8 魔法書
睡眠魔法が途切れたことで意識もはっきりしてきたのだろう、さっきよりは明瞭な様子でクリスはヴィルに言った。
「ドロシーから聞いたわ。私、疲れていつの間にか眠ってしまっていたみたいね。みんなを騒がせちゃったみたいで申し訳ないわね」
ヴィルがドロシーを見ると、彼女は小さくうなずいていた。クリスに余計な不安や心配をさせないために、なにが起きたのかは言っていないらしい。
(クリスへの説明は、いまはやめておこう。少なくとももう少し経ってから、朝になって事態の状況を見てから……彼女を不安にさせないためにも)
そう思いながら、ヴィルはクリスに声を掛ける。
「編み物を頑張りすぎたんだろう。手元ばかり集中していて、細かい作業が続いたから、目と手と頭が疲れたんだろうな。今日はもうゆっくり休むといい」
「……ええ、そうね」
クリスはヴィルを見つめて、そう答えた。なにか他にも言いたそうな、あるいは聞きたそうな顔をしていたが、結局なにも言わずにベッドへと横になる。
そのときドアがノックされた。ジルの声。
「失礼致します。ジルです」
「いま行く」
ヴィルは答えてから、医師とドロシーに言った。
「先生、ドロシー、あとは頼みます」
二人がうなずいたのを見てから、ヴィルはドアへと向かった。
「……もう……ヴィルは心配性ね……」
クリスのつぶやき声が背中に聞こえていた。
ヴィルが廊下に出ると、ジルが恭しく頭を下げてから口を開く。
「どうですか、クリスティーナ様の容態は?」
「目が覚めて、ベッドに横になっている」
「⁉」
「何故睡眠魔法が解けたのか、理由は不明だがな」
「……敵が標的を変えた、ということでしょうか?」
「…………、分からん。分からんが、いまのうちに出来ることをするべきだ」
ジルがうなずく。
「対抗魔法の使い手を探し、連れてくること、ですね」
「そうだ。無論、クリスを狙った者の捜索も続行しながらな。それらはエドワードと彼の部下がやっているが……ジルの調査結果はどうだった?」
「……ここではあれですので、執務室に移りましょう」
「…………」
ヴィルはうなずいた。ジルがこのように言うということは、なにかしら判明したことがあるということだった。他の者に、特にクリスに聞かれないようにするために場所を移動するのだと。
執務室に移動して、ドアも閉めて誰にも聞かれないことを確認してから、ジルが口を開く。
「私が調べたことはいくつかありますが、まず第一に睡眠魔法の詳細について調べました」
「魔王に聞いたのか?」
「私程度の魔法士に答えてくれるほど、魔王は優しくありません。直接話す方法もありませんし。睡眠魔法について記述されている魔法書をいくつか当たってみました」
「魔法書か」
魔法書にはそれぞれの魔法の種類や体系、どの『存在』と契約すればどんな魔法が使えるのかなどが書かれてある。
無論、たいていの魔王はそんなものを書くわけがなく。魔法書を残しているのは、ほとんどの場合、魔王と契約している者だった。




