さようなら、ありがとう
「……思えばもう一年か」
秋。 紅葉や銀杏が鮮やかに彩られる街道を、一人の青年が歩く。
無意識に左手で何かを掴もうとするが、空を切る。 変わりに掴んだのは、舞い落ちた紅葉。
「……いなかったらいなかったで、寂しいな」
いつも口うるさく彼に何かを指摘し、隣にいた人物。
鬱陶しかったけど、それが愛しくて……
「ここを曲がれば……」
曲がり角。 そこを彼は、後悔を表情に表しながら曲がる。
ちょうど一年前、一人の少女が死亡した。
死因は交通事故。 トラックの運転手が居眠りをしていたのが原因。 すぐさま病院へ運ばれたが、結局、意識が戻ることは無かった。
「……はは、後悔何てしないって約束したんだけどな。 ごめん、やっぱり無理だ」
確かに原因は居眠り運転。
だが、もし自分が走り出した少女を止めてれば、街道を散歩しようなんて言わなければ。
今頃、少女は彼の隣で、何かを指摘していたかもしれない。
「……よく考えたら、お前の約束殆ど破ってるよな。 合わせる顔がねーよ」
まるで自分の死を予知していたのかのような遺書。 そこに書かれた約束。 当時は破らないと約束したが、結局は無理で。
「何が〝幸せになって〟だよ。 俺の幸せは、お前が隣にいることなんだよ……
何が〝後悔しないで〟だよ。 そんなの、無理に決まってるだろーが……」
景色が歪む。 目頭が熱くなる。
「そうやって無理難題押し付けてさ、きっと向こうでは泣いてる俺を笑ってんだろうな」
思わず空を見上げる。 脳裏に、自分をバカにする少女が浮かんで来た。
「まあ、でも……」
笑う。 無理矢理でも、せめてこの言葉は笑って伝えたかった。
「さようなら、そしてありがとう」