5 眠り
数日後、トラルセン王宮の執務室にて。ヴィルからの依頼を受けていたエドワードが経過報告をしに訪れていた。
「申し訳ありません。現状、いまだに魔王及びその関係者との接触は成功しておりません」
「そうか……いや、謝る必要はない。元より無茶な注文なんだからな。そう簡単に上手くいったら、それこそ怪しんでしまう。本当に魔王とその関係者なのかとな」
「……今後も引き続き探索を続けて参ります。これからはさらに範囲を広げて……」
エドワードが今後の方針について述べていたとき、廊下から慌ただしい足音が駆けてきて、執務室のドアがノックもなく思いきり開かれた。そこに立っていたのは息を切らした一人のメイドだった。
クリスの専属メイドだった。彼女が慌てた様子で言う。
「大変です殿下!」
「君! いま殿下は執務の最中だぞ! 無礼な……」
メイドを怒鳴りつけたジルをヴィルがなだめる。
「まあそう怒鳴るな、ジル」
彼はメイドに顔を向けて。
「君はクリスの専属メイドだったね。何が起きたんだ?」
荒い息を整えることも忘れて、メイドは叫ぶように言った。
「クリスティーナ様が倒れられました!」
「「「⁉」」」
ヴィル、ジル、エドワードの三人が驚愕に彩られる。なかでもヴィルの衝撃は人一倍で、彼はメイドの言葉を聞くが速いか即座に立ち上がり、執務室を飛び出してクリスの私室へと駆け出していった。
「「「殿下⁉」」」
ジル達の声も耳に入らない様子で、彼は廊下を駆けていく。いつも歩いているはずの廊下が長く感じ……実際に執務室とクリスの私室はそれなりの距離があったが……彼はいつも以上に、まるで永遠に辿り着かないかのような錯覚を覚えるほどに長く感じた。
そしてクリスの私室が見えてくる。ドアは開いていた。普段なら開けっ放しにしていたメイドを叱りつけるところだろう。
しかしいまのヴィルにとっては、そんなことはどうでもいい些事だった。むしろ一刻も早くクリスの容態を知りたいので、開いたままのドアに感謝するくらいだった。
「クリス!」
そのドアに着くやヴィルは大声を響かせた。なかにはベッドに横たわるクリスと、彼女を診察する女性の王宮医師、心配そうに見守る数人のメイド達がいた。
ヴィルがやってきたことに気付いた医師が振り返った。
「殿下……クリスティーナ様は少し前にお眠りになられました。いえ……気絶と言った方が正しいかもしれません」
「容態は……⁉」
室内に入りながらヴィルが尋ねる。ベッドにいるクリスは、医師が言う通り安らかな顔で眠りに就いていた。




