22 昼休みの時間帯
「学生やOLらしきお客もいますな」
パン屋の向かいの建物の屋上、双眼鏡で監視の手伝いをしていたじいやがつぶやいた。隣にいるアンナが答える。
「休み時間にでも来てるんでしょ。まあ、いまは授業中のはずだけど、そこはほら、個人的なことには突っ込まないってことで。大事なお客さんだし」
「やれやれ。学業は学生の本分ですがね」
じいやが小さく嘆息する。学校の授業をサボって来店している学生が思いのほかいたことに、いろいろと憂いているのかもしれない。
そんなこんなでそれまでは無事に過ぎていき、やがて昼休みの時間帯になると客の数が増え出した。お昼ご飯として食べるパンを買いに来た客であり、店内のスタッフ達も忙しなく動き回っている。
「いつも通り、昼はさらに苛烈な戦場になりますね」
エリスがつぶやく。基本的に昼は客が多くなるので、出勤している店員は総出で対応に当たることになっていた。
いわゆる繁盛時ということであり、この時間帯に一気にパンを捌いて稼いでいくのである。お昼の時間帯が過ぎるとまた客足が戻るので、店員のお昼休憩は午後に交代で取ることになっていた。
「人が増えたので監視が難しくなってきましたな。外から見てこれということは、中の店員達は客を一人一人注意していられないでしょう」
不審げにつぶやいたじいやに、アンナが肯定する。
「あー、そうかも。少なくとも私はそうだったわ、まだ勤め始めて日が浅いってのもあるけど。エリスはどう?」
「カウンターの近くのお客様であれば、それとなく見ることは出来ますが……確かに、商品棚の陰や店の奥の方だと難しいですね」
「やっぱり?」
「はい。そういう点において言えば、お客様とお店の信用関係で成り立っているのかもしれませんね。あのお店に限らず、どこのお店でも」
「……かもね」
客も店も互いに相手を信用して、商品やサービスの提供をおこなっている……エリスはそう言いたいのだった。
じいやが先程よりも目を鋭くさせて言う。
「ならば、その隙を突かれる可能性は大いにあり得ますな。店内での監視が行き届きにくいのであれば」
「「…………」」
アンナが指示を出す。
「エリスは右側を見て。じいやは左側。私は真ん中を警戒するわ」
「「了解しました」」
三人がさらに監視の目を強くして双眼鏡を覗きこむ。
十二時半までは特になにも起きず、しかしそれでも油断はせずにアンナ達は警戒し続けていた。アンナがつぶやく。
「いつもずっと監視が出来る魔法とかが使えればいいんだけどね。そうすれば万引きも他の犯罪も、もっと減るだろうに」
いまのこの監視も含めてのことなのかもしれないが、魔法で自動的に監視が出来るようになればという気持ちからのつぶやきだった。
警戒は怠らないままエリスが答える。
「一応、魔法での監視も存在することは存在します」
「そうなの?」
「はい。遠方から特定の範囲のものを見たり、魔法生物や使い魔による監視をしたり。ですが、いずれも高等魔法に属するので、一般の方の習得は難しいかと」
遠隔視の場合は、離れた空間同士を視覚的につなげる必要があるため、空間魔法や通信魔法や感覚魔法などを複合させることになる。またそれを維持することにも多量の魔力を注がなければならない。
魔法生物や使い魔の場合は、視覚などの感覚を共有しているかどうかにもよるが、魔法生物の生成や使い魔との契約、そしてそれらの維持にもやはり魔力を使うので、一般人で習得するのはかなり難しいのだ。
「執事長も習得していなかったはずですよね」
「……燃費が良いものとは言い難いからな。短時間ならともかく、長時間やそれこそ常時使うとなると、膨大な魔力を消費することになる。それで出来ることが『視る』ことならば、最初から人で見張れば済む話だ」
エリスの言葉にじいやが答えた。いろいろな魔法を使える便利なじいやだが、これに関しては未習得らしい。




