25 しらばっくれても
要点をかいつまんで説明すると、状況に気付いたデニーが真面目な顔になった。路地の陰に隠れながら、アンナとエリスとともに視界の先の女性を見る。
「なるほどね。つまりあの人が、昨日の万引き犯かもしれないと。今日さっきもしてきたみたいだし」
「はい。そういえばデニーさんも今日休みでしたね。どうしてここに?」
アンナの問いにデニーが答える。
「私んちがこの近くだからね。天気が良いから気晴らしに散歩でもしてたら、二人を見かけたってわけ」
この辺りは乗り合い馬車の運行区間に入っている。デニーは普段はその乗り合い馬車に乗って通勤していた。
「そうだったんですか」
「うん。まさか私んちの近くに万引き犯が来るとは思ってもみなかったけどね」
その万引き犯の女性はというと、先程盗んだたまごサンドを鞄から取り出していた。最初は食べるのかと思ったが、包装袋を取ることもせずに、にやにやとしながら見つめているだけだった。
「どう、エリス?」
「……パンを見つめているようです……にやにやと」
「……え?」
聞いたアンナもまた改めて女性を見やる。確かにエリスの言う通りだった。アンナの心に得体の知れないわだかまりが芽生えるのを感じた。
三人の視線が女性へと注がれていたとき、公園の向こう側から一人の男性が歩いてきた。年齢は女性と同じくらいの四十代で、あまり洗濯していないようなよれよれの服を着ている。
男性が女性に声をかけたらしい、手を軽く上げて挨拶した男性に気付いて、女性がひらひらと手を振り返していた。
「まーた成功したらしいな」
「当然。あの店の店員達、揃いも揃って能天気だから。昨日も今日も簡単に盗めたわ」
万引きの話のようだった。
「飽きないねえ。たかが小銭くらい払えばいいのに」
「このスリルがたまんないのよ。毎日の疲れもストレスも、これで発散してるってわけ。ああ私は生きてるって実感出来るのよ」
「あはは、何だそりゃ」
彼らの話し声は路地にいたアンナ達にも届いていた。アンナ達はそれぞれ三者三様の反応を示していた。
エリスは、
(……なるほど)
と、女性の犯行動機に合点していた。生活に困っているようにもなにか事情がありそうにも見えなかった理由が、いま分かったという感じだった。
デニーはというと、男女を押し黙ったまま見つめていた。許せない気持ちを表すように拳を握っていたが、頭の一方では冷静に今後どうするべきか思考を巡らせているようだった。
そしてアンナはというと。
「……っ」
デニーと同じように拳を握り、しかし黙って見続けていることはできずに、路地から飛び出すようにして男女の元へと歩いていく。エリスとデニーが止める間もなく、アンナが近付いてきたことに気付いた男女の前に立ち止まって、アンナは言った。
「話は聞かせてもらいました! 犯行現場もこの目で目撃しています! 盗んだパンを返してください!」
「「……⁉」」
アンナの姿を見た男女は、パン屋の店員だと気付いたようだった。ベンチから立ち上がりながら女性が言う。
「な、何を言っているのかしら? これはさっき私がちゃんとお金を払って買った物よ!」
「私以外にも目撃している者はいます。購入したかどうかも会計魔法を確かめれば分かります。しらばっくれても無駄ですよ!」
「「……ッ⁉」」




