表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

さようなら、ありがとう

作者: 日之出 箒

「……思えばもう一年か」


 秋。 紅葉や銀杏が鮮やかに彩られる街道を、一人の青年が歩く。


 無意識に左手で何かを掴もうとするが、空を切る。 変わりに掴んだのは、舞い落ちた紅葉。


「……いなかったらいなかったで、寂しいな」


 いつも口うるさく彼に何かを指摘し、隣にいた人物。

 鬱陶しかったけど、それが愛しくて……


「ここを曲がれば……」


 曲がり角。 そこを彼は、後悔を表情に表しながら曲がる。


 ちょうど一年前、一人の少女が死亡した。

 死因は交通事故。 トラックの運転手が居眠りをしていたのが原因。 すぐさま病院へ運ばれたが、結局、意識が戻ることは無かった。


「……はは、後悔何てしないって約束したんだけどな。 ごめん、やっぱり無理だ」


 確かに原因は居眠り運転。

 だが、もし自分が走り出した少女を止めてれば、街道を散歩しようなんて言わなければ。

 今頃、少女は彼の隣で、何かを指摘していたかもしれない。


「……よく考えたら、お前の約束殆ど破ってるよな。 合わせる顔がねーよ」


 まるで自分の死を予知していたのかのような遺書。 そこに書かれた約束。 当時は破らないと約束したが、結局は無理で。


「何が〝幸せになって〟だよ。 俺の幸せは、お前が隣にいることなんだよ……

 何が〝後悔しないで〟だよ。 そんなの、無理に決まってるだろーが……」


 景色が歪む。 目頭が熱くなる。


「そうやって無理難題押し付けてさ、きっと向こうでは泣いてる俺を笑ってんだろうな」


 思わず空を見上げる。 脳裏に、自分をバカにする少女が浮かんで来た。

 

「まあ、でも……」


 笑う。 無理矢理でも、せめてこの言葉は笑って伝えたかった。


「さようなら、そしてありがとう」

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ