7 寝ぼけ眼
医師がヴィルに言った。
「殿下、大丈夫だとは仰られましたが、昼間の執務の疲れも溜まっているはず。やはり休まれた方がよろしいかと」
「問題ない。体力には自信がある」
「しかし……」
そのときクリスが寝苦しそうな小さな声を発した。三人がはっとなって彼女に注目し、ヴィルに至っては椅子から腰を浮かせた状態になっているなか、クリスがうっすらと目を開ける。
「クリス!」
「「クリスティーナ様⁉」」
叫ぶように同時に言った三人の声に、クリスは顔だけを少し動かして見る。いまだに夢のなかにいるような寝ぼけ眼で、ぼんやりとした様子で口を開いた。
「ヴィル……? ドロシーと先生も……?」
ドロシーというのは専属メイドの名前である。クリスは怠そうに上体を起こしながら。
「やだ……私、いつの間に眠っちゃってたのかしら……?」
そう言って、頭痛を押さえるように頭に手を当てていた。ヴィルは思わず、そんな彼女の手を取って真面目な声を掛ける。
「大丈夫か、クリス⁉ どこか痛むのか⁉」
「ヴィル? どうしたの、そんな怖い顔して……? 私なら大丈夫よ……?」
ただ寝ていただけなのに、なぜそんなにも真剣で怖い顔をするのか、クリスには分からなかった。ヴィルは医師のほうを見て、小さくうなずいた医師がドロシーに言う。
「ドロシーさん、クリスティーナ様のご様子を見ていてください。私は殿下と少し話をしてきます」
「かしこまりました」
ドロシーがクリスの身体に手を添えて再びベッドに休ませるなか、ヴィルと医師はいったん部屋から出た。ドアは薄い隙間から様子が分かるように少しだけ開けておき、しかし話し声は聞こえないようにひそひそと小声で話し合う。
「先生、クリスは目覚めたが、まさか睡眠魔法が切れたのか? 行使者がクリスを狙うのをやめたのか?」
「狙うのをやめたのかどうかは分かりませんが、睡眠魔法が一時的に途切れたのは確かです。いまのうちに何か策を講じるべきかと」
「策……策か」
「私も考えていたのですが、こうして目覚めることが出来たのならば、再び睡眠魔法に掛からないように対抗魔法を扱える方をお呼びするのが良いかと。あいにく私は使えないので、申し訳ありません……」
「謝るな。しかし対抗魔法か……」
「申し訳ありません、もっと早く言うべきことでした」
「いま悔やんでも仕方ない。それよりはいま出来ることを考えるべきだ。……対抗魔法は高等魔法に属する魔法だ、扱える者は私も心当たりがない。ジルとエドワードに聞いてみよう」
ヴィルが指輪型の通信魔法具を使って、二人に同時に連絡を取る。空中に浮かぶ二つのウィンドウにジルとエドワードがそれぞれ映った。
二人とも寝る間も惜しんでクリスを狙った者の調査をおこなっていた。その二人にヴィルが対抗魔法の使い手について尋ねるが、二人は残念そうに首を横に振った。
エドワードが言う。
『至急、部下に命じてそれに関しても調べておきましょう』
「頼む」
ジルも口を開く。
『私はいますぐそちらに向かいます。もしまたクリスティーナ様を狙うことがあれば、その際に探知が出来るかもしれません』
「分かった。待っているぞ」
二人との通信が終わり、ヴィルと医師は再び室内へと戻っていく。クリスはまた上体を起こしていて、ドロシーが用意した白湯に口をつけていた。




