24 散歩?
「どこに向かっているのかしらね?」
「おそらくは自宅ではないでしょうか」
「それもそうか」
女性は港側とは逆方向の道を進み、街の端のほう、築年数の古そうな雑居ビルや平屋、ところどころに小さな公園や木立などがあるエリアを歩いていた。
このセアの街の中心部や港湾部、アンナが働いているパン屋付近などは人々で賑わい栄えていたが、いまいるエリアはひっそりと静かで人影も中心部に比べると少なかった。おそらく栄えている場所は観光などで最近栄え、こちらは昔ながらの面影を残しているのかもしれない。
そのエリアを進む女性の足取りに迷いはなく、明確な目的地に向かっているようだった。その彼女の後を、バレないように路地や建物や木の陰などに隠れてアンナ達は尾行していた。
「こっち方向は初めて来るわね。こんな場所があったんだ」
「あのパン屋からだと歩いて二、三十分程ですね。……わざわざその距離を歩いてまで、あそこを狙うとは……」
「…………」
……ご苦労なことですね。エリスはそう思った。その労力や時間を、万引きではなくもっと別のことに使えばいいのに、と。
アンナは、女性にも事情があるのかもしれないと言っていたが……やはりじいや同様、エリスにもそうは思えなかったのである。道の先を歩く女性には、そのようなことを感じさせるような悲壮感や切迫感がなかったのだ。
むしろ、それらとは逆の雰囲気さえ漂わせているような……。
二人が尾行を続けているそんなとき、不意に彼女らに声をかける者がいた。
「あれ? アンジェさんとエリスさん?」
「「っ……⁉」」
びっくぅ⁉と二人は身体をビクつかせた。慌てて声のほうに振り返ると、そこにはパン屋のマネージャーのデニーがいた。
デニーは私服で、地味な色合いの上着に長ズボンを着ていた。彼女の性格を表すような服装だった。
「何してんの? 散歩?」
「あ、ちょっ」
あの女性からは距離は離れているものの、万が一気付かれては大変だと思って、とっさにアンナはデニーの腕を取って自分達がいる路地の陰に引き寄せる。
わわっ⁉と、デニーがびっくりした声を出した。
「何すんのいきなり?」
「す、すみません、これには事情があって……っ」
慌てるアンナに、エリスも声にかすかな焦りをにじませて言った。
「アンジェ、あの者が公園に入っていきます。ベンチに座るようです」
あの者……?とデニーが頭に疑問符を浮かべた。アンナがエリスに答える。
「エリスはそのまま見てて。いまのうちに私がデニーさんに説明するから」
エリスがうなずき、視線を女性に投げる。依然疑問符を浮かべているデニーにアンナは向き直って、ことの成り行きを説明し始めた。




