1 自由な生活
ある晴れた日、トラルセン王国郊外にある屋敷にて、アンナは自室のソファに座って難しい顔をしていた。
「いかがなさいましたか、アンナ様?」
そばに控えていた専属メイドのエリスが尋ねる。朝食を終えたあとの一時であり、他の使用人達は屋敷の掃除や庭の手入れ、昼食の準備などをしていた。
気難しい顔を和らげないまま、至って真面目で真剣な声でアンナは答えた。
「暇だわ」
「…………」
予期していなかった返答に、エリスはどのように相槌を打てばよいか分からなかった。とりあえず、無難な提案をする。
「読書や編み物などをしてはいかがでしょうか?」
「エイバー王宮にいた時みたいに?」
「ええ、まあ……」
エリスは言葉尻を濁してしまう。エイバー王宮にいた時のことはアンナにとって苦い記憶のはずなので、あまり思い出して気に病んでほしくないからだ。
しかし当のアンナ自身は、すでに当時のことは吹っ切れているように言葉を続けた。
「この屋敷にある本はあらかた読んじゃったし、編み物だって、いまは暖かい季節だからあんまり乗り気がしないのよね」
「左様でしたか。でしたら、私が新しい本を買ってきましょうか?」
ぐりんという擬音が聞こえそうなくらいに、アンナがエリスへと振り返った。ソファの背に両手を置いて言う。
「それっ、それがいけないと思うのよ」
「……と、申しますと?」
「いままではベアトリスに感付かれないようにひっそりと暮らしてきたし、買い物とかもエリス達に任せていたけど。ベアトリスの脅威がなくなった以上、これからは私も外に出て買い物したいじゃない? ずっと屋敷にいて息も詰まってきそうだし」
「それは……そうかもしれませんが……」
はっきりと顔に出したわけではないが、エリスはアンナの言葉に難色を示していた。万が一、アンナが生きていることがトラルセン王国の民に知られて、面倒なことになるのを危惧しているのだ。
アンナが安心させるように言う。
「私のことがバレるかもって思ってるのなら大丈夫よ、変装だってするし、あんまり目立たないように振る舞うから」
「それは私も承知していますが……」
「大丈夫大丈夫。じゃあ行くわよー。何着ていこっかなー」
まるで童心に返ったようにアンナはクローゼットへと向かう。アパートの一部屋や二部屋くらいありそうなクローゼットで服を選ぶアンナを見て、やれやれと思いながらエリスも近寄っていった。
「あまり派手な服はいけませんよ」
「分かってるって」
久しぶりの自由な生活と外出なのだ、アンナの心は自然と嬉しさに満ちていた。
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