5 死の偽装
数日後の朝。トラルセン王国の外れにある、なだらかな丘陵地帯に建てられている屋敷にて。
カーテンの隙間から朝日が差す部屋のなか、ベッドに眠る女性がうっすらと目を開ける。上体を起こして、寝ぼけ眼を擦りながらベッドから出て、カーテンを開いて朝の光を一身に浴びていく。
「うーん……今日も良い天気ねぇ」
朝日に負けないくらい眩しい笑顔をこぼすその女性は、エイバー王国の王宮で非業の死を遂げたはずのアンナだった。
彼女は自らの死を偽装し、このトラルセン王家の別荘に避難していたのだった。
部屋のドアがノックされた。
「エリスです」
「どうぞ」
ドアが開き、メイド姿の若い女性が姿を見せる。彼女はアンナに一礼しながら。
「おはようございます、アンナ様」
「おはよう、エリス。朝ご飯は?」
「既に用意してあります」
「じゃあ食べましょうか。あ、その前に身支度を整えなくちゃね」
「はい。お手伝い致します」
「いつものことだけど、ありがと」
「もったいないお言葉です」
「相変わらずお堅いわねぇ」
アンナは寝間着から部屋着へと着替えて、それから洗面所で顔を洗い歯を磨いていく。
「歯磨きしたあとにご飯食べたら、また歯磨きしなくちゃいけないんじゃないのかなって、いつも思うのよね。二度手間だと思わない?」
「エチケットですので」
「そうはいってもねぇ」
廊下を歩きながらそんなことを話し、ダイニングに到着すると、アンナはテーブルの前に座る。料理はすでに並べられていて、温かな湯気を立ち上らせていた。
「相変わらず準備がいいわよね。私が来るタイミングに合わせて置いといてくれるなんて」
「いつもやっていることですので」
「なんか疲れそうよね、ずっと気を張ってるみたいで。たまには緩めてもいいのよ」
「ご心配は無用です。休日はしっかりリラックスさせていただいていますから」
「そう? ならいいけど」
アンナは料理の前で手を合わせた。
「それじゃあ、いただきます」
フォークとナイフを動かして朝食を口に運んでいく。室内にはエリスの他にも数人の執事やメイドが控えていた。その一人の白髪の執事がアンナに伝える。
「アンナ様、今朝、トラルセン王宮のエドワード殿から知らせがありました。エイバー王国のイワン王子の側室のベアトリスの刑罰が決定したようです」
「…………」
アンナは手を止めた。視線を皿に落としたまま、その執事の言葉の続きを待っていた。
「ベアトリスはアンナ様の暗殺を企てていた以外にも、数々の悪事を裏でおこなっていたようです。エドワード殿はそれらを暴き、ベアトリスの処刑が一週間後に執行されることになりました。断頭台による斬首刑です」
「…………、……そう。イワンは?」
「イワン王子は、エイバー王国の外れにある屋敷の地下に幽閉されるようです。王位継承権は次男のシャルル王子に移されることになりました」
「…………。分かりました。報告、ありがと」
執事が下がり、テーブルそばの所定の位置に戻っていく。アンナは独り言のようにぽつりとつぶやいた。
「死の偽装、か……」




