2 三番目の調査報告
気持ちを切り替えるように、ヴィルヘルムが話題を変えた。
「エドワード、二番目の調査報告を頼む。イワン=エイバーのその後の動向はどうなっている?」
エイバー王国の元王太子であり、現在は王位継承権を剥奪されてしまっているイワン=エイバー。アンナの元夫でもあり、以前の報告ではベアトリスが処刑されたあとはエイバー王国の僻地に飛ばされて、幽閉同然の生活を送っているとのことではあったが。
エドワードが答えた。
「イワン=エイバーは依然、エイバー王国の僻地で幽閉同然の生活を送っています。現在のところ、脱出したり反抗するような素振りは見られません」
「そうか。だが油断はするなよ、引き続き監視をするように。何かあればすぐに報告を」
「はっ。心得ております」
自分をこのような境遇に遭わせたトラルセン王家に復讐してやる……万が一、イワンがそのような逆恨みをしないとも限らないので、あの事件が解決したあともこうして監視を続行しているのだった。
ヴィルヘルムは口を開く。エドワードに頼んだ最後の調査報告を聞くために。
「三番目の調査報告はどうだ?」
そのヴィルヘルムの声と心境は、先の二つの調査報告を聞くときよりも緊張していた。彼はこの三番目の報告こそ、真に最重要事項だと考えていたからだった。
最も注意と警戒をすべき調査対象だと。
真面目な顔を崩さずにエドワードは答えた。
「……ベアトリス=バルトリスの死体は完全に焼却された後、遺骨すら粉々に砕いてから、超高温の炎魔法にて灰すら残さずに焼滅させました。ベアトリスの肉体は、文字通りこの世から完全に消え去りました」
「……そうか」
ジルが口を挟む。
「ベアトリスの死体を二度も焼く意味はあったのですか? 最初から炎魔法を使えばよかったのでは?」
「……念の為だよ。確実に焼滅させたと、安心する為のな」
「…………」
ヴィルヘルムの言葉にジルは押し黙ってしまう。ヴィルヘルムが独り言のようにつぶやいた。
「呪文の詠唱……自身の名前と、行使する魔法の概要を口上すること……。ベアトリス=バルトリスが死の際に言い放ったあの言葉は、その条件を満たしていたかもしれない」
ヴィルヘルムの脳裏にあのときの光景が蘇る。ベアトリスは自身の名を叫び、この世界の女王に相応しいと宣言していた。
ジルが彼の言葉に応じる。
「考えすぎでは……? 魔法の呪文には、最後に魔法名を述べる必要があるはずです。ベアトリスは述べていませんでした」
自身の『名前』によって行使者を特定し、魔法の『概要』によってその魔法をどのように扱うかを定義させ、そして魔法『名称』を告げることで実行する。
それがほとんどの一般的な呪文詠唱の流れである。
「またあの時のベアトリスには魔力は発せられていませんでした。魔力を封じる枷をしていたからです。よって魔法を行使出来るわけはありません。絶対に」
「…………」
ジルの断言に、ヴィルヘルムは押し黙る。




