愛の言葉は定期的にお願いします。
この国で魔法を使える人はほぼいない中で、あり得ない量の魔力を持って生まれたマイノール辺境伯家の長女アルマリンです。
理由は
母が魔法をあたりまえに使う国の王女だったから。
その母はもう亡くなっている。
どうしようもなく男癖の悪い人。
最初は辺境伯家の嫡男と結婚したけど、妊娠中に嫡男と嫡男の母が馬車の事故で亡くなった。
その数日後に母は、私の異父兄になる男の子を生んだ。
次の結婚は、繰り上がって辺境伯当主を任される事になった次男との再婚だった。普通なら私が2人の間に生まれた子供って思うでしょうが、違う。
次男と母に閨の関係はなかった。母は何度も誘ったが、次男は兄が抱いていた女性にどうしても気分が上がらず、断っていたらしい。
では私は誰が父親か?
正解は、前当主のお祖父様。
ちょっと気持ち悪い。
母は近くにいる男なら誰でもいいのかもしれない。
私はお祖父様の娘ではなく、次男の娘として育った。
その他にもやらかしていた母は家から逃げだしたが、逃げた先でも懲りずに、またも子供を作った。
今度のお相手はなんと王太子殿下。
しかも王太子殿下も結婚していて、すでに3人の息子がいる。
前代未聞の大騒動となった。
皆に処分を望まれていた異父弟だったが、王族初の魔力持ちを処分するのはもったいないと、生かされることになり、第4王子として王宮で暮らすことになった。
母のやらかしによって、静かに生きていくのが困難でゴタゴタな環境でも、私も異父兄も異父弟もそれぞれ頑張って生きていた。
私には、隣国出身で魔法が使えるフェルナンドという名の婚約者がいる。
彼も隣国で母に洗脳され、振り回された人。
洗脳が解けたなら、ムリして私との婚約を続ける必要はないと思っていたが、なぜか私にめちゃくちゃ執着している。
いつも、お前の婚約者は俺だからな? と確認のように言ってくる。
あの母の血が流れてるから心配なのかな?
異父弟が魔法の勉強、第3王子殿下は剣の修行に辺境伯へ送られてきた時も、めちゃくちゃ2人を威嚇していた。
え、片方は弟ですが?
魔法はこの領でしか教える事が出来ないし、弟だからここに来るのは理解できるけど、第3王子殿下までここに来たのは謎でしかない。西の辺境伯や、王宮には近衛騎士団があるのだから、そちらで剣を教えてもらえばいいのに。
母の事があり、嫌がらせの手紙や、見るのも怖い工夫を凝らした贈り物が定期的に王宮から届き、本当に迷惑しているのだ。できれば王族とは関わりたくない。
弟は、第1王子殿下と第2王子殿下は王族らしい人達だが、1度も話をしたことがないと言った。父親とは少し交流はあるが、母親になった王太子妃殿下には、母と呼ぶ事は禁じられている。そんな中で第3王子殿下だけが普通に接してくれたと言われてしまっては、追い出すことはできなかった。
この第3王子殿下は、普段は話し方も態度も王族らしくないが、時間になると辺境伯騎士団の皆とマジメに訓練に励んでいた。
そして訓練が終わると、チャラ男に戻る。
オンオフがとてもはっきりしている人だった。
第3王子殿下に
「成人したのに、大人げないあんなのより僕と婚約しない?」
腹黒で、チャラ男で、何が嘘で何が本当か分からない人よりは、フェルの方がとーってもわかりやすく、私には合っているとお断りした。
ちゃんと断ったと言ってもフェルは
「何度も聞いたからわかってる。だが、アイツがお前を見る目はあやしい。お前は俺の婚約者なのに」
前からスキンシップは多い方だったけど、より私に執着して、ぴたりとくっつくようになった。
そんな風に過ごしながら、月日が過ぎて行き、今日は学園の卒業式だった。学力の方は可もなく不可もなく、並。
卒業パーティーの時間になり、フェルが来るまで会場の隅でこの3年間を振り返ってみる。
学園ではひとつ上に第2王子殿下がいて、異父弟のことは王宮で徹底的に避けていたくせに、私のことはしつこく追いかけまわしてきた。
婚約者がいると伝えても、第2王子にそれでも好きだと言われた時の感想は「キモっ」
フェルにキモさは感じない。
第2王子に婚約者がいなくて本当に良かった。ただでさえ学園での居心地が最悪なのに、婚約者やその取り巻きまで相手にするのは、絶対に耐えられないと限界を感じていた。
(イラッとして魔法をぶっ放して発散してたかも)
フェルがいてくれたら絶対に追い払ってくれたのに。
弟と腹黒王子がひとつ下の学年で入学してからは、お昼を一緒に食べる事もあった。でも周囲が騒ぐから、だんだんと遠慮して離れるようになったのに、2人が面白がって、私を探して一緒に食べようと追いかけてくるのは面倒だった。
「フェル、助けてぇー」と、心の中で叫んでいた。
完全に諦めていたのに、お友達が1人だけできた。伯爵家のジュリエット。彼女の婚約者が騎士科にいて、大ケガをした時に魔法を使って治したことがきっかけで話をするようになった。国中に知れ渡っている母の件があるのに、私自身を見て友達になってくれた事が、とにかく嬉しかった。
フェルに自慢したい。
騎士科はケガをする人が多い。定期的に顔を出しては、ひっそり、こっそりと治療していた。
フェルがいたら、もっと迅速に!って言われそうだけど。
騎士科の男子は人気があり、見学する女子生徒も多い。
ある日突然1人のご令嬢が、
「皆さん、聞いて下さい。私、聖女の力に目覚めましたわ! 皆さんをケガから守ります! 」
胸の前で手を組み、目を少し潤ませながら言い出した時は驚いた。この手のタイプのご令嬢には関わらないに越したことはないので、全力で避けた。第2王子殿下よりも避けるのは簡単だった。
そのご令嬢は今、キョロキョロしながらダンスの相手を探してふらりふらりとしている。
フェルに興味を持ったらイヤだな。
ん? あれれ?
私、フェルの事ばかり考えてない?
学園生活を振り返っていたのでは?
これってもしかして私はフェルが好きってこと?
あの激重感情を持つフェルに?
魔法の使い方には厳しいフェルに?
最近は際どいところを触ろうとする変態フェルに?
うーむ、でもそれしかないよね。
フェルが他の女性と仲良くしていたらイヤ。
あの自称聖女を名乗るご令嬢の手をとったら絶対にイヤ。
フェルが後ろから抱きしめてくれるのが好き。
頭を乗せてくるのは重いけど。
フェルが私を膝に乗せてくれるのが好き。
フェルが私に膝枕を要求してきて、頭なでてって言ってくるのが可愛い。本当に寝ちゃうのも可愛い。
もしフェルが際どいところだけでは満足できずに、私の全てを求めてきたら?
きっと私は覚悟を決めて受け入れる。
うん、自覚した。
私はフェルが大好き。
ん?
でもフェルに好きって言われた事はある? ないよね?
婚約者だとは言われ続けたけど。
「すまん、待たせた」
正装姿のフェルは初めて見たかも。カッコいい。
「俺の色を纏うのはいいな」
ドレス姿の私を上から下まで見てから、満足げな顔をして腰に手を回してくるフェル。
「ん? どうした? 気分悪いのか? 目が潤んでるぞ。熱か?」
何だか言葉が出てこない。
フェルもすごくカッコいいよって言いたいのに。
ドレスありがとうって言いたいのに。
ダンスしようって言いたいのに。
「とりあえず冷たい飲み物でももらってくるわ。ここで待ってろ。動くなよ?」
飲み物を持って戻っくるフェルに、あのご令嬢が話しかけた。フェルも足を止めてご令嬢を見ている。
何を話してるかは聞こえない。けど、見てるのもイヤ。
2人に背を向け歩き出す。会場から出て、誰もいないことを確認してから座りこむ。
はぁー、私はこんなにへたれだったの? やきもち焼きだったの? 涙が溢れそうになる。
「もしかしてアルマリン?」
腹黒王子が、木から飛び降りてきた。
何でそんなところにいたのよ! 貴方は王族の自覚はあるの?
「もしかして泣いてる?」
「泣いてない」
「あはっ」
「何よ」
「乙女の顔してるね。 あーあ、とうとう自覚しちゃった?」
ぶわっと涙が溢れてくる。
「あはっ。素直だね。それが僕に対してだったら良かったのになぁ。残念」
私の前に同じように座りこんで、私の涙を親指で拭う腹黒王子。
「ちなみに誰に嫉妬したの?」
「・・・・・自称聖女様」
「ぶはっ。 おもしろすぎでしょ」
「おい、お前ら何をしている? 近すぎる、今すぐ離れろ」
恐ろしいほどに低い声のフェルがこちらに向かってきている。
「ねぇ、ホントにアレでいいの?」
フェルに聞こえないように小声で問いかけてくる腹黒王子。
私はへにょりと眉を下げて、
「自分でも不思議だけどアレじゃないとダメみたい」
「ぶはっ!」
「ふふ」
「後で1曲踊ろうね」
「ええ。 ありがとう腹黒おうっーぶっ」
最後まで言わせてもらえず、フェルの手で口を塞がれた。
「動くなって言ったよな? 俺以外と踊らせると思ってんの?あいつに何を言われた? なぜ泣いてる? お前は俺の婚約者だろ?」
あー、めっちゃ機嫌が悪いフェル。ちなみに私の機嫌もあまり良くはない。
「そう! それよそれ! 婚約者!」
「はぁ?」
「婚約者って、ずーっと言われ続けてきた」
「何が言いたい? 婚約解消でもしたいのか?」
「ちがーう」
「ならなんだよ」
私は息をすーはーして呼吸を整えてから一気に話した。
「私ね、さっきフェルの事が大好きって自覚したの。身も心も捧げてもかまわないって思った。 でもね、貴方から好きとか、愛してるとか1度も言われた事がないから、私ーーーっ」
またも遮られてフェルに抱きしめられた。
あ、いつも後ろからだったから前からは初めてかも。
何これ、いつもよりすごくドキドキする。
「婚約してからずっとお前だけを愛してる」
今のフェルはどんな顔をしているのかな? 気になるけど、私の顔を見られるのも恥ずかしいからこれでいいのかも。
自然と私の腕が伸びてフェルの背中にまわす。
「ふふ、嬉しい。照れる。 私もだいすき」
フェルが更にぎゅっと抱きしめながら
「ずっとお前が気持ちを言ってくれるのを待ってた。まさか俺もお前に伝えてなかったなんてな。マヌケだった。 すまん」
「ふふ、それもさっき気がついた。 俺の婚約者ってのはいつも言われてたけどね。これからは定期的に愛のお言葉をお願いします。 これもさっき気がついたけど、私は意外とやきもち焼きみたいだから」
「っ、あんまり可愛いこと言うなよ。ガマンできなくなる」
「今日はキスまでならーーーっ」
んもう、今日はぜーんぶ最後まで言わせてもらえない!
でもどんな貴方も大好きよ、フェル。




