7 処刑
「色々と大変だったわよねぇ……」
エイバー王宮の部屋に本当に四六時中引きこもり、顔色を悟られないようにカーテンすら閉めきって、葬式をおこなうときもアンナによく似た精巧な偽物を用意したり……。エドワードやエリスなどトラルセン王国の味方が協力してくれたが、かなり大変だった、特に精神的に。
もしも失敗し、実は元気なことや生きていることが知られれば、再び命を狙われることになるのだから。それこそ強盗殺人やテロ行為を装った強行手段をしてくる危険性が高まることになりかねないのだから。
そばでアンナのつぶやきを聞いていたエリスが応じる。
「しかしアンナ様がご無事で何よりです。これでエイバー王宮から出ることが出来たのですから」
「まあねぇ」
相槌を打ちながら、アンナは朝食を再開する。エリスが続けて尋ねた。
「一応お尋ねしますが……ベアトリスの処刑は見に行くのでしょうか?」
「まさか。私は公には死んだ身よ、街を出歩くには変装したり偽名を使ったりするのに、わざわざ見に行ったりはしないわ。グロテスクを喜ぶ悪趣味もないし」
「そうですか」
エリスは安堵したようだった。他の使用人達もほっと小さな息をついていた。
そうして平穏を取り戻した日常を、アンナは今日も過ごすのだった。
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某月某日、エイバー王国、大勢の民衆が見上げる断頭台の壇上にベアトリスの姿があった。ベアトリスは粗末な服を着ていて、手錠で後ろ手に拘束されていた。
彼女の両隣には看守兼執行人の男達がいて、何の感情も浮かんでいない顔で淡々と与えられた仕事をこなしていた。毎日のように囚人と向き合い、この世の底辺のゴミのような光景を目の当たりにしているのだ。一々感情を大きく発露させていては、看守達のほうが精神をやられてしまうだろう。
「さあそこのギロチンの下に跪いて首を台に置け。一瞬で終わりになる」
看守がベアトリスに言ったが、彼女は動こうとしない。太陽光をギラリと反射するギロチンの刃が彼女を見下ろし、看守が訝しげに眉を少し動かし、民衆が固唾を飲んで壇上を見上げ続けている。
そんななか、ベアトリスが高らかな笑い声を周囲に響き渡らせた。
「アハハハハハハハハ!」
仰け反るように顔を天上の太陽へと向ける。まるで神を馬鹿にするように、この世界のすべてを嘲笑うように、ベアトリスは言った。
「私の名はベアトリス=バルトリス! 由緒あるバルトリス公爵家の娘にして、エイバー王国の次期王妃となる者!」
ベアトリスの顔が民衆に向けられる。呆気に取られる彼らを見下ろすその顔は、侮蔑と嘲笑に歪んでいた。
「金を!権力を!世界の全てを手に入れることの何が悪い! 私は私の為に全力を注いだだけ! 騙される奴らが!無惨にも殺される奴らが悪い! 私は決して!絶対に!断じて悪くなどない! 私こそがこの世の女王に相応しい!」
看守達がとっさに動いてベアトリスの身体を取り押さえる。彼女を力尽くで無理矢理にギロチンの下に押さえ付ける。
ベアトリスは叫び続けた。
「ベアトリス=バルトリスの名を永遠に覚えていろ! 私を失ったことを永久に後悔しろ! お前達愚民共に待っているのは女王を亡くした破滅の未来だけだ!」
ギロチンの刃が下ろされた。女の首が飛ぶ。その顔に苦悶や後悔の表情は一切なく、世界の全てを呪うような鬼気迫る形相があった。
皮肉なことに、ベアトリスのこの最期の口上と末路は人々の脳裏に焼き付けられ、その後、エイバー王国を乗っ取ろうとした最悪の王太子側妃として歴史に刻まれることになったのだった。
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