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【白い結婚 -王女ですが婚約者に他に愛する女性がいると言われました-】  作者: ナロー
第3章 

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9 デッドライン


「どうだった?」

「睡眠魔法は基本的に近距離から中距離の魔法であり、遠距離以上の距離からは使えないか、使えても効力は低いとありました」

「……つまり、クリスを眠らせた者は、この王宮内か、その近くにいると?」


 ジルは重々しくうなずいた。それの意味するところを理解しているからだ。


「クリスティーナ様を眠らせた睡眠魔法はとても強力なものです。それを遠距離から使えたとは考えにくい……賊はこの王宮の関係者の中にいます」

「……っ!」


 それはつまり、ヴィルやクリスやジルの知っている者が犯人だということ。いままで親しく接してきた者が、裏切ったということ。


「……厄介なことになったな。賊の正体や動機について、目星は?」


 裏切られたという事態にショックは確かにあるものの、いまは引きずったり悔やんだりしている余裕はない。早くなんとかしなければ、クリスや他の者達、そしてヴィル自身すら殺されてしまう可能性があるのだから。

 ジルは無念そうに首を横に振る。


「まだそこまでは……。これからさらなる調査をします」

「…………」


 ヴィルは押し黙ってうなずいた。そのときヴィルの指輪型の通信魔法具に連絡が入る。王宮医師からだった。


『殿下、クリスティーナ様が再び眠られました。……あの睡眠魔法です』

「……! いま行く!」


 通信を切って、ヴィルがジルを見る。ジルはうなずき、ヴィルは彼とともにクリスの私室へと急いで戻っていった。

 二人がクリスの部屋に戻ると、室内にはエドワードもいた。


「戻っていたのか、エドワード」

「はい、連絡することをうっかり失念してしまい、申し訳ありません」

「……お前が連絡を忘れるくらいのことがあったわけだな?」


 エドワードは首肯した。しかしそれを話す前に、クリスを横目に見ながら言う。


「しかし殿下、いまはそれよりもクリスティーナ様の容態を聞くことを優先しましょう。私もいま来たばかりで、事態を聞いていませんので」


 その場の者達がベッドそばでクリスの様子を診ていた医師を見る。女性医師は彼らに向き直ると、一度目の睡眠魔法のときよりも深刻な顔で口を開いた。


「再びクリスティーナ様にかけられた睡眠魔法ですが、今度は先のものよりもいっそう強力になっているようです。意識の潜行具合が非常に深く、昏睡状態に近くなっています」

「それは、まさか……」


 医師の言いたいことをいち早く察したヴィルが息を飲む。医師はうなずいて、告げた。


「このままではいずれ意識が完全に埋没し、脳の中枢部が機能不全に陥ってしまうでしょう。補助なしでは呼吸すら出来なくなり、死亡してしまいます」

「……っ!」


 ヴィルを含むその場の全員に衝撃と緊張が走る。医師は続けて言った。


「そして呼吸の補助をしたとしても、そのままの状態が続けば、呼吸しているだけで脳は死亡と同じ状態へと陥ります」

「息をしているだけの脳死状態というわけだな」

「……そうです」


 ヴィルの確認に医師は重々しくうなずいた。ヴィルは尋ねる。


「タイムリミットはいつだ?」

「……おそらく、夜明けくらいだと思われます。いまの季節であれば、六時くらいでしょう」


 ヴィルが壁の時計を見る。他の者達も見上げて……ヴィルがつぶやいた。


「……あと五時間程度か……」


 それがクリスが助かるか死ぬかのデッドラインということになる。もはや時間を無為に過ごすわけにはいかなくなった。



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