10 賊の身元
ヴィルがそれぞれの者達に言った。
「クリスを死なせるわけにはいかん、絶対に助けるぞ。ドロシーと先生はここでクリスの容態を見続けてくれ、何かあればすぐに連絡するように」
ドロシーと医師がうなずく。
ヴィルがエドワードに向いた。
「エドワード、調査の報告を頼む。何か進展があったのだろう?」
「……進展ではありません、むしろ逆と言えるでしょう」
「どういうことだ?」
「賊の入った形跡を探していましたが、王宮の周囲に張り巡らせた結界魔法はどこも破壊された痕跡がありませんでした。一度解かれてから再構築された痕跡も。これが意味するところはつまり……」
エドワードが言い淀むなか、ヴィルはジルと視線を交錯させる。先ほど執務室で話した予測が、いっそう確かになったからだ。
……賊はこの王宮内の関係者のなかにいる……。
ヴィルがエドワードに指示を飛ばした。
「エドワード、お前の女性部下を一人、ここに呼べ。いますぐに」
「殿下……?」
とっさにはその理由が分からず、問い返そうとするエドワードにヴィルが説明する。
「賊はこの王宮内、それも最悪の場合、私達の見知った者である可能性が高い。よって、今後は賊が見つかるまでは最低三人のグループで行動するんだ。お前の部下を呼び、ドロシーと先生との三人組でクリスを見させることにする」
ヴィルがジルに言う。
「ジルは、私がいま言ったことを通信魔法具で王宮内の者達に伝達しろ。ちゃんと三人以上で組んだかチェックも怠るな」
「了解致しました」
ジルが通信魔法具を起動させる。エドワードも起動させて女性の部下と連絡を取り始めた。
ヴィルがドロシーと医師に向いて言った。
「聞こえていたと思うが、話の通りだ。賊はここにいる可能性が高い。二人も充分注意してくれ」
ドロシーが不安そうに口を開いた。
「それってつまり、私達自身も疑惑の対象になっているということですよね……?」
「…………、答えにくいが、正直に言うしかないだろう。ドロシーの言う通り、容疑者は王宮内の者全てだ。私以外の者にとっては、私もその一人ということになる」
「……っ」
医師が口を挟んだ。
「問題は、賊の身元でしょうね。元々王宮に仕えていた者が裏切ったのか、ここ数年内に仕え始めた者がそうだったのか、それとも……元いた者を殺して成り代わったのか」
最後の可能性にドロシーが息を飲んだ。親しい者が賊かもしれないというのもショックだが、もしかしたら親しかった者が殺されているかもしれないという残酷な現実もあり得るのだから。
ヴィルが答える。
「賊の身元に関しては分からん。だからこそ、あらゆる可能性を考慮すべきだ。万全を期さなければならん」
「……ですね」
医師が重々しくうなずき、ドロシーも顔面蒼白になりながら小さく首を縦に振る。




