未来新聞
「あなた、また。そんなものを買って」
「そんなものとは何だ」
「そんなものですよ」
「むう。心当たりが多過ぎて、何の話か本当に分からないんだ」
「もう、その今手元にあるやつですよ」
「これか? これは未来のことが書いてある新聞だ」
「何ですか未来のことが書いてある新聞なんて。うさんくさいったらありゃしませんわ」
「はは。まあ、そう言うな。新聞なんて、どのみち似たようなことは書いてあるだろ?」
「そうですか?」
「そうだよ。取材に基づいた報道から今後の展開を予想したり、えらそうに社説やなんかで未来を語ったりしてるじゃないか」
「それは予測や、意見でしょ?」
「その予測や意見が当てになったことがあるか? 未来のことを書いてある新聞と変わらないよ。新聞なんて本当に当てにならない」
「だからって、開き直って未来のことを書いてある新聞なんて、買う必要なんてあったんですか?」
「いやいや。俺だって当たるとは思ってないさ。ちょっと話題になっていたからな、冗談半分に買ってみただけだ」
「それで、どんな内容なんですか?」
「それがな。いついつ議会が解散するだとか。今度地震がくるだとか。明日にも戦争が起こるとか」
「当たるんですの?」
「丁度今読んでいるのは、昨日の新聞なんだがな。今日のことが当たってるかと思ってな。だがこれがまた、ことごとく外してるな」
「ほらやっぱり」
「例えば今日は雨だって書いてあるんだがな、ものの見事に朝から晴れたしな」
「天気予報すら当たりませんの? 普通の新聞以下じゃないですか?」
「確かにそうだな」
「他には?」
「火山の噴火。流氷の到来。有名人の離婚。どれも今時点では当たってないな」
「まったく、どれ一つ当たらない怪しげな新聞にお金を使って」
「はは。だが一つ確実に当たることが、昨日の新聞には書いてあったぞ」
「何ですの?」
「明日で廃刊します――だとよ」