愛の天使よ』
「スサノヲさんが変な言い回しをするのって、照れ隠しなんだ」
『うっ!?』
「ふふふ」
スサノヲ、荷電粒子砲、エネルギー充填、昇順セット、完了。
目標、ハレー・クイーン。
荷電粒子砲、全五〇門を展開。
ハレー・クイーン、追撃用意。荷電粒子、増大。
両者、一斉掃射。
海面の大爆発、及び一〇〇メートル級の津波の発生、及びマグニチュード13に達する地震の発生、及び労働級成虫の蒸発、及び卵群の蒸発、及び兵隊級成虫の蒸発、及び蛹群の蒸発を確認。
衝撃波は地球を一周した後、着弾地点に到達。
ハレー・クイーンの撃破を確認。
作戦終了。
「――終わったんだよね?」
『国連宇宙軍衛星基地から、戦闘状況終了との通達が届いている』
「気が抜けてきたら、お腹空いちゃった」
『ならば、俺のフレキシブルプラントで!』
「いいよ。材料をもらって、自分で作るから。ふわふわのパンケーキ」
『ちょっと分けてくれたりしちゃったりしてくれないのか、こころちゃん!?』
「少しだけね」
『うおっしゃあああああああ!』
「でも、スサノヲさんって機械でしょ? 食べ物を食べられるの?」
『そんなものは俺の気合と根性でどうにでもなるのだ、ふははははははははは!』




