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【白い結婚 -王女ですが婚約者に他に愛する女性がいると言われました-】  作者: ナロー
第3章 

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4 良いことなのか悪いことなのか


 トラルセン王宮内、ヴィルヘルムが夫婦のリビングルームに行くと、ソファに妻のクリスティーナが座って編み物をしていた。

 夫が来たことに気付いたクリスティーナが編み物を置いて立ち上がり、頭を軽く下げる。


「お帰りなさい、ヴィル。今日もお仕事お疲れ様」

「わざわざ立ち上がらなくていいよ、クリス。編み物を続けておいで」


 ヴィルがクリスの向かいに座るのを待ってから、クリスも再び腰を下ろした。グラスにワインを注ぐ彼に、編み物を手にしながらクリスが言う。


「今日のディナーはステーキだそうですよ。お仕事で疲れているヴィルに栄養をつけてほしいからと、コック長が言っていたとメイドから聞きました」

「又聞きか」

「ええ。わざわざディナーのメニューを聞きに厨房に行ったら、コック達をびっくりさせてしまいますからね」


 クリスは微笑む。真面目な顔も美しいが、微笑んだ顔も美しかった。

 ヴィルとクリスの婚約、および結婚は親同士の合意によって決められた。良く言えば許嫁、悪く言えば政略結婚であったが、二人の仲は結婚してからずっと良かった。

 それはひとえに、ヴィルがクリスに一目惚れし、クリスもまたヴィルに恋愛感情を抱いたからだった。結婚以前も以後も、ヴィルとクリスはお互いを大切に思い合っていた。


「そういえば、アンナさんのお仕事の件はどうなったんですか?」

「気になるのかい?」

「大切で可愛い義妹ですもの。お仕事をするということ自体も、私も興味ありますし」

「おいおい、君まで街に出て働きたいなんて言うなよ?」

「いまの私が街に出ては、民の皆に気を遣わせてしまいますわ。……アンナさんみたいに、表向き死んだことになれば分かりませんけど」

「…………」

「……申し訳ありません。笑い事に出来ませんでしたね」


 難しい顔をしたヴィルに、クリスが謝罪する。ヴィルはワインの波紋を見つめながら。


「……時々思うんだ。これは結果的に、アンナにとって良かったのか悪かったのか、って」

「ヴィル……」

「アンナの結婚が散々なことになって命すら狙われたのは紛うことなき不幸だ。死を偽装したことで素顔で外出したり、親しかった人と簡単に会えなくなったことも。しかし……その代わりとして、妹は自由を手に出来た」


 その言葉が示す通り、アンナは王族の決まりに縛られることなく、街のパン屋で一般人とともに働いている。


「言うなればアンナは王族でありながら王族では決して出来ないことが出来るようになった。それは妹にとって良かったことなのか悪いことなのか、考えさせられてね」

「…………」


 ワインをじっと見つめるヴィルに、クリスは穏やかな声を掛けた。


「良いことなのか悪いことなのかは私にも判別致しかねますが、それでも言えることが一つありますわ」

「クリス……?」

「いまのアンナさんは笑顔で日々を過ごすことが出来ている。でしょう?」


 顔を上げるヴィルにクリスは微笑む。それを見たヴィルは、


「……そうだな……」


 静かに答えて、溜飲を下げるようにワインを一息に飲み干した。




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